5章 11. 最終第3試験

 強そうなじいさんさら受験票を奪った俺は、そのまま修練場へと足を運ぶ。


 最後にじいさんが何か言った気がしたが、今はそれを気にしている場合じゃない。


 街中での戦闘は禁止され、尾行も失敗したとなれば、後は速さを活かして無理やり奪うしか、方法が無かったのだから。




「じいさんには悪いことをしたかな」




『ギギッ!(仕方ないでござるよ。戦闘が禁止されては真っ向から向き合うなど無理でござるからな)』




 ぽつりと呟いた一言にイビルが慰めの言葉をかけてくれたところで、俺達も修練場へと戻ってきた。


 終了内にはなぜか横たわっている魔法使いが何人かいる。そいつらのことは気になるが、今は無視して試験官に手に入れた封筒を手渡した。




「お預かりします。試験終了までまだ少しお時間はありますが続けますか?」




「えぇ、もちろん」




 日暮れまであと2時間ほど時間は残っているので、俺はそのまま再び街中へと駆け出した。


 封筒の中にはダミーもあると最初に試験官は言っていたから、1つだけだとさすがに不安なのでギリギリまで探すことにしたのだ。




「あと少し頼むぞイビル!」




『ギギッ!(承知でござる!)』




 こうして俺は試験終了までの数時間、街中を駆け回ることとなった。
























 ――
























 試験終了まで残りの時間駆け回った結果、最終的に俺は5枚の封筒を入手することに成功した。


 結局俺が近づいたことに気づいたのは最初のあのじいさんだけ。


 それ以外の俺が目をつけた魔法使いは誰1人として俺の存在に気付くことなく、封筒をかすめ取ることに成功したのだった。




「受験票の封筒は全部で6通ですね。では結果が出るまで少々お待ち下さい」




「はい」




 試験官に封筒を渡し終えた俺は、ちょうど近くにいたシーラと合流した。




「貴方様、お疲れ様でしたわ」




「ああ、シーラもお疲れさん。そっちはいくつ見つけられたんだ?」




「わたくしはたったの2通だけですわ。やはり地上での行動は苦手で……」




 シーラは封筒を2通しか見つけられなかったらしい。ダミーが全体の何割あるか分からないから、少々不安な数字ではある。


 と、そこへ先に試験を終わらせていたらしいドロシー、シンリー、ガンマの3人がやってきた。




「大将に海、お疲れさん」




「お疲れ、そっちは早く終わったみたいだね」




「俺はお前らより少し先だが、泥と森はかなり早く終わったらしいぞ」




「ご主人様、私の勝ち」




「ふふーん、私が1番だったのよダーリン!」




 シンリーは花粉などこういう試験に向いた便利な能力が沢山ある。だから1番最初に終わるのは予想出来ていた。


 だが、その次に終わったのがドロシーだったとは意外だ。戦闘面ばかり秀でているかと思ったが、意外と探索も得意らしい。




「そういや俺が来た時はやたらと人が転がってたんだが、最初に来たなら何か知らないか?」




 ドロシーの意外な特技に驚いていると、ガンマがそんなことを聞きだした。


 そういえば俺も最初は焦っていたからスルーしたが、よく考えてみれば人が転がってるなんて不自然すぎる。


 シンリーが何か知ってるなら俺も知りたい。




「ああ、あいつらなら私がやったのよ」




「はぁ!?お前何してんだよ!?」




「何って襲われたから反撃しただけよ。なんか私の見つけた封筒をよこせとか言ってたわね」




「ああ、そういうことか……」




 この試験は街中では攻撃魔法を禁止しているが、逆を言えばこの修練場内なら魔法は使い放題である。


 だから何人かの魔法使いはここに留まって、誰かが受験票を探し出してきた時に奪うつもりだったらしい。


 ただあいにくその相手はシンリーだったので、見事に玉砕したというわけだ。




「ふん、先に手を出してきたあいつらが悪いのよ!」




「まぁルール違反はしてないから問題は無いだろ。それにシンリーが全員倒しておいてくれたお陰で、後から来た俺達は楽出来たわけだし」




 シンリーが待ち伏せしていた魔法使いを全員倒していなかったら、その矛先は俺達に向いていた可能性も十分ありうる。


 まぁ襲われたとしても返り討ちにすればいちだけなのだが、その時間が勿体ないのでシンリーには感謝するべきだろう。




「集計が終了した!これより第2試験の合格者を発表する!」




「っと、いよいよか」




 魔人達と話をしていたら、とうとう第2試験の結果発表の時間がやってきた。


 俺が集めた封筒は6通だが、その中に次の試験の受験票が入っていれば良いのだが。




「ジード、ザリュー、ゲンナ……」




 次々と合格者の名が呼ばれていく中、固唾を飲んで待っていると、とうとう俺達の名前も呼ばれ始めた。




「シンリー、ドロシー、ガンマ、シーラ、そして最後は、灯!以上20名が第2試験の合格者だ!」




「よしっ、やったな皆!」




 全員の名前が呼ばれたことに一息つくと、全員と顔を見合わせた。


 シーラはどこか安心したような表情をしていて、他の面々は当然といった感じでニマニマと笑っている。


 俺はそんな彼らと共に、次の試験の説明を受けるため移動する。




「次の最終第3試験は明日行う。その試験内容は、シンプルに我々試験官との模擬戦だ。勝てば合格、勝てなくとも見込みがあると判断すれば合格となる。全員気合いをいて望むように」




 最後の試験の試験官は、クールだが少し暗い印象のお兄さんだった。


 試験内容もこれまでと比べるとなんの捻りもないシンプルな内容のものである。真っ向からの戦いなら、俺達が負けるはずもないしもう心配する必要は無さそうだ。


 こうして説明を受けた俺達は、宿へと帰宅した。




「ふぃー!やっぱ疲れた後の酒は最高だぜ!」




「ここの料理美味しい」




 宿に帰ると早速夕食にした俺達だが、ドロシーとガンマが盛大に楽しんでいた。


 明日の最終試験を合格すれば魔法師団として働けるとはいえ、今の所持金は心許ないので少し不安だ。




「そういやシーラからは聞いたが、ドロシーとガンマはよくさっきの試験合格したよな。探索系とか苦手そうなのに」




「私は地下道で見つけた」




「俺ぁ、賭博場で取引されてるのを見つけたんだよ」




「えぇ……、地下はまだ分かるけど賭博場ってなんだよ……」




「知るかよ、賭けに出されてたんだから」




 地下には水路が張り巡らされていて、そこにも封筒が隠されていたらしい。泥であるドロシーならではの見つけ方だからこれには納得出来る。


 だが、賭けにまでだされていたとは驚きだ。本当に帝都の至る所に隠されていたらしい。


 というかそんなギャンブルに勝ったガンマもかなり凄いが。




「ご主人様、そんなことよりご飯食べなよ」




「そうそう、過ぎたことなんてもういいじゃないダーリン!」




「はぁ、まぁそれもそうだな。そんじゃ俺もいただくとするか!」




 他にも封筒がどこに隠されていたのか気になるところだが、ドロシーの言う通りもう終わったことに目を向けるよりも、今は目の前の食事に集中することにした。




 そうして一夜が明け、とうとう最終試験当日がやってきた。


 誰かは分からないが、試験官を倒せば今日魔法師団への入団が決まる。


 俺達は今一度気を引き締め直すと、修練場へとやってきた。




「受験者は全員集まったな。ではこれより最終第3試験を始める。対戦する試験官はこちらでこれまでの成績を考慮して決めさせてもらった。全員全力でかかってくるように」




 戦う試験官はこれまでの成績を考慮して決められたらしい。


 出来れば楽な相手だといいのだが、そうもいかないのだろうな。




「へへっ、全力でやっていいってよ」




「お前らは殺さない程度に手加減しろよ」




「ちぇっ、つまんねーの」




「これから仕事の先輩になる人を殺してどうするんだよ……」




 ガンマは帝国の奴らには恨みがあるから仕方ないとは思うが、それでも今は潜入調査中なのだから少しは自重してほしいのだ。




「では各自割り当てられた部屋へ迎え。そこで試験官と模擬戦後、昼を挟んで結果を発表する」




 試験官の兄さんの指示に従い、俺達は割り当てられた部屋へと向かった。


 こうしてようやく、最後の第3試験が始まるのである。

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