2章 17. ゴブリンの軍勢は2000
冒険者ギルドへと情報収集をしているとティシャさんと再会した。
「あれ?今日は一緒にいる魔獣はプルムだけなのね」
「ええ、他の面々は目立つ奴らしかいないんで……」
ティシャさんの疑問に俺は苦笑いで答える。
実際グラスバイソンを仲間にしていることすら珍しいのだから、クウ達を連れていたら何に巻き込まれるか分かったもんじゃない。
だから普段連れ歩くのはプルムのみで、後は皆んなモンスターボックスの中にいる。
「確かに他の子達は珍しいものね。それで今日はどうしたの?」
「実はちょっとした情報収集収集をしてまして……」
ティシャさんにはこれまで沢山助けてもらった。
だが、いきなり喋る魔獣について聞いても、怪しまれる可能性の方が高いだろう。
しかも魔獣と協力して、人を倒そうとしてるなんて話したら、変な疑いをかけられるかもしれない。
だから内容はぼかしつつ、それとなく聞いてみるか。
「ティシャさんは喋る魔獣の噂とかって聞いたことあります?」
「喋る魔獣?魔人じゃなくて?」
「はい、魔獣です」
「うーん」
突拍子もない質問だと言うのに、ティシャさんは真剣に悩んでくれる。
本当に良い人なだけに、なんだか騙しているようで申し訳ない。
ティシャさんはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「ごめんね、私はそういう話は聞いたことないわ」
「そうですか、ありがとうございます」
ティシャさんは喋る魔獣については特に知らなかった。
まぁギルドに情報が無いのだから、他の冒険者で知っている人もほとんどいないのだろう。
しかし、肩を落としつつ冒険者ギルドを後にしようとしたところで、去り際にティシャさんが何か思いついたように呟いた。
「そうそう、迷いの森の調査なら騎士団が行ってるから、エリーに聞いてみたら何か分かるかもよ?」
「なるほど、それじゃあこれからエルフルーラさんの所へ行ってみます!ありがとうございます!」
「いえいえ、頑張ってね!」
「はい!」
ティシャさんから思わぬ情報の糸口を手に入れた俺達は、目的値を変更して騎士団の支部へと足を運ぶことにした。
――
エルフルーラさんに会うために騎士団の支部に訪れた。
入口の警備をしている騎士の人にエルフルーラさんはいるか尋ねると、運良く今日はまだ支部で待機していると教えてもらった。
案内されて支部へと入ると、事務室のような場所で何人かと談笑をしているエルフルーラさんを発見した。
「エルフルーラさんお久しぶりです。冒険者の灯です」
「ああ、君か。久しぶりだな」
「先日は助けて頂いてありがとうございました」
「気にするな。困っている人を助けるのは騎士として当然だ」
先日の迷子の件で改めてお礼を言うと、エルフルーラさんは誇らしそうに胸を張って頷いた。
だが、灯は知らない。
エルフルーラは、魔眼の力を買われて早いうちから隊長になってしまった。
そのせいか、忙しさも相まって民間人と触れ合う機会が全く無く、騎士になってから人に感謝されたことが無かった。
だから灯に何度もお礼を言われるのが、心底嬉しいのだ。
そんな浮かれ気分の彼女に連れられ、俺達は応接室へとやってきた。
「で、今日はどういった要件で来たんだ?」
「ええっと、今ちょっと調べものをしてまして、それでティシャさんからエルフルーラさなら何か知ってるかもと言われて来たんです」
「ふむ、それで何を聞きたいんだ?」
「実はですね――」
エルフルーラさんに促されて、俺はティシャさんと同じように喋る魔獣について何か知らないかを聞いてみた。
「なるほど、喋る魔獣か。興味深い話だが、すまんな。私はそのような話は聞いたことが無い」
「そうでしたか……」
もしかして騎士団なら何か知ってるかと思ったが、やはりそう簡単にはいかないようだ。
まぁ知らないものは仕方ない。
「ああだが、ここ数年騎士団は研究のために魔獣を生け捕りにしているんだ」
「研究ですか」
「うむ、もしかしたら喋る魔獣についての研究をしてるかもしれぬ。私も少し調べてみよう」
「助かります。よろしくお願いします」
今回の件とは関係ない可能性もあるが、魔獣の研究をしているのなら、別のアプローチで何か手がかりが見つかる可能性もある。
エルフルーラさんには迷惑をかけるだろうが、これまで何の足掛かりも無かったのだから、ありがたく縋らせてもらうことにした。
「では、私も午後は見回りがあるから、ここらで失礼するぞ」
「はい、今日はありがとうございました!」
「ああ、もう迷子にはなるなよ」
「はは、用心します」
最後にエルフルーラさんに冗談交じりに釘を刺されて、俺は騎士団の支部を出た。
騎士団を出た後は、当初の目的通り街を出て森へと向かった。
途中ドロシー達に昼食のため狩りを任せたら、シカを2匹狩ってきたのでそれを食べてから、イルと合流した。
「やあイル」
「む、上がっているようでではないか、よく来たな!さぁさぁ、ゆっくりしていくがいい」
以前イルと会った大木の根の下に行くと、彼女に盛大に歓迎された。
彼女は嬉しそうに俺に近づいてくると手を握ってきた。
魔獣とはいえ人型だし、こういうのは恥ずかしいからやめて欲しい。
まぁ言っても聞かないだろうが。
そんなことは置いておいて、俺は森の魔人との出来事や、街での情報収集の結果を伝えた。
「なるほど、森の魔人とは協力関係にはなれんかったか」
「力になれなくてすまん」
「いやいや、灯が謝ることではない。元々仲間になるのは無理な相手なのだかな」
イルはダメ元のつもりだったようで、協力関係になれなかったことはなんとも思っていないらしい。
でも正直、こちらにはドロシーという魔人もいるし、簡単に仲間に引き込める思っていたから、油断していたところはある。
まさか魔人同士の対決になるとは、思ってもみなかった。
だが、まだ完全に敵対した訳では無い。今後も根気強く仲間に引き込む努力はしよう。
魔人の力は絶大だからな。
「イル達の方はどうだった?」
「うむ、我らは攻め入るためにゴブリンの勢力を調べておった。その結果通常のゴブリンだけでも、その数は2000はいることが分かった」
「2000!?ちょっと多過ぎるんじゃないか?」
イル達の情報によると、ゴブリンの軍勢は2000を超えることが分かった。
戦などは経験のない俺でも、その数が圧倒的に多いことは分かる。
しかし、イルの話は終わらない。彼女は追い打ちをかけるように続けた。
「それに合わせて、ゴブリンの上位種である、ハイゴブリンの存在も確認しておる。その数は100程だな」
「上位種までいるのかよ……」
「うむ、そしてその上に君臨するのは恐らく……」
「人造ゴブリンか」
俺の問いにイルは静かに頷いた。
「そいつの姿は見たのか?」
「いやまだだ。だが、奴らの近くに行った時に我と同じ気配を感じた。向こうにもバレたかもしれぬが、いるのは確実だな」
「そうか……」
数千のゴブリンの軍勢に加えて人造ゴブリン。
敵の戦力は圧倒的だ。
それを生み出したした人間の目的は分からないが、何かよからぬことを企んでいるのは間違いないだろう。
しかし、イルはその数を前にしても怯える様な表情は一切見せない。
もしかしたら彼女には何か勝算があるのかもしれない。
そう思って聞いてみたが……
「ゴブリンなどいくら数を揃えようと、我らの敵ではない。それにこちらには灯もおるのだしな」
と、自信満々に肩を叩きながら言ってきた。
そんなに期待されても俺自身は何も出来ない一般人だし、ゴブリン数だって明らかに危険なはずだ。
だと言うのにイルの余裕な態度を見て、俺は今回の戦いに不安を覚え始めた。
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