2章 10. 理解出来ない
ドロシー達を救出した後、エルフルーラさんの魔眼のおかげで簡単に迷いの森を抜け出せた俺達は、街の門まで戻ってきた。
街に着いた頃にはもう夜中になっていたので、ティシャさん達とはすぐに解散となった。
今回の件で彼女達には沢山の恩が出来てしまったので、必ず返さねばならない。
俺達も今日はもうくたくたなので、宿に帰ったら死体のように眠りついた。
こうして冒険者としての初日は、波乱万丈で何も達成出来ないまま終わった。
そして翌朝、宿の朝食を頂きながら俺はドロシーを叱っていた。
「ドロシー、今回の件で分かっただろうが、人の話はきちんと聞くんだぞ」
「うぅ、分かってるよ」
「運良くティシャさん達に協力してもらえたから助かったものの、俺達だけじゃあの森は攻略出来ないんだ。もう忘れるなよ?」
「はい……」
ドロシーにはきつく言ったが、もしティシャさんに出会えていなかったら、ドロシー達を救い出せなかった可能性は高かった。
ドロシーもそのことはよく分かったようなので、もうこれ以上は何も言わない。
実際、危機に面しても彼女はクウとマイラを守りながら、懸命に戦ってくれたのだから。
と、そういう風に俺が勝手に解釈してしまったので、実はこの時ドロシーが、暴れ回らなくてよかったー、なんて思っていたことなど知る由もなかった。
ともかく、こうして俺達は無様な冒険者デビューを飾ったのだった。華々しさなど微塵もない。
――ティシャ視点――
森でゴブリンの群れに襲われている新人冒険者を見つけ、私はやれやれといった気持ちで助けだした。
どうせまた、いつもの様に新人が無茶をしたのだろうと、そう思いながら私はゴブリンをたやすく撃退した。
しかし、そうして蹴散らした後彼の元に向かうと、どうにも様子が変だった。
変と言うよりは反応がおかしかった。
彼の顔には不安や焦りなど微塵もなかったのだ。
ただ目の前に現れ、そして散っていったゴブリン達に対し、やれやれ困ったヤツらだな、とでも言いたげな目をしていたのだ。
不思議に思い彼をよく観察してみると、彼の肩にはスライムが乗っていた。
なんと彼はテイマーだったのだ。
ここ最近は全く見ない戦闘職だった為、その存在を失念していた。
私はすぐさま彼に謝罪した。彼の余裕な表情から、もしかしたら彼はゴブリンをテイムするつもりだったのかと思い。
しかしそんな私に対し、彼は苦笑混じりにお礼を言ってきた。
どうしようか困っていたので助かりましたと。
彼の名前は灯と言うらしい。この辺りではあまり聞かない名だ。
私は灯君のことを面白い人だと思い気に入った。だからもう少し話を聞いてみたくなって、何となく食事に誘ってみた。
これはただの気まぐれだった。
それなのに、ここまで衝撃的な展開が連続で起こるとは、思ってもみなかった。
門の前で灯君と共に仲間の帰還を待っていたが、一向に帰ってくる気配はなかった。
彼は迷いの森に呑まれたんだと言い、慌てて助けに行こうとしたので私は止めた。
新人冒険者が、迷うほど森の奥へ進むなんてありえないと半信半疑だったが、本当だったら危険なので私は昔からの友人であるエリーを紹介した。
エリーは魔眼持ちなので、夜の森でも安全に行動できる。だから、すぐさま灯君の仲間の救出に向かうこととなった。
森に入って暫くすると魔獣の群れが襲ってきたので、矢で撃ち落としては進むというのを何度か繰り返した。
しかし、やがて手に負えないほどの魔獣の群れに襲われだした。
倒しても倒しても、次から次へと魔獣の波が押し寄せてくる。
灯君は今丸腰で森に来ているので、これ以上の探索危険だと判断し、一時撤退しようとした。
だがその直後、灯君が何かを叫ぶとどこからともなく3匹のグラスバイソンが現れた。
訳が分からず混乱していたが、灯君の指示を私はなぜかすんなりと受け入れてしまい、言われるがままにグラスバイソンの1匹に飛び乗った。
その瞬間、グラスバイソンは風のように森を駆け抜けて、魔獣の大群を突破してしまったのだ。
魔獣の数に私もエリーも撤退しか頭に無かったのに、灯君にはそれに対する打開策があったのだ。
驚愕した。
その後はもう灯君に言われるがまま、ただ着いて行くだけだった。
訳も分からないまま灯君の仲間は救出され、訳も分からないまま街の門まで帰ってきていた。
一瞬の出来事過ぎて、私には到底理解出来なかった。
まず、グラスバイソンに乗れているということが信じられなかった。
獰猛な闘牛として名高いグラスバイソンだ。その背に乗った人間等見たことも聞いたことも無い。
ただ、その体毛はほかほかでふわふわの芝生みたいで最高だった。抱きしめたまま眠ってしまいたいぐらい心地いい。
それと、灯君の仲間があの状況で無事だったということも理解出来なかった。
新人冒険者が、迷いの森に呑まれて半日無傷でいられたなど、とてもじゃないが信じられない。
他にも理解出来ない点はいくつもある。
ただ唯一理解出来るのは、灯君達はただの冒険では無いということだ。
――
朝食を終えた俺達は、冒険者ギルドへと赴いた。
目的は昨日受けた採取の依頼の報告だ。
この依頼は、受けてから3日内に終わらせるものだったので、昨日のことがあっても余裕はあった。
こうして俺は初めての依頼の報酬を受け取った。
その額は1000ブルム。多く見積っても2食分の報酬だ。
騎士団から頂いた報酬に比べればはした金だが、それでも自分で依頼を受けて自分で貰った報酬。
元の世界でもバイト経験のない俺にとっては、初めての体験で嬉しかった。
「ご主人様、私の依頼は?」
「ドロシーは昨日目的の魔獣を倒してなかったから無しだよ。素材を売ればいくらか貰えたかもしれないけど、それも全部食ったみたいだしな」
「ぶーぶー」
「文句言うなよ。今日は一緒にその魔獣を狩りに行くんだからさ」
「むー、分かった」
昨日の教訓を得た俺達は、今後依頼は全て一緒に受けることにした。
そうすればドロシーの行動もみはれるし、戦闘も問題なくこなせるしで、他人に迷惑をかけることも無くなるからな。
「じゃあ早速行こうか!」
「うん!」
こうして俺達は、再び迷いの森へ向けて出発した。
今回は迷わないように細心の注意を払いながら。
そんな風にして、迷いの森で依頼をこなす生活を続け、はや2週間が経過した。
その間に、再びティシャさんとエルフルーラさんと会い、お礼として食事をご馳走した。
本来ならばもっと色々とお礼をしたかったのだが、彼女達に遠慮されてしまった。もし彼女達が困ったことになったら、率先して助けようと心に誓った。
それとは別件で、俺達は迷いの森のとっぱを目的としているので、エルフルーラさんに協力を頼んだ。
だが、彼女はこの街を護る赤軍リベンダ支部の隊長を務めているらしく、街を離れることが出来ないからと断られた。
でも正直断られるとは思っていたので、俺は気にしていない。
迷いの森の対策はまた後日考えればいい。
そうして毎日依頼をこなしていたら、いつの間にか俺たちの階級が緑に上がった。
そのお陰で、森の少し奥の魔獣を狩る依頼も受けられるようになったので、俺達は早速それを受注した。
のだが――
「ご主人様、これどういうこと?」
「いや、オレにも分かんねぇよ……」
「クウー」
「ガウゥ」
「!」
俺達はなぜか無数の昆虫型の魔獣に囲まれていた。
特に襲ってくる雰囲気もなく、ただ俺達をじっと観察するように。
クウ達もその違和感に戸惑っている。
俺自身も初めてのことに少し恐怖がある。
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