3章 16.余所見は危険!
エキドナの友人に会ってみると、その男はなんと魔人であった。
彼女の口から魔人なんて言葉は1度も出てこなかったから、俺はてっきり会うのは獣人族だと思っていたので、思わぬ出会いに驚きを隠せない。
これで出会った魔人は3人目、シンリーの話だと魔人は5人しかいないらしいから、もうこれで半分の魔人と出会ったことになる。
そんなレアな存在と、こう何回も出会っていいものかと疑問に思うのだが、それでも出会ってしまったものは仕方が無いので、受け入れるしかない。
「あら、あなた達も魔人だったのね。私全然気づかなかったわ」
「目の前で能力を見せてないんだから、分からなくて当然よ」
「あ、エキドナは気づかなかったんだ」
「そうよー、魔人なら魔人と早く教えて欲しかったわ」
話を聞くと、どうやらエキドナは単純にドロシー達が魔人だと分からなかったらしい。
まぁ確かに呼び名も俺が勝手に決めたものだし、分からなくて当然か。
いや、シンリーの不気味な格好を見てれば、予想もつきそうだが。
今は頭の上に傘みたいに草を広げてるだけだが、移動中は完全に茂みの中に身を潜めてたからな。
「で、お前ら今日は何しに来たんだ?」
「灯ちゃんがここへ来たがってたから案内してあげたのよ」
「ほぉーそうなのか。そんじゃ小僧、お前は何の目的でこの街に来たんだ?」
「小僧か……、まあいいや。目的は何かと言われれば、そうだな……」
最初にここに来たいと思ったのは、単純にそろそろ街でゆっくり休みたいと思ったからだ。
その後はエキドナから獣人族や人攫いの話を聞いて、その辺りに興味を持ったのもの大きい。
「まぁ、簡単に言うと観光だな。獣人族という種族の方々も会ったことがないから、1度お目にかかりたくて」
「……そうか。まぁ魔獣や魔人と仲良くなれるんだから心配はしてねえが、この街にいる間はあまり下手なことはするなよ」
「どういうこと?」
「ここの連中は人間をあまり信用してねぇからな。あんまり目立ち過ぎると、面倒ごとに巻き込まれることになる」
「そうなのか。分かった、気をつけるよ」
「おう、なら良い」
確かに獣人族からすれば、攫ってくる俺達人間は敵の種族ということになるからな。
それでも好きこの街で人間と共存しているから多少の信頼はあるのだろうが、十分注意しておこう。
「そんでお前らこれからどうするんだ?」
「私はしばらく空けた間の話をしたいからここに残るわ」
「私ももう外は日差しがしんどいから残る……」
「バウバウ!」
エキドナは話があるらしく、シンリーは太陽を嫌ってここに残るらしい。
ルベロもエキドナと一緒にいるらしく、彼女の頭の上に飛び乗った。
「俺はもう少し街を見てみたいから、散歩でもしてくるよ」
「私も行く。お腹空いた」
「クウー!」
「ガウガウ!」
俺の発言にドロシー、クウ、マイラが賛同する。
これだけの面子がいれば、街を歩いても安全だと溶岩の魔人も許可をくれた。
ドロシーの食事代は痛いが、まぁそれは仕方ないだろう。俺もたまにはまともな料理を食べたいし。
「それじゃあ行ってくるよ」
「キマイラちゃんをよろしく頼むわ」
「ダーリン気をつけてね」
「小僧、目立つことはするなよ?」
そうして俺達は3人に見送られながら、溶岩の魔人の家をあとにした。
――
家を出ると、太陽はまだまだ天高く昇っている。
ここに着いたのが朝日が昇って少し経った頃だから、今は昼過ぎくらいだろう。
まだまだ時間には余裕がある。
「さて、これからどうしようか」
「ごはん!」
「分かってるよ、俺も腹減ってきたしな。ただその前にこの街の全体像をざっくりとでも把握したいから、冒険者ギルドがないか探してみよう」
「むぅー、分かった」
ドロシーはすぐにでも食事にしたかったらしいが、何も知らない街を歩くのだからまずは軽く情報を集めたい。
という訳で俺達は、人間の暮らす区画を目指すことにした。
恐らく冒険者ギルドがあるとしたら、そっちだろうからな。
今回はドロシー、クウ、マイラという懐かしいパーティで街を歩く。
このメンバーもシンリーと出会う前だから、もうかなり昔のことに思えてくる。
「ご主人様、どっち行くの?」
「えーっと、俺達が入ってきたのは南側からだから、北に向かうぞ!」
「分かった」
「クウー!」
「ガウガウ!」
向かう先を決めた俺達は、早速冒険者ギルドを求めて街を歩き始めた。
と言ってもリベンダで情報収集をしていた時は、砂漠に冒険者ギルドがあるという話は聞かなかったから、希望は薄いがな。
「にしても、ここにいるのはほんとに獣人族ばかりなんだな」
この街にはそれほど人は多くないみたいだが、それでも全くの無人という訳ではなく、歩いていたら数人の獣人族とすれ違う。
「皆耳や尻尾の形が若干違うし、獣人族と言ってもモデルとなってる動物の種類は多そうだ」
「ご主人様、あまりキョロキョロしてると変な人と思われるよ」
「おっと、そうだな。気をつける、うおっ!」
俺自身、かなり注意力が散漫になっていたらしく、ドロシーに指摘された。
しかし残念ながら、余所見していたら危ないしやめようとしたちょうどその瞬間、角から曲がってきた通行人とぶつかってしまった。
突然の衝突になす術もなく、俺は見事に尻もちをついく。
「す、すみません。余所見してたもので、こちらの不注意です」
俺は慌ててぶつかった人に顔を向け謝罪したが、その人物は俺を鋭い眼光で睨むだけで何も喋らない。
その人物は、真っ白な長いうさぎ耳に長い髪をポニーテールにまとめた、獣人族の女性だった。
彼女は一言も言葉を発さず、ただ怒りと憎悪を込めた視線で俺を睨みつけるだけだ。
ぶつかったのが相当腹立たしかったのか。
「ほ、ほんとにごめんなさい。どこか怪我などは――」
「……クズが!」
悪いのはおれなのだから謝るしかないと思い、もう一度謝りながら彼女に怪我などはないか確認しようとすると、小声でそんなことを言われ、脇をすり抜けて歩き去っていった。
「え……、俺、そこまでのことしたのかな」
「ご主人様サイテー」
「ぐふっ!うぅ、まさかこんなにダメージを受けるとは……。もう二度と余所見なんかするもんか!」
「クウー」
「ガウガウ」
ドロシーに白い目で見られ、クウとマイラに慰められながら、俺はそう固く決心した。
余所見は危険!
このことは俺の心の中に深く刻みつけておこう。
もうあんなゴミを見るような視線を向けられない為にも。
「じゃあ、気を取り直して先へ進もうか」
「うん」
明らかにテンションを落としつつ、俺達は再び冒険者ギルドを求めて歩き始めた。
しかし、この街の構造は変わっていて、一本道の真っ直ぐに伸びる道がほとんど無く、何度もくねくねと曲がり角を曲がりながら進まねばならない。
何度も方向感覚を失いかけながらも、どうにか先へと歩みを進める。
そんな風に歩き回っていると、溶岩の魔人の忠告も虚しく、いつの間にか俺達は厄介ごとに巻き込まれていた。
これがただの迷子であったなら、モンスターリングの力でルベロとエキドナの場所を割り出すことで、すぐに帰れる。
だが、残念ながら今回俺達が巻き込まれた厄介事は、迷子では無い。
「この薄汚いハンター共!今すぐその魔獣達を解放しなさい!」
「抵抗すると、痛いだけじゃすまないよ!」
細い路地に入った瞬間、俺達はなぜか複数の獣人族に道を塞がれていた。
しかも、あろうことか魔獣ハンターの濡れ衣まで着せられて。
「どうしてこうなった……」
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