「山田は宇宙人」

佐々木 煤

三題噺 「満月」、「母」、「旗」

 隣の家に住んでいる山田は宇宙人だ。本人がそう言ってきたからそうなんだろう。山田は中学一年生の時に両親と彼とで引っ越してきた。引っ越しの挨拶に来た際、凡庸な格好でモブみたいな顔をしていたのであまり印象に残らなかった。けれど、夜に彼が大漁旗を降っているのを見てしまった。この町は漁村じゃないし山に近い。挨拶の時には田んぼに囲まれた地域から来たと言っていた。考えていると彼と目があった。すると、何事もなかったかのような顔をして家の中に引っ込んでしまった。

 翌日、山田は私と同じクラスに転校してきた。なんとなく関わりたくなかったのでそしらぬ顔をして過ごしていたが、放課後に彼の方から話しかけてきた。

 「隣の家のXXさんだよね?僕、まだ帰り道が覚えてなくって、よかったら一緒に返ってくれないかい?」

 断る勇気もなく、一緒に帰ることになった。たわいもない話をしつつ、学校を出て人気のない住宅街に入る。

 「昨日の夜、見たよね?」

 脈絡もなく話題を振ってこられた。はぐらかしたいが、ばっちり顔を見られているので嘘をつくのは無理だろう。

 「見たよ。見たけど誰にも言ってないし今の今まで忘れてた」

 「そうか。それなら良かった。それならXXさんに言っておこうかな。」

 「僕は実は宇宙人なんだ。」

 中学生らしい現実逃避願望強めな嘘をつかれてしまった。続けて彼は話した。

 「旗を振っていたのは月にいる母に合図を送っていたんだ。一緒に住んでいる母さんは体の生みの親で、月の母は僕のこころの産みの親なんだ。どういうことかわかりづらいと思うけど、母さんが僕を産んだ時、こころが入っていなかったんだ。月の母がそれを感知して月で生まれたての僕を入れた。月の生物は体を持たないんだ。だから地球の生物に入ることができる。侵略しようって魂胆じゃないよ。本当のこころが育つまで借りているだけ。旗を振っていた理由は、本当のこころが育ってきたからなんだ。」

 真剣な表情でSF味のある話をされてしまった。

 「どうしてそんな話を私に?」

 「お隣さんになった義理。僕が僕じゃなくなっても仲良くしてね。」

 それからまた別の学校の話をして帰った。山田と話したのはそれきりだ。山田は山田で囲碁部に入りそれなりに中学校生活を謳歌し、毎晩旗を振り続けていた。旗のことは誰にも言わなかった。

 中学3年生、5月に入った満月の夜。山田はいつも通り大漁旗を振っていた。すると、山田の足もとが淡く光り始めた。旗を振るのをやめ、私の方に向かって一礼をした。光が山田の全身を包んで消えた。大漁旗も消えていた。山田はぼーっとした様子で家に入っていった。

 翌朝、昨日の夜のことを聞いたが「なんのこと?」と返された。旗を振っていたことも覚えていないようだ。山田は、本当に宇宙人だったのだ

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「山田は宇宙人」 佐々木 煤 @sususasa15

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