5章 12. 寝転がる試験官達
最終第3試験は試験官との1対1の模擬戦。これに合格すればようやく魔法師団に入団することが出来るとあって、嫌でも腕がなる。
「さて、俺の相手は誰かな?」
『ピィッ!(誰が相手でも負けませんよ!)』
既にライチと融合して準備満タンな俺は、試験会場の扉を勢いよく開けた。
そこで俺を待っていた試験官は――
「よく来たなひよっこ!俺が相手をしてやる!」
「なるほど、あんただったか」
そこに居たのは、第2試験で試験官を務めていた色黒の男だった。
豪快で荒っぽい口調が特徴的な、軍曹のようなイメージの奴だ。
「貴様は第1試験、第2試験共になかなか面白い成績を見せてくれたからな。試験官でも屈指の実力を持つ私が相手をすることになったのだよ!」
「そりゃ買い被りすぎだ。第2試験はともかく第1試験の結果はたまたまだよ」
「ふっ、その言葉が謙遜かどうか、この私が直々に確かめさせてもらうぞ!」
どうやら俺は試験官達に過大評価されているらしいが、本物の化け物は他に4人いる。
俺もあいつらに負けないよう全力で挑むとしよう。
「いくぞ、ヴァジュラ!」
俺は試験官目掛け先制で雷撃を放った。雷は眩い輝きとともに、一直線で襲いかかる。
「甘い!グランドトレンチ!」
だが、俺の雷撃は試験官の作り出した土の壁によって阻まれる。
激しい爆音と共に土の壁に衝突したが、俺の雷撃は試験官まで貫通することはなく途中で止められた。
「むっ、硬いな……」
「グランドマイン!」
あの硬い壁をどう突破するか頭を悩ませていると、突然足元が大爆発を起こした。
自分は壁の裏に隠れ、その影から攻撃を仕掛ける。見た目に似合わず意外といやらしい攻め方をする奴だ。
「んぐっ!」
『ピイィー!?(大丈夫ですか!?)』
「ああ、ちょっと食らったけど問題無い」
突然の爆発だったので反応が遅れてしまったが、それでもライチの速度強化のお陰でかすり傷程度で済ませることが出来た。
「ほらほらどうした!こんなものか!?」
しかし試験官は攻撃の手を緩めることは一切なく、ひたすらに爆撃を繰り返す。
このまま逃げ続けていても埒が明かない。
「あいつの攻撃は地面を爆発させてるのか。それならいっそのこと利用してやるよ!」
俺は逃げる足を止めて地面に手をつけ、同時に地面全体に行き渡るように雷を流し込んだ。
その瞬間、俺の雷撃と奴の爆撃が合わさり先程とは比べ物にならない爆音と共に、地面が一斉に吹き飛ぶ。
当然俺の足元も爆発によって吹き飛ぶのだが、仕掛けた張本人である俺はその爆発を予想し、すでに離脱済みである。
「うおぉ、なんて奴だ!まさか自爆するとは……!」
「バカ言うな、自爆じゃねぇよ」
「なっ!?」
試験官は俺が玉砕覚悟の攻撃をしたのかと思ったのだろう。だから突然俺が背後に現れたことに度肝を抜かれたような顔をしていた。
そう、さっき足元全体を爆発させたのはただこいつの油断を誘うためのフェイクで、本命はこうして近接することにある。
「どうやって――」
「終わりだ、ヴァジュラ!」
「ぐがああぁぁぁ……!」
奴が何か言う隙も与えず、俺は左手で奴の頭を掴むとそのまま強力な電撃を流し込む。
ゼロ距離からの攻撃には土壁も全く意味は無く、直撃した試験官は意識を刈り取られた。
「うしっ、俺たちの勝ちだなライチ!」
『ピィッ!(当然ですね!)』
俺は気を失って横たわる試験官を前に、ライチと勝利を分かちあった。
やはり1対1なら俺達が負けることはありえない。最終試験は大したこと無かったな。
こうして試験官との模擬戦に勝利した俺は、気絶している彼を担ぎつつ最初に集合していた場所に戻ることにした。
――
最初にいた場所に戻ってくると、そこにはすでに魔人4人が勢ぞろいしていた。
彼らの後ろには当然のように試験官が横たわっている。
「ダーリーン!お疲れ様―!」
「おう、シンリーもな」
俺の姿を見つけるや否や、シンリーは元気に声を上げながら抱きついてきた。試験が全て終わったのもあって感情が昂っているようだ。
「よう大将、遅かったな」
「はぁ、速さは俺達の専売特許だってのに、パワーバカのこいつらには勝てないか……」
速さだけならライチは魔人達の誰よりも速いというのに、こういう試験という仕組みだとパワーがある方が早く終わるということか。
「むっ、これは……!」
と、そんな風に魔人達と談笑していると他の試験官と受験者達がぞろぞろと戻ってきた。
そして最初に入ってきたあの女性試験官が、俺達の後ろに寝転がる試験官達を見て驚きの声を上げる。
「まぁいい、試験結果は昼過ぎに発表する。一時解散だ」
最終第3試験の試験官もその惨状に驚きを隠せないでいたが、それでも冷静に対応しこの場は解散となった。
結果発表は午後からとなったので、俺達は一旦その場を去ることにする。
「さて、これで試験は全て終わったわけだし、改めて今後の予定を確認しておくか」
「うん」
「はーい」
「おう、そうだな」
「分かりましたわ」
修練場を出た俺達は、適当な飲食店に入ると昼食をとりつつ今後の予定を確認する。
全員真面目な話をすることを察してくれたのか、昨日の夜と違って真剣な表情になっていた。
「魔法師団に入団したら、獣人族達の情報を集めつつ、この国の仕組みを知る。そして、今後どうやって獣人族達を救い出すか計画を練るんだ」
「今日戦った限りだと奴らは大したこと無かったし、このまま攻め落としてもいいんじゃねぇか?」
「いや、1人1人が弱くとも徒党を組まれると数が多くて時間がかかる。その間に獣人族達が人質になる可能性は高いからそれはダメだ」
「そりゃそうか……」
この中だと1番獣人族と親しいガンマは、今すぐにでも彼らを助けだしたい気持ちでいっぱいだろう。
だが今派手に動いてもし失敗でもしたら、今後はより一層警備が厳しくなりここまで潜入することなど不可能になる。
だから今は気持ちを抑え沢山の情報を集めることが大切なのだ。
「とにかく怪しまれないように慎重に行動するぞ。ここからが本番だからな」
「「「了解!」」」
全員で目的を再確認したところで、昼食を食べ終わった俺達は修練場へと戻った。
そこにはもうほとんどの受験者が集まっている。そろそろ結果発表が近いようだ。
と、そこへ第3試験の試験官が数枚の紙を持ちながらやって来る。恐らくあそこに今回の合格者が記されているのだろう。
まぁ俺達は合格条件を確実に満たしているので心配はしていないが。
「それではこれより合格者を発表する。灯、ドロシー、シンリー、ガンマ、シーラ、ジード、レナリア、ザリュー。以上8名だ。名を呼ばれた者はついてこい」
合格者は8人だった。俺達5人が合格するのは当然として、他に3人も合格しているのは驚きだ。
この魔法師団の入団試験は毎年合格者は1~2人か多くても3人らしいので、8人は異例の数だろう。
まぁ俺達がいなかった場合は3人なので、例年通りと言えば例年通りなのだが。
「8人か、せっかく僕の晴れ舞台だと言うのに、余計な者が多過ぎますね」
「まぁまぁ、どうせほかの連中はまぐれなんだし気にすんなよ。俺達が最強なことに変わりはないさ」
「それもそうですね」
俺達の前をそんなことを言いながら歩く2人の合格者がいた。
恐らくあいつらがジードとザリューだろう。そういえば片っぽのキザな金髪には見覚えがあるな。どこで会ったんだか。
「おい灯、何してる?早く来い」
「え?あ、ああ、はい」
つい同じ合格者の金髪が誰なのか、考えてこんでしまっていたらしい。いつの間にか皆と距離があいてしまっていたようだ。
そうして歩いていき修練場の一室に到着すると、そこでは俺達を相手していた試験官が待ち構えていた。
「よぉ、さっきはやってくれたな」
俺の前にやってきたのは、俺の模擬戦の相手だったあの色黒の男だ。
「どうも、もう平気なんですね」
「やかましいわ!次はそう簡単にはいかないからな」
「はは、肝に銘じておきますよ」
まだ2時間も経っていないのに、彼はケロッとした表情をしており、痺れは一切残っていない様子である。
そのことから相当優秀な回復魔法の使い手がいることが伺えるが、それを踏まえた上で彼のタフさも相当なようだ。
「俺の名はマークだ。これからよろしくな新入り!」
「よろしくお願いしますマークさん」
マークさんは、豪快ではあるが明るく気のいい先輩だ。彼となら仲良くやっていけそうな気がする。
「ほらよ、これがお前の制服だ」
「ありがとうございます」
俺はマークから魔法師団の制服を受け取った。これで晴れて俺も魔法師団の一員である。
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