4章 1.別れ

 溶岩の魔人や獣人族達を話し合いをした結果、俺達の次の行き先は港町「ブリンデラ」に決定した。


 溶岩の魔人達はまだこの街に潜んでいる可能性を考慮して探索する。


 対して俺達は、足の速さを活かして帝国に逃げる可能性のある港町へ向かうのだ。


 まだどちらに人攫い連中と子供達がいるか分からない今の状況だから、二手に分かれて捜索する。


 逆にこれ以上捜索の手を広げれば、2次災害が起きる可能性もあるので、これが今できる最大で最善の手なのだ。




 そしてユドラ暴走から1晩明けた朝、現在俺達は出発の為の準備をしている。




「大将、その、なんだ……、この間は悪かったな」




 出発の為の荷物の整理をしていると、そんな申し訳なさそうな声音で溶岩の魔人が尋ねてきた。




「そんな改まった態度して、いきなりどうしたんだよ?」




「いや、まぁ、やっぱり大将の言う通り領主の野郎が黒幕だったってのに、この前は疑うような態度をとっちまったからさ」




「あー、なんだそのことか」




 ユドラのことや子供達のことがあったせいですっかり忘れていたが、そう言えば最初に領主に疑いの目を向けた時に溶岩の魔人とは喧嘩していた。




「別にそのことは気にしてないよ。あの時は証拠も何も無いのにただ思ったことを口にしただけだし、実際領主本人と話をしてみて、俺も良い人だと感じたからな」




「そうか……、でも俺が間違っていたのは事実だ。悪かった!」




 溶岩の魔人は俺の話を聞いて顔を少し綻ばせたが、それでも最後には深々と頭を下げて謝罪してきた。


 これ以上彼の気持ちに水を差すのも悪い気がしたので、俺はその謝罪を受け取りこの話は終わりにする。




「で、あんた達はどう動くことにしたんだ?」




「ああ、今日明日使って獣人族総出でこの街を隅々まで探索してみるつもりだ。それで見つかっても見つからなくても、最終的には港町へ向かって大将達と合流しようと思ってる」




「そうか、なら俺は港町を組まなく探してあんたらが来るのを待ってるよ」




「おう、しっかり頼むぜ友よ」




「そっちもな」




 そうして溶岩の魔人と打ち合わせをすませると、拳を軽くぶつけ合ってその場は解散となった。


 溶岩の魔人とは喧嘩こそしたが、今ではすっかり仲良しになっている。


 この件が片付いたら、本人さえよければドロシー達みたいに愛称で呼びたいと、そう思えるほどに。




「さて、旅の準備ももう終わるし、ぼちぼちあっちの問題を解決しておくか……」




 今回の旅は馬車は使わずライチの背に乗って飛んでいく。その為荷物も少なくすむので準備も早い。


 ちなみに馬車は、溶岩の魔人達が港町へ来る時一緒に持ってきてもらう手筈となっている。


 そんなことよりも今は大きな問題があり、俺は今そのことに頭を悩ませているのだ。


 そのこととは、マイラとのお別れである。






















 ――


















「ダーリーン、そろそろ出発しましょー」




「ご主人様、早く行こ」




「おう、そうだな」




 ドロシーとシンリーももう既に準備を終わらせたようで、いち早くライチの背の上で待機していた。


 ドロシーはよほど海の食べ物が楽しみなのか、いつも以上に気がせっている。


 俺はドロシー達に急かされながら、ライチの元へと向かった。


 そんな俺の後ろには、マイラがトコトコと後をついてくる。


 いつまでも先延ばしにする訳にはいかない。


 いい加減別れを告げる覚悟を決めなければ。




「マイラ、お前はこの砂漠の地に残れ。お前とはここでお別れだ」




「ガ、ガウ……?(どういうこと……?)」




 モンスターピアスの能力の影響で、マイラの言葉の意味が伝わってくる。


 マイラは俺懐いてくるつもりだったようで、突然の別れの申し出に困惑を隠せないでいた。




「元々ここへはマイラを故郷に送り届ける為に来たんだ。そしてらお前の母親のエキドナにも出会えた。だからマイラとはここでお別れなんだ」




「ガウガウ!(嫌だ!僕はもっと灯達と旅がしたい!)」




 マイラは頑なに別れを拒否し、俺の足に噛み付いてきて離そうとしない。


 断固として旅へついてくるつもりのようだ。


 だが、だからこそ俺は心を鬼にしてそんなマイラを振り払う。




「言うことを聞け!ここがお前の故郷なんだ!ようやく家族と再会出来たというのに、これ以上離れ離れになる必要なんか無い!」




「ガウガウ!(だったらママ達も一緒に行けばいいじゃん!)」




「これからまた帝国の奴らととやり合うっていうのに、もうマイラの家族を危険な目に遭わせたくないんだよ」




 エキドナ一家は、もう既にマイラとユドラの2匹がハンターの餌食となっているのだ。


 態度には出さないが、エキドナがそのことで心を痛めていることは俺だって十分理解している。


 だから彼女達を旅に同行させることは出来ないのだ。


 そう説明しても、まだまだ子供であるマイラは納得してくれなかった。




「マイラ、いつまでもガキみたいに駄々をこねるな!お前もユドラの兄貴なら、弟がこれ以上危険な目に合わないように守ってみせろ!」




「ガ、ガウゥ……(ユ、ユドラを守る……)」




 マイラはまだまだたてがみも生え揃わない子供だが、それでもユドラの兄としてなにか思うところがあったようで、俺の一言に考え込みだした。


 俺はここで更にダメ押しの一手を加える。




「俺達と獣人族達はこれから別行動をとる。そうすると彼らを守ることは俺には出来ない。だから俺の代わりに、マイラには彼らを守り子供達を探す手助けをして欲しいんだ。やれるか、マイラ?」




「ガ、ガウ!(う、うん!僕やれるよ!灯の代わりに皆を守ってみせる!)」




 実際俺1人で獣人族達を守るなど不可能なことなのだが、俺に絶対の信頼をおいているマイラはそう息巻いた。


 体質を利用するような手を使って申し訳ないが、それでも俺はマイラやその家族に危険な目にあって欲しくないから、無理にでもここで別れる決心をしたのだ。




 なぜかは分からないが、俺には人攫い連中はここにはおらず港町に向かっているんじゃないかという、強い確信があった。


 証拠も何も無いが、そう強く直感したのだ。


 だから尚更、マイラとはここで別れる必要がある。マイラの為にも、その家族の為にも。


 そうして、マイラとの別れの瞬間が間近に迫ってきた。




「マイラ、お前は本当にいい子だな……。あ、ありがどう、みんなのごど、頼んだぞ!」




「ガ、ガルゥゥ!」




 マイラとのお別れでは絶対に泣かないと心に決めていた。


 だと言うのに、いざ別れの時が近づいてくると、出会いからこれまでのマイラとの思い出が脳裏を駆け巡り、耐えられなくなって涙がとめどなく溢れてくる。


 マイラの方も、皆を守るという決意を心に決めていたのに、俺のせいでつられて泣き出した。




「ク、クウゥー!」




「!」




「ブオォォー!」




「シャー!」




「ピイィー!」




 そして遂には、モンスターボックスからも魔獣達が溢れ出てきて、団子状態になって泣きあった。


 そんな様子を目にうっすらと涙を浮かべながら、後ろからエキドナやドロシー達が見守ってくれる。




「ガウウゥゥゥ!」




「うおぉぉぉぉ!」




 こうして結局、盛大に皆で泣きあって別れを惜しみ、心の内に溜まっていたものを全て吐き出し、とうとう俺達は出発の時を迎えたのだ。




「じゃあな大将、それに泥と森も、気張っていけよ!」




 俺達とマイラの別れを見て気が抜けたのか、溶岩の魔人は満面の笑みで大手を振る。




「改めてマイラちゃんをここまで送り届けてくれてありがとうね灯ちゃん、また会いましょう」




 エキドナは未だ目の端に涙を浮かべながらも、柔らかい笑みで送り出してくれる。




「灯様、港町の方よろしくお願い致します!」




 ラビアさんは必ず子供達を救うという決意を込めた眼差しで、送り出してくれる。


 ネイアちゃんもそんなラビアさんの横で、小さく手を振っていた。


 意外にもこの世界に来てから初めて誰かに見送られながら、俺達は次の目的地へと旅立つのだった。


 目指すは港町ブリンデラ。


 必ず子供達を救い出す。そう改めて決心して、俺達はライチの力強い羽ばたきで出発する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る