4章 エピローグ

 魔獣達との融合の実験を終えた俺は皆の所へ戻ると、騎士団の面々はすでに起きており慌ただしく動き回っていた。




「マリスどうしたんだよ?出発はもう少し先だろ?」




「いや、実はついさっき緊急用の魔道具で指令書が飛んできたんだよ」




「指令書?」




「うん、詳しくは分からないけど僕らにやらせたい任務があるらしくて、大急ぎで国に戻らなくちゃいけなくなったんだ」




 マリス達の今の任務は、あの黄ラインの男ベルディを捕らえることだったはずだ。


 まだその任務の完了報告もしていないと言うのに追加で任務を言い渡すとは、余程の急ぎなのだろう。




「そうか、せっかく再会してここまで来たのに残念だな」




「うん、僕達ももう少しゆっくりしたかったよ」




「俺に何かやれることがあるなら手伝うぜ?」




 俺はこの世界に来た時から、騎士団には沢山助けられてきたのだ。返しきれないほどの恩を受けた俺は少しでも騎士団の力になりたかった。




「大丈夫、これは騎士団の問題だから灯は灯の道を進みなよ。灯だってやらなきゃいけないことがあるんでしょ?」




「まぁ、そりゃあるけどさ……」




「ならそっちを全力で頑張った方が僕らは嬉しいな」




「……はぁ、分かったよ。ならお言葉に甘えて俺は俺のすべきことをするさ」




 俺はマリス達が困っているなら手伝いたかったが、結局押し負けてしまった。


 それに騎士団の皆も慌ただしくはしているが、全員だるそうな表情はしていても、誰1人として深刻な顔はしていない。


 彼らの表情からしても、そこまで大事にすることではないみたいだ。




「いーやーだー!まだこの島に居たいー!」




「うるっせえな!わがまま言うんじゃねーよ!」




 マリスと話をしていると、遠くからアマネとライノの声が響いてきた。


 アマネは昨夜も獣人族達と仲良さげに食事をしていたから名残惜しいのだろう。傍から見れば一方的な嫌がらせにしか見えなかったが。


 獣人族達の恩義につけ込むとは、アマネも悪くなったものだ。今回の指令書はアマネへの天罰かもしれないな。




「ライノさんはいつも大変ですね」




「ん?おお、マリスに灯か。そう言うならこいつどうにかしてくれよ」




「はっはっは、そりゃ無理ですよ」




「だよな……」




 ライノさんもアマネの自由奔放な性格には、お手上げといった感じである。




「なんか皆して酷くないですかー?」




「酷くねぇよ。全部真実だろうが」




「「うんうん」」




「やっぱり酷い!」




 そうして冗談を言って笑い合いながら、俺も荷物を積むのを手伝っていよいよ出発の時が近づいてきた。




「全員船にのったな?」




「「「はい!」」」




「よし!それじゃあ出航だ!」




 ライノの合図で騎士団の船は、とうとう大海原へと出航したのだった。


 この世界の人達には見送るという文化は無いらしいが、俺はこの世界の人間ではないので大手を振って彼らを送り出す。






















 ――
























 騎士団が出発した寂しさを少し感じながらも、俺達は再び会議室へとやって来た。


 昨日は出来なかった話の続きをするためだ。




「さて、昨日話していた帝国の連中の処遇じゃが、奴らを人質として獣人族の返還を要求しようと思う」




「まぁ、それが無難なとこなんじゃねぇか?」




 犬人族の族長ガロンの案にガンマも同意する。俺もその意見には賛成だ。


 だが、それでもまだ不安要素は多い。奴らに人質の価値はあるのか。人質を返した後帝国に襲われないか。帝国まで安全に行けるか。


 そういうことを考え出したらキリがない。そしてもしそういう局面に陥った時、獣人族達にそれを乗り越えられる力があるかも怪しいのだ。




「一度少数で帝国に忍び込んで、情報を集めた方がいいんじゃないか?」




「うーん、確かにそりゃそうだな」




 俺の意見に、またしてもガンマが同意する。こいつ賛成してばっかりだな。




「確かに情報は欲しいが、まず帝国に忍び込むのが難しいだろ」




「うむ、わしらは獣人族ゆえ目立ってしまうからの」




 族長達の言う通り、獣人族は耳や尻尾が特徴的で非常に目立つ。


 もしそれらを隠したとしても、魔法が苦手な獣人族では魔法の発展した帝国だと相性が悪く、怪しまれる可能性も高い。




「なら俺が偵察に行ってやるよ!」




「いや、あんたは偵察に最も不向きな性格でしょ……」




 ならばと潜入にはガンマが名乗りを上げたが、彼の性格上1人で行けば100%問題を引き起こすだろう。


 ガンマを1人で行かせるのは危険。かと言って獣人族達が行くのは無謀。となると残る手は――




「分かったよ。俺達が帝国に行ってみる」




「いいのか大将?」




「ああ、獣人族のことは俺も好きだしここまで乗りかかった船だからな。最後まで付き合うさ」




 俺は獣人族達のことはもう友達以上の存在だと思っているし、そんな彼らを見捨てることなど出来るわけもない。


 それに言いはしなかったが、当初の目的であるクウの安全に暮らせる場所探しにも、今後も帝国は必ず邪魔になってくるだろう。


 それなら先に敵となる帝国を知っていた方が合理的だ。




「ぬぅ、島を救ってもらった上にそこまでしてもらうとは、誠に感謝する」




「気にするなよ、これは俺達のためでもあるんだからな」




 獣人族達も納得してもらったところで、こうして俺達の新たな目的地が決まった。


 目指すは「ボウルサム帝国」だ。


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