4章 10. 本当に俺と同じ人間なのか?
暗い洞窟の中を1歩1歩慎重に進んでいく。
敵の本拠地である可能性の高いこの洞窟内では、いつ敵に襲われてもおかしくないのだ。
奇襲されても即座に反応出来るよう、周囲の警戒は怠らない。
「あ、奥に明かりが見えるわよ」
「出口か、敵が待ち構えてるかもしれないからな。気を引き締めていくぞ」
「ええ」
出口から差し込む一筋の光明は、近づく度に強さを増す。
そして俺達はとうとう、洞窟を突破した。
「うっ」
光で一瞬視界がくらむがすぐに目は光になれ、出口の先の光景が俺の目に飛び込んでくる。
「わぁー、おっきい船……」
「でかい……、何でこんな所に船が」
俺達の目の前に現れたのは、巨大なドーム状の空間とそこに狭苦しそうに収まっているガレオン船の様な帆船だった。
パッと見た感じでも、港に浮かんでいた船の3倍はありそうなその大きさに、俺達はただ見上げることしか出来ない。
こんな巨大な船で一体誰が何をするつもりなのか。
「ハッ、誰かこっちに来るわよ!」
「隠れるぞ!」
巨大な帆船に見とれていたら、誰かがこちらに近づいてくる足音が聞こえたので、俺達は慌てて近くの岩陰に隠れた。
近づいてきたのは2人組の魔法使い達で、彼らは俺達の存在に気づいていなかったらしく、気だるげに愚痴を言い合っている。
「ったく、いつまでこんな陰気な港に居なきゃいけねえーんだよ」
「我慢しろよ。船はもう完成してるんだし、そしたらこんな国ともおさらば出来るぜ」
「あの雇い主の無茶な要望のせいでわざわざ王国にまで船を作りに来たんだぜ?全くやってらんねーよ」
「まぁな、いくら上級貴族とはいえこんなでかい船、動かすには強力な魔道具に頼らなきゃ、一瞬で俺達の魔力が枯渇しちまうからな」
彼らの話からすると、どうやらあの帆船は魔道具を動力源にしているらしい。
この世界では、王国は船底に波を生み出す魔道具を取り付け、生み出した波で船を走らせる。
対して帝国の船は魔法で帆に風を当てることで、推進力を得ている。
どちらも自分達の得意な方法で船を制作しているのだが、なんとこの船はその2つの動力源を併せ持っているらしいのだ。
「こんなでっけー船造って、戦争でもおっぱじめるつもりなのかね?」
「いや聞いた話によると、獣人族達の住む島に行って奴隷狩りをするって話だ」
(は……?)
「あー、だからこの前獣人族のガキ共がここに来たのか?」
「ああ、なんでもそいつらを人質にして、獣人族共を乱獲するらしいぜ」
「そりゃいいや!俺も何匹か貰えねぇかな」
「無理に決まってんだろ。全部貴族のおもちゃになるんだから、無駄に傷つけたら俺達が今度は狙われるぞ」
「ちぇっ」
どういうことだ?
こいつらの目的は、獣人族達を襲うことなのか?
この船はその為のものなのか?
こいつらは何でこんなに獣人族を物みたいに見れるんだ?
こいつらは本当に俺と同じ人間なのか?
「やらないと……、ここで止めないと……、これ以上、俺の友達が苦しむ姿なんて見たくない……、今ここで、こいつら全員――」
気づいた時には俺は岩陰から飛び出し、目の前で会話をしていた魔法使い2人に殴りかかっていた。
後ろでシンリーが何か言っていた気がしたが、俺の耳には何も届かない。
頭の中は完全に真っ白になっている。
今の俺には、目の前のこの畜生共を止めなければということしか考えられなかった。
「おおぉぉぉぉぉ!」
「な、なんだこい、ぐふっ!」
「ぐほっ!ぢ、ぢぐしょう、どこから現れやがった……!」
無鉄砲な突撃だったが、結果的に俺の攻撃は奇襲という形になって、魔法使いである彼らは手も足出ず、一方的な状況となった。
だが、そんな優位は一瞬で消える。
俺が1人を殴っている内に、もう1人の魔法使いが瀕死になりながらも信号弾を空目がけ打上げた。
その結果、あっという間に洞窟内には慌ただしい雰囲気が漂いだす。
援軍が来るのも時間の問題だろう。
「もー、ダーリンのばか!確かにこいつらにはムカついたけど、少しは我慢してよね!」
「わ、悪い、ついカッとなって……」
信号弾の眩い光は俺の意識も現実に引き戻し、冷静さを取り戻したところでシンリーに叱られた。
彼女は腰に手を当て頬を膨らませ、可愛らしげに憤慨している。
さっきまでデートをしていた影響か、どうにもシンリーのそういった仕草や表情が可愛く見えてしまう。
どうやら俺はまだ冷静さを取り戻していないらしい。
「それよりそろそろ援軍が来る頃だけど、どうするの?」
「俺が言うのもなんだが、こうなったら正面からこいつらをぶっ潰してしまうか」
「りょーかい!」
俺の考えなしな行動のせいで、作戦もクソもなくなった。
後はもうコイツらと正面からぶつかり合うほか手は無いだろう。
「こっちだ!」
「いたぞ!あいつらだ!」
「おいおい、何でここにガキ共が紛れ込んでやがんだ?」
シンリーと軽く打ち合わせをしていたら、とうとう増援が到着した。
彼らは俺達が子供だと思って侮っているのか、呆れ混じりの視線で倒れている仲間を見てる。
「よし、やるぞ皆。開戦だ!」
相手が油断している今がチャンスとばかりに、俺は天にモンスターボックスを掲げ魔獣達を総進撃させた。
クウ、プルム、グラス、ホーン、ミルク、アオガネ、ライチの総勢7匹の魔獣達は、モンスターボックスから飛び出すのと同時に魔法使い達に襲い掛かる。
「「ブオォー!(どけどけどけー!)」」
「ブオォ(張り切ってるわねー)」
「ぐはっ!」
「な、何だこの牛は!?」
まずグラス達が先陣をきり、正面にいる魔法使い達に奇襲のタックルを浴びせた。
魔獣の言葉を理解出来るようになって分かったのだが、グラスとホーンは好奇心旺盛なところがそっくりで、ミルクはそんな彼らを後ろから支えているという感じだ。
なかなかいい家族の形だと思う。
「シャー!(ほいほい!)」
「うおっ、このヘビ硬ぇな!」
「で、でかすぎるだろ!」
次いでアオガネがサイドに避けている魔法使い達を狙う。
巨大でしなやかなその体を活かし、敵の懐にするりと入り込むと尻尾で豪快に薙ぎ払っていく。
アオガネの鱗の硬さも相まって、魔法使いは手も足も出せずにいた。
アオガネ本人はかなり余裕そうに相手をしている。
「ピイィー!(行きますよ!)」
「は、速い!」
「ぐあぁぁぁ!」
「く、黒い稲妻だぁ!」
ライチはその超高速な飛行速度をもって一気に敵陣の後衛に切り込み、落雷を放電させて広範囲に渡り殲滅を開始した。
後衛で高火力の魔法を発動させるため魔力を溜めていた魔法使い達は、突然の落雷にてんやわんやしている。
それにしてもチラッと聞こえたが、黒いイナズマとはなかなか面白い表現をするな。
雷自体は白に近い閃光なのだが、ライチの体が真っ黒なせいかそう発言したのだろう。
ライチに2つ名が着くとしたらそんな感じだろうか。
なんてことを考えていたら、倒し損ねた魔法使い達がとうとう俺達目がけ魔法を放ってきた。
「今だ、放てー!」
「アクアランス!」
「グランドランス!」
「ウィンドランス!」
「フレイムランス!」
無数に押し寄せる色とりどりの魔法の槍。普通なら避けるのも防ぐのも至難の業だろう。
だが、残念ながらこちらには守りのエキスパートがいるのだ。
「クウ!(任せて!)」
俺の前を飛ぶクウがワープホールを出現させて、全ての槍を丁寧に捉えると的確に敵に打ち返した。
魔法使い達もまさか自分達の放った魔法でカウンターがくるとは思ってもみなかったのか、対応が遅れて悲惨な状況になっている。
クウのカウンター攻撃の精度も、ここ最近は更に磨きがかかってきているようで、槍1本漏らすことなく敵に返していた。
クウの前ではもう、生半可な攻撃は通らないだろう。
「いいぞ皆、その調子だ!」
こうして魔法使い達と俺達による全面抗戦が幕を開けたのだった。
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