1章 11.嫉妬してるのかよ

「ガウッ!」




 しかししばらく歩いていると、先頭を歩いていたマイラが何かを見つけたようで立ち止まった。




「どうしたの?」


「マイラがなにか見つけたようだ。ん?なんだコイツらは?」


「ぐあぁー」


「があぁー」




 マイラが見つけたのは小さなクマ2匹だった。恐らくマッシュベアの子供だろう。


 子グマ達はなんの警戒もすることなく、俺達の目の前までやってきた。なんとも愛くるしい様子だ。




「はは、ずいぶんと可愛いね」


「そうだな、これくらいなら可愛げがあるんだが」


「ぐあっ」


「があっ」




 子グマ達は俺の足にしがみつくと、ガジガジと甘噛みしてきた。そしてそれを俺の肩で見ていたクウが、急に威嚇しだした。




「クアッ!」


「おいクウ、落ち着けって。この2匹は敵じゃないから」


「いや、たぶん灯君が取られるのかと思って心配なんだと思うよ」


「なんだそれ?嫉妬してるのかよ」


「クウ!」




 俺はてっきりクウが敵だと思って威嚇したのかと思ったが、俺を取られまいと牽制していたようだ。




「ガウガウ!」


「今度はマイラもか。はぁ、安心しろよ、お前達が一番だからさ」


「クウー!」


「ガウッ!」


「ちょっ、まてっ、うわっ!」




 クウとマイラを安心させようと思い頭を撫でてやったのだが、嬉しさのあまりに飛びつかれてしまった。


 おかげで足は子グマに抑えられ、バランスを崩して後ろに転倒してしまった。




「痛ったた……」


「灯君大丈夫?」


「あ、ああ、何とか……」




 俺は子グマを足から離し、クウとマイラを顔から避けてよろよろと立ち上がった。




「お前ら、しばらく飛びつくの禁止だ。そこの子グマ達もな!」


「クア……」


「ガウ……」




 さすがにこれ以上倒されるのを我慢は出来ない。だから禁止させたのだが、思いのほか落ち込んでしまった。


 子グマ達はあまり気にしていないようで、2匹でじゃれあっている。しばらくそうしていてもらおう。




「それにしても、子グマまでいるとはね」


「ああ、だが近くに親がいないのは不自然だな」


「うん、やっぱりこの森何かあるのかもしれない」


「もっと奥に進んでみよう。そうすれば何か分かるだろうさ」


「そうだね」




 こうして新たに子グマたちに出会った俺達は、再びマイラを先頭に森を進み始めた。












 ――












「待って、灯君この先何かいるよ」


「分かった」




 子グマ達に出会ってから小1時間森を歩いたところで、マリスが何かの気配に気づいたようだ。




「あれは……小屋?」


「本当だ。誰か住んでるのか?」




 マリスが見つけたのは丸太で出来た簡素な小屋だった。


 警戒してしばらく観察ていると、やがて中から1人の男が出てきた。


 髪はくすんだ金髪で、肩の上あたりで綺麗に切りそろえられている。お腹は酒太りのように丸々としていた。




「くそっ、あのクマ共勝手に暴れ出しやがって!これじゃ商売が台無しじゃねーか!」




 男はだいぶ苛立っているのか、地面に落ちていた小石を蹴り飛ばしながら、小屋の裏手へと姿を消した。




「どうする?どう見ても怪しいが」


「当然、跡を追うよ」


「そう来なくちゃな。クウ、マイラ、子グマ達、ここからは静かに頼むぞ」




 男の跡を追うことにしたので、クウ達には静かにするように指示を出した。


 すると4匹とも、掠れるような小さな鳴き声を上げながら頷いてくれた。


 周囲を警戒しながら男の跡を付け始めた。


 小屋の裏を覗き込むが、雑草だらけで道らしい道は見当たらない。所々草が踏まれて折れているくらいだ。


 その草の折れている所を辿っていくと、少し先に男の姿を発見した。




(隠れて)


(分かった)




 男にバレないように、マリスとは目とハンドシグナルでやり取りをした。まるで映画の潜入者みたいだ。




「あぁくそ!かなり数が減っちまったじゃねーか!」




 男は怒鳴り声を上げながら鞭を振り回していた。よく目を凝らすと、微かに電流が流れているように見える。


 そして男が勢いよく鞭を振り下ろした瞬間、猛獣の雄叫びが響いてきた。




「ゴアァァァ!」




 声の正体はマッシュベアだ。男はマッシュベアを家畜にしている。


 どうやらマリスの予想は的中したようだった。




「やっぱり、僕の予想は当たってたか……」


「なあ、それよりも早く助けに行かないと!」


「うん分かってる、僕が行くから灯君は逃がさないようにここで待ってて」


「りょーかい」




 俺はマリスの作戦に従い、この場で待機となった。相手は鞭しか持ってなさそうなので、マリス1人で十分だろう。




「クウゥ!」


「落ち着けクウ、大丈夫だから」




 マリスの動向を見守っていると、突然クウが唸りだした。これで気付かれる訳にもいかないので、頭を撫でてどうにかして落ち着かせる。




「……そこまでだ!」




 鞭の男の5mほど後ろまで近づいたマリスは、遂に魔剣を抜きつつ勢いよく躍り出た。




「な、なんだお前は!?」


「騎士のマリスだ!違法魔獣飼育の容疑で貴様を拘束する!大人しくしろ!」




 突然のマリスの登場に鞭の男は驚き、尻もちをついて倒れてしまった。これなら問題なく拘束出来るだろう。




「ふぅ、無事終わりそうだな」




 敵はあいつだけだと思い込んでいた俺は、一件落着だと気を緩めた。




「ガウッ!」


「くらえこのガキが!」


「なっ!?」




 しかしその一瞬の油断の隙に、背後から迫るやつの仲間の存在に気づけなかった。


 マイラがいち早く気づいてくれたおかげで、その男の鞭は当たらずに済んだが、無理やり避けたので地面に倒れ込んでしまった。




「このっ、避けてんじゃねぇよ!」


「ぐっ、や、やばいっ!」




 地面に倒れ込んでいるせいで、2度目の攻撃を避ける術がもうない。


 直撃はま逃れないと思い、身をちぢめて固まった。




「うがあぁぁ!」


「え?当たってない?」




 しかしやつの攻撃はなぜか逸れ、反対に攻撃してきた男が苦痛の声を上げていた。


 不思議に思い顔を上げると、なんとクウがワープでゴーレム戦の時のように、カウンターをしてくれていた。




「クウ、ありがとう!」


「クアッ!」


「な、何なんだこのチビドラゴンは!?」




 やはり奴らの鞭には電流が流れていたようで、男は痺れてフラフラと立っていた。




「灯君、大丈夫!?」


「ああ!こっちはこっちで何とかする!」


「分かった、危なくなったらすぐ呼んで!」




 こっちの騒動を聞いたマリスのが心配したのか、大声で安否を確認してきた。


 だが、こっちにはクウもマイラもいるから問題なく対処出来る。だからマリスにはそっちの敵に集中してもらいたい。




「くそっ、ガキ共が舐めやがって!」


「よし、やるぞクウ、マイラ!」


「クウ!」


「ガウッ!」




 敵はクウのおかげで痺れている状態、油断なく戦えば俺達だけでも問題なく倒せるはずだ。


 俺は子グマ達を背に隠しつつ、マイラに命令を出した。




「マイラ、噛み付いてこい!」


「ガウガウッ!」


「近づくなぁ!」




 まずはマイラの素早さを活かして奇襲をと考えたが、男は鞭を乱暴に振り回しだして、迂闊に近付つけそうにない。


 だがそれは、クウがいなければの話だ。




「クウ、マイラに鞭を当てさせるな!」


「クアッ!」




 クウのワープがあれば、敵の攻撃など避ける必要は全くない。一直線に最短距離を突っ切れる。




「ガウッ!」


「痛っでーなこのっ!」




 クウのおかげで鞭の攻撃をすり抜けたマイラは、男の足に鋭い牙で噛みついた。


 まだ子供でも頭はライオンだから、相当な激痛のはずだ。




「ぐああぁ!っくそ、これを使うか……!」


「っ!なんだあれは……?マイラ、離れろ!」




 激痛に耐えかねたのか、男は上着の内ポケットか謎の石を取り出した。


 嫌な予感がしたので、すぐさまマイラを下がらせる。




「ショックウェーブ発動!」


「ぐがっ!」




 男は頭上に石を掲げ、何かを唱えた。その瞬間石は白く輝きだし、粉々に砕けたかと思うと、全方位に電気の衝撃波を放出しだした。


 それを受けた俺達は、全員感電して身動きが取れなくなってしまった。口まで痺れてまともに喋ることも出来ない。




「はっはっは!ガキ共が調子に乗りやがって!ぶっ殺してやる!」


「ぐふっ!」




 身動きが取れないのをいいことに、男は俺の腹目がけて思いっきり膝蹴りをかましてきた。


 おかげで俺は、呼吸もまともに出来ないほどの激痛を味わって、地面に倒れ伏した。




「おらぉ!どうしたクソガキが!?この程度かよ!」


「がはっ!」




 地面に転がる俺を男は、小石を蹴るように何度も乱暴に足を振り抜いた。


 男の蹴りを浴びすぎたせいか、なんだか意識が朦朧としてきた。


 絶体絶命、このままだと殺されてしまう。何か手を打たなければ。


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