4章 31. 合計4人
マリスが後ろで黄ラインの男との戦いに決着をつけた中、俺はクウとのコンビネーションでマッチョマンに挑むのだった。
マッチョマンは距離が離れているにも関わらず、何らかの魔法で拳を飛ばしてくる。
しかもその拳が見えないからワープでそらすことも難しく、避けるしか方法はない。
「ほれほれほれほれ!」
「うわっと!危なっ!」
連続で拳を飛ばしてくるマッチョマンの攻撃を、俺は体を捻り、屈み、飛ぶことでどうにか避ける。
そしてようやく連続攻撃が止んだので、その隙を狙いワープを使って今度はこっちから仕掛けた。
「そこだ!」
「むっ、甘いわ!」
しかし奴もこちらの攻撃に慣れてきたのか、不意をついているつもりでもギリギリのところでガードされてしまう。
だが、クウが俺の体で魔力操作をしてくれたおかげか、若干威力の上がった俺の拳にマッチョマンは顔を顰める。
「小童め、何かしおったな……」
「よし!きいてるぞクウ!」
『クアッ!(いけー灯!)』
劇的に威力が上がったわけではないが、それでも奴に違和感を与える程度には力が増している。
このまま攻め続ければ、いずれは勝利も見えてくるだろう。
だが、そんな勝利の光が見えてきた時に、奴らもまた動きだしたのだった。
「おい、わしはこの小童を相手しておく。お前は今のうちに敵陣魔力砲を撃ち込んでこい」
「了解ボス!」
さっき部下らしき奴が言っていた魔力砲というのをとうとう撃ってしまうという。
それがどんな攻撃かは知らないが、もしかしたら海の中にいた時聞こえた爆音がそれの可能性はある。
海の中からでもかなりの衝撃が響いてきた、あれを撃たれるのは非常にまずい。何としても食い止めなければ。
「待てこの――」
「おっと、そう急ぐでない。もう少しわしの相手をしてもらうぞ」
「くそっ、邪魔だよこの野郎!」
急いで命令を受けていた積荷のリーダーを追いかけようとするが、マッチョマンがそれを見越して間に入ってくる。
どうやらこいつを倒さない限り、俺は先には進めないらしい。
と、そこで先程黄ラインの男に勝利したマリスが駆けつけてきた。
「灯、加勢するよ!」
「ならマリスはこの奥に行った奴を追ってくれ!何かまずいことをされそうなんだ!」
「わ、分かった!」
俺1人じゃこのマッチョマンをまいて先に進むことは難しい。しかしマリスの足の速さなら、隙をつけばどうにかなるはずだ。
その隙は俺とクウが何としてでも生み出してみせる。
「やるぞマリス!」
「分かったよ灯!」
意を決したあと、まずは俺が走りだす。当然マッチョマンの拳が飛んでくるが、何発か掠りながらもどうにか避けきり敵との距離を縮める。
そして今度は、俺の攻撃をマッチョマンが受ける番となった。
「今だ行け!」
「うん!」
その隙を逃さずマリスは鎧に魔力を注ぎ、俺達の脇を全力で駆け抜ける。
だが、そう簡単にことは運ばなかった。
「貴様らの狙いなどバレバレじゃ!」
「なっ!」
マッチョマンは、マリスにあの積荷のリーダーを追わせる狙いに気づいていたらしく、隙を作ったように見せかけマリスに拳を飛ばす。
見えない拳はマリス目掛け迫り来る。
「まだだ!」
だが、そこまでされるのは俺の想定内である。
俺はそうなることまで見越して、マリスの目の前にワープを設置し、短距離移動させた。
拳は見えないから飛ばせなくとも、マリス自身を飛ばすことなど造作もないのだ。
ワープによって距離を稼いだマリスは、更に鎧による加速も合わせてマッチョマンの射程圏外へと駆け抜けた。
「ちっ、だが今更行ったところでもう遅いじゃろうて」
「なんだと……!?」
「馬鹿め、もう魔力砲の準備は整っておるのだ。あの男が一声かけるだけで、攻撃はすぐに放たれる」
「ぐっ!」
確かに先程部下らしき奴から聞こえてきたのは、準備が整ったという合図だった。言葉1つでいつ放たれてもおかしくはない。
そしてそれは現実のものとなったのだ。
船前方が急に光だしたかと思ったその時、爆音と共にその魔力砲とやらが放たれたのだった。
――
灯、クウ、マリスが船内で奮闘する中、未だに地上やライノの船には魔法が降り注いでいた。
マリスが船に乗り込むことで魔法使い達の数は大幅に減らせたかと思われたが、それはほんの一部に過ぎず、魔法は相変わらず放たれ続けている。
「くそっ、さっき船内に誰か潜り込んだみたいだがどうなったんだよ!?」
「やられた?」
「そんなの分かんないわよ!私達はここを死守するので手一杯だわ!」
クウも戦闘に加わった今、ドロシー、シンリー、溶岩の魔人の3人が最後の防波堤であり、ここを離れる訳にはいかなくなっていた。
ちなみに彼らはまだ、灯が戻ってきていることには気づいていない。
3人で必死に魔法を防いでいると、再び船主の砲台が眩く輝きだした。
「あ、またあれ来る」
「ま、まずい!2発目が来るぞ!」
「もうー!クウはどこ行ったのよ!?」
魔人3人はあの強大な威力の魔力砲に、嫌々ながらも防壁を形成し備える。
その瞬間、爆音と共に魔力砲が放たれた。
魔人3人は顔を歪めながらも全力で魔力を注ぎ込み、後ろに逸らすまいと抑え込む。
だが、やはりその威力は強大であり3人の力でも徐々に押し負けていた。
「おい、まずいぞ!」
「このままじゃやられる」
「それでも踏ん張るしかないわよ!」
猫人族達は騎士団の護衛のおかげで、既に島の奥へ逃げきってはいる。
だが、それでもこの攻撃を通せば島には壊滅的な被害が及び、もしかしたら逃げ遅れている人がその場にいて巻き込まれる可能性もあるのだ。
それを分かっている魔人達は、絶対に通すまいと防壁に力を入れる。
しかし、どうしてもあと少し力が足りなかった。あと1人魔人がいれば完全に防ぎきれるというのに。
そう誰もが思っていたその時海から巨大な潮の渦が出現し、魔力砲と衝突したのだった。
「なっ、何急に!?」
「すごい渦」
「へっ、こんな芸当出来る奴なんざ俺は1人しか知らねえよ」
そんなことを呟く中、渦の中から1つの人影が3人の横に降り立つ。
それは、灯が海底で知り合い、地上まで行動を共にしてきた、海の魔人であった。
「ふぅ、何ですのあの砲撃は。強過ぎて腕がもげるかと思いましたわ」
「やっぱりお前か、海」
「ふふ、遅くなりました。わたくしもお力添えさせていただきますわ」
溶岩の魔人だけは先程の渦の正体に気づいていたらしいが、ドロシーとシンリーはぽかんと口を開けていた。
しかし今はそんな2人を気にしている暇はない。ドロシー、シンリー、溶岩の魔人に海の魔人が加わり、魔人は合計4人となる。
泥、木の根、溶岩、そして潮の壁が並び立ち、魔力砲に対抗した。
「おぉっ、いける!いけるぞ!」
「勝てる」
魔人4人が協力してら作りあげた防壁は頑強であり、魔力砲を浴びてもビクともしない。
そしてとうとう防壁は健在のまま照射時間が経過し、魔力砲の方が消滅したのだ。
「防ぎきりましたわね」
「私達の勝ちね!」
魔人4人は魔力砲から島を守れたことに、歓喜の声を上げる。
そんな中、船の中では目の前の魔人を化け物を見るような目で、恐怖に震える魔法使いが続出しているのだった。
アンドレもまた、魔力砲を防がれたことに驚愕の色を隠せないでいる。
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