コーヒーショップ
柚 美路
1話完結
「すみません」と小さく言って
彼女は隣の席に座った。
コーヒーだけがトレーに乗っていた。
どこにでもあるチェーンのコーヒーショップ
僕はサンドイッチが付いているBセットを食べていた。
彼女は、手荷物を落ち着かせると、コーヒーを飲みながら本を読み始めた。
周りは皆、黙々と携帯に目を落としている中で、彼女はテーブルに乗せた携帯を、時折チラッと見るだけで、特に手に取る事はなかった。
時計がわりにしているのかもしれない。
はたまた、誰かからの連絡を待っているのかもしれない。
そんな事を思いながら僕は携帯に目を落としながら、さっきの「すみません」について考えてみた。
きっと僕の荷物が出っぱってたから、
それをよけて言ったのだと思い当たり
慌てて荷物を引き寄せた。
もう遅いか…。
相手が悪いのに、人は時に自分が謝る。
混雑していた店内はだいぶ空いてきて、
僕の右隣と彼女の左隣は空席となった。
店の入り口を見るふりをして、彼女の横顔を視界に入れた。
コーヒーを飲む以外はマスクをしていたけれど、ちょうどコーヒーを飲むタイミングだった。
というか、それを狙っていたのだが。、
少し丸い鼻と、少し厚めの唇が子供っぽさを出していたけれど、綺麗な横顔だった。
そう見えた。
僕は、ここを出たらもう2度と会う事はないであろう彼女との空間の共有を楽しむことにした。
携帯を持つのをやめ、ゆっくりコーヒーを飲み、考え事をしながら時たま店内を見回すふりをして彼女を視界の中にとらえていた。
携帯を見ていた時より、時間がゆっくりと流れていることに気がついた。
色々な客がいる事にも気がついた。
忙しなく食べて出て行く客もいれば、とっくにコーヒーを飲み干しているのに水だけ汲み直しに行っている長居客もいる。
僕は、限られた時間を使い果たして立ち上がった。
背中で彼女にさよならを告げ、
店を出る時に、忘れ物がないのを確かめるふりをして振り返りった。
変わりなく本を読む彼女を一目見て
目的地に向かった。
コーヒーショップ 柚 美路 @yuzu-mint
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