2章 21. 怪獣大合戦
捜索をした翌朝、街の家屋の地下を全て調べても、結局研究所らしきものは見つからなかった。
ゴブリン達の現状が気になるので、今日は捜索の報告も兼ねてイルの元へ行くことにした。
ただ昨日はドロシーの食費でかなり出費してしまったので、ついでに冒険者ギルドへ寄って採取系依頼を受ける予定だ。
「そろそろ行くぞドロシー」
「待ってー」
宿の朝食をお代わりしているドロシーを急かして、冒険者ギルドへとやって来た。
冒険者ギルドへ到着すると、中はいつもより慌ただしくなっていることに気がついた。
「おはようございます。何かあったんですか?」
「ああ灯君、おはよう。実はね、森で魔獣の大群が移動しているっていう情報が入ったのよ。それで今はその対策でギルドはワタワタしちゃってるの」
受付のお姉さんの話によると、数千を超える魔獣の大群がどこかへと進行しているという情報が、今朝入ったということらしい。
恐らくゴブリンの群れだろう。イルの話では近いうちに動き出すと言っていたが、それが今日だったのだ。
「申し訳ないけど、今日は青階級以下の冒険者は森に入るのは禁止になってるから、灯君達は今日は森に入っちゃダメだよ」
「は、はは……。もちろん分かってますよ」
早々にイル達と合流しなければと思っていたタイミングで、受付の姉さんに釘を刺されてしまった。
「本当に〜?」
「本当ですよ〜」
受付のお姉さんは俺のことを若干信用してないようで、ジト目で疑ってきた。
「じゃあ私はまだやることがあるけど、今日は大人しくしとくのよ」
「もちろんですよ、それじゃあお疲れ様です」
受付のお姉さんも今日は忙しそうだし、これ以上話してボロが出ても不味いので、話を切り上げて冒険者ギルドを出た。
冒険者ギルドを出た後、森へ向かうことを悟られないように、森からは反対側の門へと向かう。
そんな感じで歩いていると、ドロシーが話しかけてきた。
「あれ、森へは行かないの?」
「森へは行くなって言われたからな。目立たないように裏から回っていくんだよ」
「あー、なるほどね」
「まぁ時間はかかるけど」
ゴブリンが動き出したということは、もういつ戦闘が起きてもおかしくないということだ。
回り道をしなければ森へ行けないのだから仕方ないが、遅くなるのはあまり良くない。
だから門を出た後はグラス達に乗って、全速力で森へと向かった。
クウのワープも森までだと、かなり長距離になるので不可能だ。
もちろんできるか出来ないかでいえば出来るのだが、その場合出現場所が安定しないので、最悪森のどこに出たのか分からなくて迷子になる可能性がある。
短距離で細かく刻んで移動する方法もあるが、それだと確実に人目に付くので危険。
ということで、森とは反対側の門から出てグラス達乗って大回りで森に入るのが、1番速いのだ。
「急がば回れということだな」
「急に1人で呟いてどうしたの?」
「んんっ!な、何でもないから。急ぐぞ!」
「うん」
「「「ブオォー!」」」
思わず呟いてしまったことをドロシーに拾われてしまい恥ずかったので、適当に誤魔化して先を急いだ。
その後もグラス達に乗って森まで走り、かなり時間を短縮させて到着した。
だが、人目につかないように大回りで移動したので、いつもよりかなり時間はかかった。
「ん?あれ、イルの仲間の魔獣か?」
「ジ、ジー!」
森に入るとすぐに、カブトムシ型の虫魔獣が出迎えてくれた。
その様子からは焦りが見える。もしかしたらもうゴブリン達と戦闘を始めてるのかもしれない。
「急いで案内してくれ!」
「ジー!」
俺達はカブトムシに案内されながら、全速力で森を駆け抜けた。
途中何度か他の虫魔獣とすれ違ったが、どこもかしこも慌ただしく動き回っている。
「あ、ご主人様あれ見て!」
周りの虫魔獣に気を取られていると、ドロシーが正面を指さしてきた。
俺もすぐさま前に視線を戻すと、なんとそこには暗い緑色の肌をした集団が蠢いていた。
「えっ!?あれゴブリンだよな?もうここまで来てるのか!?」
「結構いるよ」
「ジー、ジー!」
正確な数は分からないが、パッと見ただけでも50匹くらいはいそうだった。
カブトムシの魔獣はそのゴブリン達目がけて急に加速しだした。
あの速度で突撃するということは、ここで戦闘を始めるということだろう。
どうやら、、もうイル達とゴブリンの郡勢の戦は幕を上げてしまっているらしい。
「くそっ、こうなったら仕方ない。俺達も戦うぞ!」
「分かった!」
「「「ブオォォー!」」」
先にイルと合流して捜索の結果などを伝えたかったが、もう戦いは始まってしまっている。
俺達も参戦してここを突破するしか道はなさそうだ。
俺達もカブトムシの魔獣の後に続き、ゴブリンの群れへと突っ込む。
ドロシーは遠距離から泥弾を乱射して牽制し、グラス達も加速して突進する。
俺はモンスターボックスから、クウとマイラを出して方に乗せて戦力を底上げした。
「頼むぞクウ、マイラ!」
「クウ!」
「ガウガウ!」
そうして俺達は、迷いの森での魔獣達の戦いに身を落とすこととなった。
――イル視点――
時は少し遡り、灯達が街で捜索をしている時、森ではついにゴブリンどもに動きがあった。
「ジジジッ!」
「そうか、いよいよゴブリンどもが動き出したか」
偵察に出ていたハチ達の報告によると、ゴブリンどもは遂に行進を開始し、森の侵略に乗り出したようだ。
「それで、奴らはどう攻めてきておるのだ?」
「ジージジッ!」
「何?2手に別れておるだと?」
「ジッ!」
ハチの報告によると、ゴブリンどもは部隊を2手に分けたらしい。
その理由は分からないが、800匹程のゴブリンの群れはこちらに向かってきていて、残り1200匹は森の東側に位置する森の魔人の領域に進行している。
しかも、上位種であるハイゴブリンもほとんどがそちらに加わっていると言う。
「ちっ、我ら相手ならその程度の数で十分ということか。舐めおって!」
「ジジー!」
「まだボスのゴブリンは見えなかったか。分かった、再び偵察に出てくれ。こっちは戦闘の準備を進めておく」
「ジッ!」
ハチ達に再び偵察任務を任せると、彼らは足早に森の奥へと消えていった。
「よし!お前達、すぐに戦闘の準備に取り掛かるのだ!」
我の命令を聞いた虫達は、一斉に飛び立ち戦いに向けて準備を整え始めた。
そんな彼らをみ送った後、我は1人ゴブリンどもの目的について考え込んだ。
「しかし、なぜ部隊を分けたのか。全郡で攻めてくれば我らを倒すことも出来たかもしれぬというのに」
2000もの群れで攻めてくれば、我らとて楽には戦えぬというのに、わざわざ部隊をわける理由が我には分からない。
こういう時灯がいてくれれば何か分かったやもしれぬというのに。
だがそれも仕方ない。灯は今研究所の所在を調べてくれておるのだ。なら戦闘は我がどうにかせねばならぬ。
そんなことを考えながらも戦のための準備は進め、いよいよ早朝になって、ゴブリンどもと相見えることとなった。
「お前達、ゆくのだ!」
我の命令によって、虫達は無数の羽音を響かせながら、森の中を駆け巡った。
我らの領域に侵入してきたゴブリンどもに対し、我らは森の影から奇襲を仕掛けるゲリラ戦法をとった。
そのおかげで数の上で不利はあっても、被害を最小限に抑えて敵の数を一方的に減らしていく展開となった。
「奴らに舐められておるのは気に入らぬが、それでもここは好機と捉えておくべきだの。敵の数が少ないなら、とっとと全滅させて我らも東へ向かえば、森の魔人どもと上手く挟み撃ちが出来るはずだ」
正直森の魔人が我らと共闘をするとは思えない。
しかし、それでも我らが裏からゴブリンどもを追い詰めれば、結果的に挟み撃ちということになる。
そのまま乱戦に持ち込めば、恐らく奴らのボスも姿を見せよう。
「しかし、ゴブリンどもの攻め方は稚拙だな」
ゴブリンどもは我らの領域にただ広々と群を展開して攻めてくるので、追うのは面倒だがそれでも時間をかければ全滅は容易だ。
「もしや何か狙いがあるのか?」
ゴブリンどもの動きに我は頭を悩ませるが、その狙いが分からない。
「仕方ない、おいカブト!お前は灯達を迎えに行くのだ!いつ来るかは分からぬが、そう時間はかからんはずだ。今は彼の知恵が必要だから、ここまで連れてくるのだぞ!」
「ジジー!」
これ以上ゴブリンどもの好き勝手にはさせられない。
だからここは早急に灯と合流して、作を練る必要があると判断し、カブトを迎えに行かせることにした。
「よし、灯達が来るまで我らはゴブリンどもの数を減らすぞ!」
こうして迷いの森での、怪獣大合戦は開幕したのだった。
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