2章 7. そんなフラグを回収されるとは

 自分達が迷子になったと、1番に気づいたのはマイラだった。




「マイラどうしたの?」




「ガウ!ガウ!」




 マイラは鼻が利くので、クウのワープがなくとも灯の匂いを探ることで帰ることは出来る。


 しかし、現在どこからも灯の匂いはせず、それどころか自分達の匂いすらもどこからもしない。


 この危機的状況にいち早く気づいたマイラは、慌ててドロシーの足をつついて知らせようとした。




「クウ!」




 続いてクウも、自分のワープが何度も失敗したことで、何かしらの罠にかかったのではないかと異変を感じ始めた。




「クウクウ!」




「ガウー!」




 クウとマイラが同時にドロシーを問い詰めてくる。その異常な状況に、さすがのドロシーも違和感を覚え、何が原因はないかと考え始めた。


 考えることが大嫌いなドロシーだが、クウとマイラに現状を任せるのは荷が重いだろう。




 そう判断した彼女は、重い腰を上げた。




「分かった。考えるから少し待ってて」




「クウゥ」




「ガウー」




 ドロシーはクウとマイラを宥めると、近くにあった岩に腰掛けて、頭を働かせた。


 クウとマイラも、普段のドロシーを知っているので心配そうに彼女を見守っている。




 そうしてドロシーは、人生で初めて本能に従うのではなく、頭を使った。












 ――












 ティシャに助けられた俺とプルムは、森を抜けて現在は街の門の前にいる。


 時刻はもう夕暮れ時だ。




「お仲間さんはまだ来ないの?」




「おかしいですね、こんなに遅くなるはずはないんですが……」




 未だドロシー達が帰ってこないことに俺は少し焦りを覚え始めた。


 冗談で、ドロシーは受付のお姉さんの話を忘れてるんじゃないかとか思ったが、まさかそんなフラグを回収されるとは思わなかった。




 少し申し訳なさもある。もちろんそれは、ドロシーの間抜けさを考慮しなかったこと関してだが。




「仕方ないな。俺ちょっと探してきます」




「ダメよ。夜の森は危険だし、2次災害になる可能性もあるわ」




「でも仲間が……」




「分かってるわ、でも迷いの森を攻略するには幻惑魔法対策は必須。あなたはその魔法を使えるの?」




「う、それは、そうですね」




 急いで森に探しに行こうとしたが、ティシャはそれを許さなかった。


 だが、彼女の言うことも最もだ。ドロシー達を探しに行っても、全く出会えられず、お互いに森をさ迷う姿が目に浮かぶ。




「なら、誰か協力者を探します。この街にいる人なら、幻惑魔法への対策がある人も多いはずだ」




 俺はティシャにそう告げると、急いで街へと駆け出した。




「ちょっと待って」




 しかし、ティシャに首根っこを掴まれたことで、俺は見事に転ばされてしまった。




「痛っ!」




「あ、ごめんなさい」




「ええ、平気です。それより何ですか?」




「えっと、協力者についてなんだけど、私にアテがあるわ」




「本当ですか!?」




 こうして俺は協力者求めて、ティシャの後について行って街へと戻った。




「例の協力してくれそうな人を呼んでくるから、あそこの酒場で待っててくれる?」




「分かりました」




 街へ戻ると、協力者を連れてくるというティシャと一旦別れた。




「よし、俺達は宿に戻るぞプルム。グラス達を連れてこよう」




「!」




 俺達はすぐに酒場には入らず、宿に戻ってグラス達と合流した。






「お前達、大人しくしてたか?」




「「「ブモォー」」」




 宿にある馬小屋へ向かうと、度の疲れを癒していたグラス、ホーン、ミルクの3匹がオレに飛びついてきた。


 その様子を見る限りだと、もう旅の疲れは完璧に取れたみたいだ。




「あれ、グラスなんか大きくなってないか?」




「ブオ?」




 グラスは出会った時は、ホーン、ミルクと比べると2回りほど小さかった。


 だが、今の彼等の姿は皆ほぼ同じだ。まだホーンの比べると角の長さは短いが、大きさは十分成体になってる。




「たった1週間でこんなに成長するのか……」




「ブモォー!」




 グラスは何も気づいていない様子で、いつも通り無邪気にじゃれてくる。


 心はまだまだ幼いみたいだ。




「まぁいいか。それより、休んでるところ悪いんだけどさ、ドロシー達が森で迷子になったんだ。お前達も協力してくれないか?」




「「「ブモォー!」」」




 ドロシー達が迷子になっていると話したら、グラス達は力強く吠えて同意してくれた。


 ドロシー、クウ、マイラがいない今、戦闘になったらグラス達が頼りだ。


 彼らとはまだ一緒に戦ったことは無いが、闘牛と呼ばれるくらいだからかなり頼りにしている。




「よし、それじゃあ皆はモンスターボックスに入っててくれ。後で出番が来たら呼ぶからさ」




「!」




「「「ブモォー!」」」




 気合い十分なプルムとグラス達をモンスターボックスに戻した俺は、再びティシャと約束をしていた酒場へと戻った。




「遅かったわね。どこ行ってたのよ?」




「すみせん、ちょっと宿に用があって……」




「?まあいいわ、それよりもほら、座って」




「はい、失礼します」




 ティシャさんは不思議そうな顔をしながらも、気を使ってくれたのか、あまり触れないようにして俺を席に促した。


 ちなみにティシャさんの隣には、もう1人初対面の女性が座っている。




「紹介するわね。彼女が幻惑魔法に対処出来る、知り合いのエルフルーラよ」




「初めまして、俺は竜胆 灯です」




「騎士のエルフルーラだ。よろしく」




 お互いに自己紹介をすると、エルフルーラさんに手を差し伸べられたので、俺はその手を握った。


 ティシャさんの紹介だから、てっきり冒険者なのかと思っていたので、まさかの騎士で少し驚いた。




「てっきり冒険者の方かと思いました」




「あー、私も昔は騎士だったのよ。エリーはその時の同僚なの」




「そうだったんですか」




「それより、さっきティシャから少し聞いたんだが、君の仲間にが森で迷っているというのは本当か?」




「はい、待ち合わせ時間を過ぎても帰ってこなくて。今日冒険者になったばかりなんで、森のことも忘れてたんだと思います」




 一応忠告はしていたんだが、初日だしドロシーとは行動を共にしておくべきだった。




「そうか、ならばすぐに探しに行くべきだな」




「でも今からだと危険じゃない?」




「夜なら虫系の魔獣が増えるが、ゴブリンは大人しくなる。奴らは光に惹き付けられるから、照明系の魔道具を使えば上手く気を引けるはずだ。それに目の利く私なら夜の方が都合がいい」




「あー、確かにそうかもね」




 なぜか、エルフルーラさんとティシャさんで話が進んでいるが、夜だが捜索に動いてくれる様子だ。


 会ったばかりだと言うのに、親切な人達で頭が上がらない。




「てことは、今から一緒に来てくれるんですか!?」




「ああ、すぐに行くぞ」




「ありがとうございます!」




 こうして俺は、ティシャさんとエルフルーラさんの助けを借りて、ドロシー達の捜索に動き出した。


 助けてもらうのだからと、俺が店の会計を済ませている間に、2人は先に店を出た。










 ――








 店を出たティシャは、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてエルフルーラを問い詰めた。




「それにしても、何よあの喋り方は」




「う、うるさいなーもう。プライベート外では騎士として振る舞わなきゃいけないのよ!」




「まだそんなこと言ってたんだねー。そんなだからいつまで経っても彼氏が出来ないのよ」




「余計なお世話よ!」




 からかうティシャにエルフルーラは掴みかかろうとするが、軽々と避けられてしまった。


 そして、逃げようとするティシャを追いかけようとしたところで、間の悪いことに灯がやってきた。








 ――








 会計を済ませて店を出ると、なにやらティシャさんとエルフルーラさんが、揉めている様子だった。


 もしかして、今回の件で喧嘩をしてしまったのだろうか。


 だとしたら俺なんかのせいで仲を悪くさせてしまい申し訳ない。そう思い俺はすぐに謝った。




「す、すみませんエルフルーラさん。今回の件は俺が悪いんです。ティシャさんを責めないであげて下さい」




「は、はあ?何言ってんの……んん!何を言ってるのだ?」




「あっはっはっ!まぁ灯君もこう言ってることだし、許してよ」




 俺が謝ると、エルフルーラさんは不思議そうな顔をして口調も変になり、ティシャさんは急に笑いだした。


 何が面白いのだろうか。俺には全く分からない。




「もういい、とにかく森へ行くぞ!」




「は、はい、よろしくお願いします!」




「はーい」




 よく分からないが、問題は片付いたみたいで安心した。




 ともかく俺達は、ドロシー達の捜索のために夜の森へと向かった。

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