3章 30. 雷と爆炎とワープホール

 暴走するユドラを止める為に戦うクウ達魔獣組と溶岩の魔人とネイア。


 だが、彼らは仲間であるユドラを傷つけることが出来ず、防戦一方で攻め手に欠ける状況であった。




「バオオオオオオォォォォォ!」




 ユドラは気が狂いそうになるほどの雄叫びを上げ続けながら、家々を首で薙ぎ倒し、踏み潰し、破壊の限りを尽くしている。




「くそっ!こうなったら俺が――」




「ダメよ!あなたのマグマなんか受けたら、ヒュドラちゃんが溶けちゃうわ!」






 我慢の限界が来た溶岩の魔人は、両腕からマグマを噴射しようと構える。


 だが、大切な子供を傷つけたくないエキドナが、それを必死に止めた。




「じゃあどうしろってうおっ!」




「きゃっ!」




 どう対処するか2人で揉めているところに、ユドラの首が強襲する。


 こんな状況ではまともな話し合いすらままならず、クウ達の陣営は中々解決策を見出せずにいた。




「スーーーーーーッ」




「っ!ブレス来ます!」




 ユドラは周りをちょろちょろと動き回るクウ達に苛立ち、大きく息を吸い込む。


 これは竜種の魔獣がブレスを吐くときの予備動作で、それにいち早く気づいたネイアが警告を発した。




「全員下がれ!俺に任せろ!」




 ネイアの声を聞いた溶岩の魔人が、素早く前線へと躍り出る。他の者達は一斉に後方へと退却する。


 そして、どうにか陣形が間に合ったと思った瞬間、ユドラの5つの頭から灼熱のブレスが放たれた。




「バルオォォォォ!」




「うおらぁぁぁ!」




 溶岩の魔人は拳を地面に叩きつけ、地面から噴火の如くマグマを噴き出させ、即座に溶岩の壁を形成することでこれを防ぐ。


 首5本分のブレスでは、溶岩の壁を突き破ることは出来ず、完全に防ぎ切る。




 だが、残念ながらそう思えたのは一瞬だった。




「スーーーーーーッ」




「おいおい、マジかよ……」




 ユドラは溶岩の壁を攻撃しつつも、そのサイドから残り4つの頭を覗かせ、がら空きの溶岩の魔人めがけブレスを放とうと構えてきたのだ。


 これにはさすがの溶岩の魔人の額にも、冷や汗が流れる。




「バルオォォォォ!」




「ぐっ!」




 4方向から放たれるブレスに溶岩の魔人は対応が追いつかず、歯を剥き出しにして睨みつけるだけ。絶対絶命のピンチだ。




「ピイィー!」




「ガウッ!」




「クアッ!」




 溶岩の魔人がブレスを浴びる覚悟を決めた時、突然背後から雷と爆炎とワープホールが2つ現れ、ブレスと衝突した。


 ライチの放つ白い閃光は、ブレスに衝突した瞬間その貫通力で爆散させる。


 マイラの放つ真紅の爆炎は、互角の競り合いをしつつも、その火力で徐々にブレスを飲み込んでいく。


 クウが出現させた純黒のワープホールは、2本のブレスをまるごと飲み込むと天高くへ軌道をそらす。




「へっ、やるじゃねぇか」




「クウ!」




「ガウガウ!」




「ピイッ!」




 クウ達の見事な連携によって、溶岩の魔人は窮地を逃れた。


 ブレスを全て防がれたユドラは、苛立ちからかクウ達を殺意の篭もった瞳で睨みつつ、再び暴れ回りだす。


 溶岩の魔人とクウ達は慌ててユドラから距離を取り、射程外へと逃れる。


 ブレスを防ぐことは出来ても、結局防戦一方な状況に変わりはない。


 このまま戦いが続けば、いずれはこの街も半壊してしまうだろう。


 そうなる前に、何か手を打たなければならない。




「抑えるにしても、このままじゃ戦力が足りなすぎて何も出来ねぇ……!」




「ドロシーちゃんとシンリーちゃんが来るのを待つのは!?」




「だめだ、今は昼過ぎだからあいつらは街の外だ!ここに駆けつけるまで時間がかかりすぎる!」




 エキドナが他の魔人の救援を待つという案を出したが、すぐに却下された。


 遠くに行っている場合は、この騒動に気づけていないだろう。


 彼女達は今の時間待ちの外の見廻りに行っているので、ここに来るまで時間が足りない。


 2人を待っていたら、街はもう無くなっていてもおかしくない。




「では、灯様を探すのはどうでしょう!?」




「そんなもん時間の無駄だ!いくらあいつが魔獣と仲が良いからって、この状態じゃ何も出来ねえよ!」




 次にネイアが灯を探してどうにかしてもらおうと提案したが、これも却下される。


 こんな暴走状態じゃ手の施しようがないと溶岩の魔人は判断した。


 灯は魔獣達には懐かれているが、それは意識がある状態での話だ。


 実際、同じ首輪を付けられ暴走していたドロシーを止める為に、灯は命懸けだったのだから溶岩の魔人の言っていることは正しい。




「じゃあどうすればいいの!?」




「今考えてるよ!」




 万策尽きたエキドナは溶岩の魔人に怒鳴りつける。彼も今必死に脳をフル回転させているが、戦いながら考えるのは苦手なようで、中々妙案が浮かばない。


 しかも攻勢に出れなというこの状態が、彼の脳に更に負担をかける。




「スーーーーーーッ」




「っ!またブレスが来ます!」




「まずい、間に合わねぇ!」




 対策を考えることに集中し過ぎたせいか、溶岩の魔人は知らぬ間にユドラと距離を開けすぎていた。


 これでは前衛で戦うネイア達の救援に間に合わない。




「バルオォォォォ!」




「あ……」




 9つの頭から放たれるブレスは、1番近くにいたネイアめがけ真っ先に放たれた。


 ネイアの身体能力では回避はもう間に合わない。


 9本のブレスが向かってくる光景に、彼女は死を覚悟した。




「クアッ!」




 しかし、ブレスはネイアに直撃する寸前で全てクウのワープホールによって防がれた。


 9つの赤い柱が天に伸びる中、ネイアは腰を抜かし尻もちをつく。




「バウッ!」




 そんな彼女をベロスが服を噛んで引き摺って前線から離脱させる。




「ピイィー!」




 そしてブレスを吐いているせいで隙だらけのユドラめがけ、ライチが天から一筋の雷を落とした。


 落雷を直撃したユドラは感電したせいで、動きを硬直させる。




「ガウッ!」




 そして、自由を封じられたユドラに向かってマイラが駆ける。


 その狙いはユドラを支配する禍々しいあの首輪だ。


 クウ達はライチから首輪を防いだ時点でその存在には気づけており、その弱点も把握していた。


 マイラの尻尾の蛇が、首輪めがけ一直線に伸びる。




「バオォッ!」




「ガルゥッ!」




 だが、あと少しのところでユドラの麻痺が解け、尻尾の強烈な薙ぎ払いによってマイラは軽々と吹き飛ばされてしまった。


 クウ達の連携は付け入る隙の一切ない完璧なものであったが、最後の詰めでユドラの力が勝ったのだ。




「あのワープ……、こりゃいけるかもしれねぇな」




 しかし、そんな雰囲気の中1人の男が、今の戦闘を見て勝機を見出していた。


 溶岩の魔人はクウの空間魔法の力を目にして、ついに妙案を思いつく。




「おいそこの小竜!手ぇ貸しやがれ!」




「クウ?」




 突然後方から聞こえた叫び声にクウは首を傾げる。


 溶岩の魔人とはそこまで親しくないので、まだ少し警戒があるのだ。


 だが、溶岩の魔人にはそんなことは関係ない。クウの警戒など無視して、あっという間にすぐ側までやってくる。




「お前あのバカ竜を街の外へ飛ばすことは出来るか!?」




「ク、クウ……」




 溶岩の魔人の鬼気迫る表情に若干引き引きつりつつも、クウはコクコクと頷いた。


 その反応を受けて溶岩の魔人は思わずニヤける。なにしろようやく対策を思いついたのだから。




「よし、じゃあ俺があいつの気を引き付けておくから、その隙にやってくれ!」




「クアッ!」




 作戦と言うにはあまりもお粗末な内容だったが、クウもこの状況には少し焦っていたので了承した。


 クウの返事を受けて、溶岩の魔人はすぐに行動にでる。




「おらぁ!こっち向きやがれ!」




「バボッ!」




 溶岩の魔人はユドラめがけ飛び上がり、1つの首に渾身の拳を叩き込んだ。


 マグマで熱することも無いただの殴り。だというのにその破壊力は絶大で、首1本の衝撃がユドラの全身を伝い、数歩仰け反らせる。


 その結果、ユドラの怒りの矛先は溶岩の魔人ただ1人に向けられた。


 全ては彼の狙い通りだ。




「今だやれ!」




「クウー!」




 溶岩の魔人の合図を聞き、クウはめいいっぱい魔力を込めてユドラの足元に、特大のワープホールを作り出した。




「バオオオオオオォォォォォ!」




 突然地面に穴が空き、宙に浮いたユドラはなす術もなく落ちていく。


 その行先は、街の外の砂漠の大地だ。




「よし、俺達も行くぞ!」




「クウ!」




「ガウガウ!」




「ピイィー!」




「分かったわ!」




「了解です!」




 ユドラが落ちたのを確認した溶岩の魔人が穴に飛び込み、その後を全員が追う。


 こうしてクウと溶岩の魔人の協力のおかげで、どうにか戦場を街の郊外に移すことに成功したのだった。

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