2章 9.弾丸作戦
ドロシー、クウ、マイラは再び植物系魔獣に襲われ、戦闘を強いられた。
「しつこいー!」
「ク、クウ……!」
「ガウゥー」
ドロシーは苛立ちはあるが、まだ体力的には余裕がある。
しかし、クウとマイラはまだ子どもということもありもう限界だった。
昼過ぎから魔獣を狩り続けて来たが、日が落ちてからの連戦は歴戦の騎士でも過酷だ。それなのに彼らは、限界であるのに未だに戦い続けている。
伝説のドラゴンに魔獣達を中でも上位の存在であるキマイラ。この2匹だからこそここまで戦ってこれたのだろう。
「いい加減にしないと、本気だすよ……?」
「クアー!」
「ガルウゥ!」
押し寄せる魔獣の波に対し、3匹は怒りを露わにした。
ドロシーはドスをきかせた声で魔獣を脅し、全身の泥を膨れ上がらせて魔人の本領を発揮させようとする。
クウは焦りと披露から声を荒らげ、空間魔法を暴走させようかと目論む。
マイラはもう森のことなどお構い無しに、無慈悲に炎を振り撒こうかと思案する。
ドロシー、クウ、マイラはお互いを巻き込まないようにと、これまで力を抑えて戦ってきた。
しかし、もうそんなことを気にしている余裕も無くなった現在、何振り構わず全力で対抗しようと覚悟を決めた。
その瞬間――
「ドロシー、クウ、マイラ!助けに来たぞ!」
姿は見えないが、森の奥から主である灯の声が響き渡った。
――
昆虫型の魔獣から逃れる為、俺達一行はグラス達に乗り森を駆け抜けた。
エルフルーラさんに先頭を任せ、彼女の魔眼を頼りに森の奥地へと進む。
「変ね……、どうしてこんなに魔獣が集まってくるのよ」
「あー、多分それ俺のせいです」
「どういうこと?」
「俺動物とか魔獣に好かれやすい体質で、それで良く襲われるんですよ」
「だからテイマーだったのね」
「すみません、事前に言っておくべきでしたね」
森を捜索すれば、こうなるなんてこと分かっていたはずなのに、ドロシー達を探さなきゃいけないという焦りが思考を鈍らせた。
旅だの冒険だの、初めてのことが続いて精神的に疲労が溜まっていたのかもしれない。
「いやいい、たぶん先にそんなことを言われても信じなかっただろうしな」
しかし、エルフルーラさんはそんな俺の謝罪に対し、そこまで怒ってはいない様子だった。
そんなエルフルーラさんにティシャさんも同意したように続ける。
「そうねー、私も灯君は魔法で従えてるだけだと思ってたし、魔獣と仲のいい人なんて見たことも聞いたこともなかったわ」
「そうなんですか?」
「ええ、魔獣は本来人間と敵対する存在だから、仲良うなろうなんて考えも無いのよ」
ティシャさん達には見限られてしまうかもと一瞬思ったが、そんなことは無かった。
この件が片付いたらきちんとお礼をしなければ。
「む、この先で植物系の魔獣が何かを囲んで戦っているぞ!」
「何を囲んでるんですか?」
「小さいが強い魔力を持った魔獣が2匹と……、何だこれは?妙な魔力反応を持った生物がいるぞ」
小さいが強い魔力を持った魔獣なら、クウとマイラの可能性がある高い。
妙な生物というのも、ドロシーは魔人だから可能性はある。
「ねぇ、虫達がもうすぐそこまで追い付いてきてるわよ!」
「うわっ!あんなに沢山かよ!」
ティシャさんの言葉で慌てて振り返ると、字面を這うアリのような魔獣や、空を舞うチョウやカブトムシ、クワガタムシの様な魔獣が無数に押し寄せていた。
虫は昔から好きだったが、その大群の異様さには流石の俺も全身に鳥肌がたった。
「エリーどうする?」
「くそっ、こんな状況じゃ……!」
あまりの光景にベテランの冒険者と騎士にも、焦りの色が見えた。
しかし、後ろと前の魔獣の種族の違いから、俺はあることを閃いて提案した。
「エリーさん、俺に考えがあります!着いてきて下さい!」
俺はそう言って、グラスの腹を軽く小突き加速させて先頭に躍り出た。
「どうする気だ!?」
「ちょっと〜、大丈夫なの?」
「任せて下さい!」
俺は心配する2人を自信満々といった様子で言い含めながら、ドロシー達がいるであろう所へと全速力で向かった。
視線の先にめを凝らすと、森の吹き抜け辺りで木の形をした魔獣や、巨大な食虫植物の魔獣など、様々な植物系の魔獣が蠢いている。
そんな奇怪な集団の中で、隙間から泥弾の流れ弾が空を通り抜けたのを俺は見逃さなかった。
あそこにドロシー達はいる。俺はそう確信した。
「ドロシー、クウ、マイラ!助けに来たぞ!」
俺は姿の見えないドロシー達に向けて、腹の底から声を上げた。
ドロシー達を安心させるため。そして魔獣達の気を引くために。
「プルム、分裂してグラス達にそれぞれ着いてくれ!」
俺はモンスターボックスからプルムを呼び出し、即座に指示を出して3匹に分散させてつけた。
「グラス、ホーン、ミルク!1箇所に集中して突っ込むぞ!」
「「「ブオォォー!」」」
「ちょ、灯君!?」
「うぅっ!なんて速さだ……!」
俺の掛け声にグラス達も呼応し、3匹は1列になって最高速で魔獣の集団に突撃した。
グラスバイソンは時速50キロ程で、3時間走り続けることが出来る。
しかし時間を犠牲にすれば、最高速度は100キロを超える。
当然そんな速度を出されれば、乗っていることなど不可能なので、事前にプルムを呼び出しておいた。
その粘着質な体で、俺達の体を支えてもらっていたのだ。
ティシャはその行動に悲鳴を上げ、エルフルーラさんはグラスバイソンの最高速度に驚愕といった様子の声を上げていた。
「すみません2人とも、すぐすみますんで!」
ここまで手伝ってくれた彼女達には申し訳ないが、もう少しだけ耐えてもらいたい。
「「「ブオォー!」」」
2人に謝罪していると、あっという間に魔獣の集団の目の前まで来ており、とうとう先頭を走っていたグラスと魔獣達が衝突した。
「うおぉ!」
その衝撃で俺は体が宙に浮いたが、プルムの安全ベルトのお陰で吹き飛ばされずにすんだ。
そしてその後ろを隙間を閉ざさないようにホーン、ミルクが続く。
その背後には、大量の昆虫型の魔獣を引き連れて。
「ギミャー!」
「ジュルルルルル!」
「グルグルグル!」
その存在に気づいた植物系の魔獣達は、慌てふためいた鳴き声を上げだした。
そうした一瞬の隙を突いて、俺達はドロシー達の前へと遂に躍り出た。
「クウ、マイラ戻れ!」
「クウ!」
「ガウガウ!」
今はまだ、再会を喜んでいる暇はない。俺は即座にモンスターボックスを掲げてクウ達を救出した。
そして救出する確認した俺は、すぐさまドロシーへ視線を移し、手を差し伸べて叫んだ。
「掴まれ!」
「うん!」
駆け抜け続けるグラス。
俺の手に向けてドロシーは、泥を触手のように伸ばすことで何とか繋がる。
植物系の魔獣の集団を突破し、たった間髪入れずにクウ達を回収。そしてすぐさまドロシーをキャッチ。
この間ほんの数秒の出来事であったが、俺の弾丸作戦によりドロシー達を救出することに成功した。
「グラス、ホーン、ミルクこのまま森まで逃げろ!」
「「「ブオォー!」」」
俺は流れるように指示を出して、グラスを先頭に3匹は隊列を乱さず再び魔獣を蹴散らしながら森まで駆け抜けた。
隙を突かれた植物系の魔獣達は、一瞬出遅れて追いかけてこようとしたが、虫の魔獣の群れが襲ってきてそれどころではない様子だった。
これこそが、俺の狙っていた作戦だ。種族の違う魔獣同士をぶつけることで場を混乱させ、その隙に逃げる。
即興にしては上出来な作戦だと思う。
「おい!なんて無茶な行動をするんだ!」
「す、すみません……」
「まぁまぁエリー落ち着いて。何だかんだで上手くいったんだしいいじゃない」
「しかしなぁ……!」
説明する暇もなかったとはいえ、さすがにエルフルーラさんは御立腹で鬼のような顔をしていた。
ティシャさんはそんなエルフルーラさんを宥めるように、朗らかに笑っていた。
後で誠心誠意謝罪とお礼を言おう。
「ありがとう、ご主人様」
「とりあえず、無事で良かったよ……」
ドロシーは俺の腰に手を回し、強く抱き締めながらそう呟いた。
そんな態度のドロシーに、俺も怒りが少し抜けてしまった。
まぁドロシーは最後までクウ達を守って戦ってたようだし、今回の迷子の件は少し大目に見よう。そう心に決めた。
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