1章 34. 次の目的地

 こうして色々な出来事があったが、1週間の治療も終わり、ようやく自由に動けるようになった。


 だがやはり左手の拳の火傷は完治には至らず、少し傷の痕が残っている。


 でもこれは自分が無茶をした結果なのだから、甘んじて受け入れるしかない。




「クウ!」


「ガウゥ!」


「!」


「おっと、はははっ!心配かけたなクウ、マイラ、プルム」




 俺は医務室から出ると、モンスターボックスからクウ、マイラ、プルムを呼び出す。


 すると出てくるや否や、真っ先に俺に抱きついてきた。


 抱きついてくるのはいつものことだが、今回はいつにも増して抱きつく力が強い気がする。


 療養中クウ達には、食事以外ではほとんどモンスターボックスの中で生活してもらっていた。


 だから、俺のせいで随分と窮屈な生活を強いていたから、今日からは自由に出来るとあって無駄にテンションが高い。




「よお灯、もう傷の方はいいみたいだな」




 そんな風にクウ達と戯れていると、ライノさんがやってきた。




「ライノさん、はいお陰様で痛みも全くありません」


「そいつはよかった。ところで灯、お前これからどうするつもりなんだ?」


「これからですか……、取り敢えずの目標はクウが安心して暮らせる場所探しと、マイラを故郷に送り届けることと、後は自分の世界に帰ることですねー」




 ライノさんに質問され、俺は再度これからの目標を思い出すように語った。


 そんな俺の目標を静かに聞いていたライノさんが、1つ提案をしてくれた。




「それならまずはマイラの故郷に行ってみたらどうだ?他の2つの目標はすぐには行動できないだろうが、マイラの故郷なら場所も分かってるからな」


「え?そうだったんですか?」




 俺はライノさんがマイラの故郷を知っていると言って驚いた。




「元々場所は分かってたんだ。ただ、道中でマイラを大人しくさせておく方が俺達には問題なんだよ。絶対に途中で逃がす自身がある」


「あー、確かに竜の蹄から保護する時点で逃がしてましたもんね……」


「うっせぇ」




 ライノさんの話を聞いてなぜかすんなりと納得してしまったが、ライノさんはそれが少し気に入らなかったらしい。


 唇を尖らせて少し拗ねている。そんなことおっさんにされても嬉しくないんだが。




「でもそういうことなら、まずはマイラの故郷を目指すことにしますよ」


「ああ、それがいい。で、場所なんだがまずここから南東に行ったところにある商業都市リベンダを目指すんだ。そこから更に東にまっすぐ進むと見えてくる【迷いの森】って所を抜けると、渓谷と砂漠の地帯に入る。そこがマイラの故郷だ」




「えっと……、ちょっと口頭だと覚えられそうにないですね」




 ライノさんは淡々とマイラの故郷の説明を始めたが、詳しい道のりなど細かいことを考えると、慣れない土地なので全部覚えていられる自信がない。




「ははっ、それもそうだな!詳しいことは後で紙に書いて、渡すように言っておくよ」


「お手数おかけします」


「いいってことさ、じゃあまた後でな!」


「はい」




 こうしてライノさんと話し、俺達の次の目的地が決まった。


 まず目指すのは商業都市リベンダだ。


 出発は2日後にして、その間に旅に必要なものを買い集める。









 ――









 街で旅支度をするため、俺はマリスに買い物に付き合ってもらった。


 クウ達は目立つので一時的にまたモンスターボックスに戻ってもらう。




「えーっと、大きめのバッグは買ったし、替えの服も下着も買った。護身用と調理用にナイフも買ったし、鍋も水袋もある。回復薬、解毒薬も多めに仕入れたし……、あと何が必要かな?」


「そうだね……、夜間用にライトの魔道具があれば便利だよ、あとはテントと寝具もあった方がいいね」


「なるほどね、りょーかい」




 こうして遠征に慣れているマリスに的確なアドバイスを貰いながら、俺達は買い物をしている。




「クウ達のご飯はどうするの?」




 買い物の間の雑談で、ふとマリスがそんなことを聞いてきた。




「ああ、それなら現地調達で大丈夫だよ。あいつらなら狩りも余裕だろ」


「確かに、クウの空間魔法があればあっという間に捕まえられそうだけどね。それなら植物図鑑を買っておけば?食べれる物と食べれない物が分かる程度のものでいいし、あれば便利だよ?」


「確かにそれがあれば役に立ちそうだな。俺こっちの世界の食べ物分かんねーし」




 肉類なら、クウとマイラがいれば困ることは無いだろうと思っていたが、ちゃんと野菜も食べないと栄養バランス的にアウトだ。


 俺はマリスのアドバイスに従い、植物図鑑を購入することにした。




「今日はありがとうな、マリス」


「これくらい全然平気だよ」




 こうしてマリスに手伝ってもらったおかげで、かなり手際よく買い物を終わらせることが出来た。




「次の街までの移動はどうするの?商人の馬車に乗せてもらう手もあるけどかなり高くつくし、かと言って馬車と馬を買うのも高いしそう簡単に手に入らないよ」




 旅に必要な生活用品を買い揃えた後の帰路で、マリスは移動手段の心配をしてくれた。


 確かに馬も馬車も買うとなると、今の所持金をほとんど使う事になってしまう。


 何があるか分からないのに無駄使いは出来ない。


 だが、俺には1つアテがあった。




「それなんだけど、この街に来る時の移動中にさ、荷車が余ってるって騎士が話してるのを聞いたんだよ。で、余ってるならくれないか?ってライノさんに相談したら二つ返事でOKを貰えたから、それを使うことにしたんだ」


「そうだったんだ。じゃあ馬だけ買うってこと?」




 マリスは、荷車を引く馬の心配をしてくれた。


 だが、それに感じても俺は既に色々と手を打っている。




「それなんだけど、アマネにこの辺に馬の代わりになる魔獣は居ないか?って聞いたら、この辺には「グラスバイソン」っていう、足も速くて持久力もある魔獣を教えてくれたから、それを捕まえて荷台を引いてもらおうかなって考えてるんだ」




 俺は魔獣に好かれる体質なんだから、わざわざ高い金を払って馬を買うよりも、馬よりも優秀な魔獣を仲間にして荷車を引いてもらった方がお金が掛からなくていい。




「はははっ!さすが灯君、いつもの面白い発想をするよね」


「なんだよ!お金が要らないんだからいいじゃんか!」


 


 こうして帰り道でも、いつも通りマリスと他愛ないことで笑いあった。


 マリスとはまだ数日だけの付き合いだが、それでももう俺にとっては唯一無二の親友となっている。


 元の世界では、体質のせいで避けられていて友達なんてほとんどいなかったから、小学生以来の友達な気がする。


 ……別に寂しくなんかないぞ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る