3章 15.溶岩の魔人

 エキドナの案内のもと砂漠を進むこと3日、俺達は予定通りサラジウムへと到着した。


 この街はこの砂漠地帯では1番大きなオアシスで、人間以外に獣人族も共に生活しているらしい。


 しかしその仲はあまり良くないらしく、獣人族の住む区画は街の端にまとめて追いやられている。




 エキドナは人間には敵と見られているらしく、だから今回はわざわざ街の裏手まで回ってから入った。


 そこなら獣人族の区画で人間もおらず、エキドナは安全に街に入れるということだ。


 ちなみにユドラやライチ等巨体で目立つ魔獣は、一旦俺のモンスターボックスの中に入ってもらっている。




「おー、この街は結構涼しいんだな」




「ここは天然の地下水が張り巡らされているから、そのおかげで気温が下がっているのよ」




「なるほど、それで最大オアシスって訳ね」




 この砂漠地帯の通常のオアシスは、所々にある湖の周りに小さな村を形成する程度で大きさはそこまでだ。


 だが、この街は地中に広大に地下水の道が張り巡らされており、その上に街を作ったから巨大になった。


 だからここサラジウムでは、街の至る所に汲み上げ式の井戸が設置されている。




「建物は何だか素っ気ないものが多いな」




「まぁこの辺りは、木材がほとんど手に入らないからね。これでもよく建てた方よ」




「それもそうか」




 この街の建物はほとんどが粘土のような泥と土で出来ており、高さも大きくて2階建てまでだ。


 扉や窓はせっちされておらず、大きな穴がいくつか空いているだけ。


 セキュリティ一はガバガバだ。




「人間の住む区画に行けば、もう少し立派な建物があるらしいわよ」




「ふーん、何だか昔行ったスラム街を思い出すな」




 明らかに住む場所が差別されている様は、囮でハルレーンのスラム街を歩いていた時のことを連想させる。


 あそこも大通りなんかと比べると、だいぶみすぼらしかったからな。


 まぁ申し訳ないけど、この街はあそこと比べたらもう少し原始的だが。




「ドロシーとシンリーはこの街で商売をしたら滅茶苦茶儲かりそうだな」




「そんなのめんどくさい」




「ダーリンがどうしてもって言うならやるけど、私もあまり人前で能力を披露はしたくないわ」




「ただの雑談だからマジにしなくていいよ……」




 何となく思いついて呟いただけだから、間に受ける必要も無い。


 ドロシーとシンリーが昔人間にされたことだって、俺はちゃんと理解している。


 だから無理やり金稼ぎに利用するなんて真似はしない。


 ただその辺を無視して、この街の建築を2人でやればぼろ儲けは間違いないという、それだけの話だ。


 俺達は金儲けに興味がある訳でもないのだし、この件はもうこれで終わりでいいだろう。




「にしてもさっきから、チラホラと獣人族がいるな」




「そうね、耳が獣だし尻尾が生えてる」




「美味しいのかな?」




「いや、人なんだから食べるのはやめてくれ。共食いになるぞ」




 ドロシーとシンリーも獣人族を見るのは初めてなようで、物珍しそうに見ていた。ドロシーの観点は少し怖いが。


 かくいう俺も行き交う獣耳の人達に、思わず目を奪われてしまう。


 ちらちらと落ち着きがなく、周りから見れば明らかに不審者にしか見えない。


 だけどそれも仕方ないじゃないか。だってこんな異世界ならではの種族値を目の前にして、無視するなんてこと俺には出来ない。




「キョロキョロしてないで早く行くわよ。もうすぐ着くんだから」




「あ、ああ、ごめんエキドナ」




 しかしさすがに落ち着きが無さすぎたようで、エキドナに注意されてしまった。


 俺は慌てて謝罪して、彼女の後に続く。


 今俺達は、エキドナの友達だという獣人族の家に向かっている。


 どんな人なのかは詳しく聞いていないので、会うのが非常に楽しみだ。














 ――














 そしてエキドナに軽く注意を受けてから、それほど時間が経たないうちに彼女の友人の家に到着した。


 その家は2階建てで、これまで見てきた建物と比べると横幅も一回りほど大きい。


 軽く周囲を見渡してもこの家よりも小さい建物ばかりなので、もしかしたらそれなりに位の高い人物なのかもしれない。


 そんな予想をしながら、エキドナの後に続いて俺達もその家にお邪魔する。


 すると、早速家の奥から家主が顔を出てきた。


 その人物は真紅の髪に、金色の角を2本天に向けて額から生やした、褐色肌で筋骨隆々の男で、仮に翼と尻尾が生えていたら悪魔にしか見えない見た目だ。




「ん?おぉ、お前達か。随分と久しぶりだなぁ!」




「そうね、ここ最近は忙しかったから」




「ってことは、キマイラはもう見つかったのか?」




「ええ、お陰様でね」




「そうかそうか、そいつは良かった!」




 まずは挨拶がてらとばかりに、2人は軽く世間話を始めた。


 角の男は外見通りの豪快な喋り方であったが、会話の節々でマイラのことを気遣っていたりと、かなり優しい印象を受ける。


 そんな彼が、エキドナとの挨拶が一段落したところで俺達の方に視線を向けてきた。




「で、そっちの奴らは何もんだ?」




「紹介するわね。まずこの先頭に立っている子が灯ちゃん、と相棒のクウちゃん。彼らはキマイラちゃんをここに連れてきてくれたの」




「初めまして、灯と申します。よろしくお願いします」




「クウ!」




「ガウガウ!」




 エキドナの紹介に続き、流れるように自己紹介をした。


 その後にクウとマイラも、両方の肩の上から顔をひょっこりと出し、元気に鳴いて続く。




「へぇ、お前がキマイラを連れてきたのか。中々やるじゃねぇか」




「いえいえ、道中ずっと仲間に支えられたからこそですよ。俺1人じゃとてもとても」




「ははっ!謙遜すんなよ、人間がそこまで魔獣に好かれるなんて珍しい。十分お前の力だよ」




 角の男は一瞬俺を見定める様にじっと見つめてきたが、すぐに明るく笑いだした。


 よく分からないが、どうやら俺は彼に認められたらしい。




「俺には敬語は不要だ。よろしくな灯!」




「は、ああ、分かったよ。こちらこそよろしく」




 明らかに目上だと思う人に、いきなり敬語は止めろと言われて動揺したが、ぎこちないながらもどうにか修正出来た。


 そんな角の男に手を差し伸べられて握手を交わすと、彼は次に俺の後ろに立つ人物に目が移る。




「ん?お前らは……」




「ふん、久しぶりね」




「……」




 ドロシーは何も言わないが、シンリーは若干不機嫌ながらも返事をした。


 その口振りからどうやら彼女は、この角の男と知り合いらしい。




「はーっはっはっは!こいつはまた随分と懐かしい顔ぶれだな!お前ら元気にしてたか!?」




「はぁ、あんたは相変わらずうるさいわね。もう少し大人になりなさいよ」




「……誰?」




「くっくっく、そういうお前達だって相変わらずじゃねぇか!」




 ドロシーは相変わらず何も覚えていないようで、頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。


 しかし、シンリーと角の男は妙に親しげに話していた。


 あの雰囲気、懐かしい旧友と再会したかのテンション。もしかして彼も魔人なのか?




「しかし引きこもりのお前が、よくこんな所まで出てきたもんだ」




「はぁ!?ちょっとやめてよね!私は引きこもりじゃなくて、ただ単に森外の世界に魅力を感じなかっただけよ!」




「それを引きこもりって言うんだよ!」




 さっきまで仲良く話していた筈なのに、2人はいつの間にかヒートアップして、口喧嘩にまで発展していた。


 このままだといずれ、どちらかが手を出しそうな雰囲気なので、そうなる前にどうしても確認したいことを聞いておく。




「あの、もしかしてあなた魔人?」




「ん?ああ、そういやまだ名乗ってなかったな。そうだ!正しく俺こそが、大地の力を統べる溶岩の魔人だ!」




 俺が恐る恐る尋ねると、角の男改め溶岩の魔人は胸の前で腕を組み、はち切れんばかりに筋肉を膨れ上がらせて、豪快にそう名乗った。


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