5章 4. シンリーは魔人の中で最強

 獣人族が想像以上に頼りなかった為、結局俺達が帝国の奴らから情報を引き出すことになった。


 しかし捕虜に関して人数だけは沢山いるので、擦り合わせ等を行うことで有力な情報をいくつか手に入れることに成功したのだった。




「な、なんと恐ろしい……!」




「これが、人のすることなの……!?」




「うっさい!お前らも情報を引き出すんならこれぐらいやれよ。だから舐められて適当な嘘をつかれるんだ!」




 獣人族達は、俺らのやった情報を引き出す為の拷問じみた行為にただただ呆然としているだけ。


 俺達がやったことと言えば、まず俺はライチと融合して雷を纏ったアイアンクローで、魔法使いの頭を焼くこと。


 ガンマは熱で魔法使い達の足元を焼き石にして、足の裏をこんがり焼く。


 シーラとドロシーは海水と泥で窒息させ、ギリギリのところで息をさせるのを繰り返す。


 そしてらシンリーは催眠系の花粉を散らす花を咲かせ、魔法使いを操って情報を引き出した。




「しかし、シンリーはほんと何でも出来るな」




「ふふーん、船以外なら任せてよね!」




 ぶっちゃけシンリーの能力があるなら、俺達は何もしなくてよかっただろう。


 回復も攻撃もでき、その他サポート系も様々な花粉で対処可能。船に弱いことを除けば、シンリーは魔人の中で最強かもしれない。




「ともかく有力な情報も手に入ったし、早速明日にでも帝国へ向けて出発するか!」




「「「おー!」」」




 帝国の魔法使い達から得た情報で役に立ちそうなのは、以下の3つである。


 ・帝国は内戦が多い国なので、奴隷となった獣人族は兵として扱われる。


 ・帝国は実力主義の国なので、魔法使いとして実力の高い者が貴族になれる。


 ・近々、帝家直属の精鋭隊「魔法師団」の入団試験が行われる予定。


 その他地理系統の情報も多数手に入れたので、これらを駆使して俺達は帝国内へ潜入する。




 この島でするべきことは全て終えたので、後は帝国へ向けて出発するだけだ。


 というわけで、今晩は獣人族達との最後の晩餐である。




「灯殿、少しよろしいかな」




 俺が相変わらずクウを頭の上に乗せて食事をしていると、ジェイとガロンがやって来た。


 彼らの表情は真剣そのものであるが、昨夜のこともあるのであまり油断は出来ない。




「どうした?」




「そなたらが我ら同族のためにその身を削り尽力して下さることに、改めて礼を述べておこうと思ってじゃな」




「本当にありがとう。灯殿達にはいくら感謝きてもしきれんよ」




「それは別にもういいって。俺達だって俺達なりに目的があってやるわけだしさ」




 獣人族誘拐の他にも、帝国には魔獣ハンターという厄介な存在がいる。


 それらをどうにかしない限りは、クウの平穏はいつまで経っても手に入らないのだ。


 だからその根源を知り対処するために、俺達は帝国へ向かうのである。




「うむ、まぁ帝国のことは置いておき……」




「ここからが肝心な話なのじゃが」




「え?帝国以上に大事な話ってあるの?」




 帝国の話を前置きにされたことに俺は心底驚く。普通に考えて、今はそれ以上に重要なことなど思いつかないのだから。




「当然、娘の話に決まっているだろう!」




「わしの孫のことじゃよ!」




「えぇ、またかよ……」




 どんな話をされるのかと思って構えてみれば結局その話かよと、俺はがっくりと肩を落とした。


 昨夜も散々言いたい放題言われてうんざりしていたというのに、今日もごちゃごちゃ言われるなど耐えられない。


 もう獣人族のことなど見捨て、逃げ出そうかとすら思い始めてしまった。




「なに、別に昨日のように突っかかろうという訳では無い」




「うむ、昨夜灯殿や孫達と話をした結果、わしらも覚悟を決めたのじゃよ」




「か、覚悟って何を……?」




 今日の族長達は昨夜とは比べ物にならないほど冷静であり、面倒な話にならないことに俺はほっと胸をなでおろした。


 しかし、それとは別の意味で面倒なことになりそうな予感がし、俺の額には冷や汗が流れる。




「わしらも昨夜は多くのことを考えたのじゃがな、灯殿の話や孫の意思を尊重し、そなたに託すことにしたのじゃ」




「えっとー、一応誤解のないように聞いておくけど、託すって何を?」




「はっはっは!この期に及んでしらばっくれるな。当然我が娘とガロン殿の孫に決まってるだろう」




「やっぱり!」




 ここまでの話の流れで大方の予想は出来ていたが、一体どういう経緯でその結論に至ったのだろうか。


 何故か俺の同意も無く、娘をよろしく的なムードを2人とも醸し出しちゃってるし、というか2人揃ってってどういうことだよ。それはもう重婚じゃないか。




「あー、人間は確か重婚は禁止しているのだったかな」




「ふむ、その辺の心配ならいらぬぞ。我ら獣人族は島の長のみ一夫多妻制を認めているのじゃからな。灯殿は我らの恩人であるのだし、それを認めるのも容易かろう」




「あー、そこはオッケーなんだ。って、いやいやいや!そうじゃなくって!」




 正直一夫多妻を認めているとか、そういうのはいまはどうでもよかった。


 それより問題なのは、両者の同意なく勝手に話が進んでいることだ。特に俺の同意がな!




「安心しろ、ラビアだけでなくネイアも灯殿のことを好いておるからな。1人だけ仲間外れということも起こらん」




「そんな心配はしてねーよ!それよりもまず、俺の意志の確認は無いわけ!?」




「む、灯殿は自ら帝国へ乗り込むくらい獣人族のことが好きではないのか?」




「ああ、私もてっきり灯殿は獣人族を好いているのかと」




「あー、そういうことね……」




 どうやら彼らが俺に確認をしてこなかったのは、俺の行動に原因があるらしい。


 確かに他種族の為に身を危険に晒すぐらいだから、そんな勘違いをしても無理はないだろう。


 俺は何度も俺自身のために帝国へ行くと言っているのに、彼らはそれを建前か何かだと思い信じていなかったようだ。




「分かった、改めて言っておくが、俺が帝国へ行くのは俺自身の目的の為であって、決して獣人族のことを思ってとかそういう訳じゃないからな!」




 少々冷たい言い方だが、これぐらいはっきり言っておけばもう妙な勘違いが起きる可能性もあるまい。




「ほほっ、灯殿は嘘が下手じゃのう」




「照れ隠しがバレバレだぞ?全くそこまで否定しなくてもいいだろうに」




「い、いや、照れ隠しとかじゃなくて……」




「うむうむ、恥ずかしくて認めたくないのじゃな。それならばわしらもこれ以上は続けないでおこう」




「ああ、後は本人同士で話し合うのが1番だからな」




「お、おい待てよ!」




 必死の説得も虚しく、ジェイとガロンは楽しそうに笑いながら去っていってしまった。結局彼らの誤解は解けずじまいである。


 こうなったらラビア達を探し出して、彼女達の方から言ってもらうしかない。


 そう思って探しに行こうとしたタイミングでちょうど彼女達が俺の目の前へやって来た。




「あのー灯様、ここよろしいですか?」




「お前らか、ちょうど探しに行こうと思ってたところだったんだ」




「あの、うちの父が妙なことを言ってきたりしてないですかね?」




 ラノベは恐る恐るといった様子で俺に尋ねてきた。なので俺は先程族長2人に言われたことを余すことなく彼女達に伝える。




「やっぱり、おじいちゃんのばか!」




「はぁ、すみません灯様父達が迷惑をおかけしたみたいで……」




「あの2人の言ってることは気にしないでね」




「おぉー、よかったー。お前達まであのおっさん達と同じ意見だったらどうしようかと思ったよ」




 ラビア達は族長2人とは対象的に、俺達がくっつくことには反対みたいだ。


 彼女達まで乗り気だったらどうしようかと思っていたので一安心である。




「私は灯様さえ良ければアリだとは思ってるけどね」




「ちょ、ネイア何言ってるの!?」




「わ、私も灯様となら……」




「お前らまでその気になってんなよ。今の俺達には他にやるべきことがあるんだから」




「「はーい」」




 ネイアとアイラに関しては満更でもないような反応を示してきたので、さりげなく断っておく。


 今の俺には、そういうことにうつつを抜かしている暇はないからな。




「それより食事を楽しもうぜ!」




 こうして俺は無理矢理話を逸らすことで、この話を無かったことにした。


 今日は2度も獣人族に驚かされたが、明日からは帝国へ向けて出発するのだ。しっかりと英気を養っておかなければ。

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