第4話 自分自身と宝石商


「リヒト気にしても仕方が無いだろう、冒険者同士の揉め事にはギルドは介入しないし、お前は勇者だ、セレスには気の毒だが、もう気にしない方が良いぞ」


俺を気遣って言ってくれているのだが、中身がセレスの俺からしたら少々複雑だ。


「ああっ、そうだな…だがあいつは幼馴染でもあったんだ、少しだけ放って置いてくれないか?」


「ああっそうだな、私だって少しは思う所もある…私はそうだ素振りでもしてくる」


そう言うとエルザは出て行ってしまった。


多少は罪悪感があったのだろう…それに比べ…


「そんなに気にする必要は無いですわ」


「そうだよリヒト、確かに幼馴染かも知れないけど、ただのポーターだよ? そんな悲しむ事ないよ」


「それでも、彼奴は幼馴染だ」


「幼馴染って言うなら私達も同じですわ、それにセレスは私達にとって邪魔ですわ」


「そうそう、他の男がいたんじゃ落ち着いていちゃつけないじゃない?」


俺はそんな事の為に追放され掛かっていたのか、少しでも気に掛けてくれたのはエルザだけ、あと二人には此処迄嫌われていたのか?


まぁ仕方が無い。


今の俺はセレスじゃないリヒトだ気持ちを切り替えなくちゃな。


「そうだな…だが法的にも問題が無くても、罪悪感があるんだ、少し1人にしておいて欲しい…」


「解りましたわ…ですが優しすぎますわ、まぁそんなリヒトを私は愛しているんですけど…」


「そうだよ、だけどリヒトって優しいよね…解った、今日は極力話しかけないよ」


仲間を殺す奴の何処が優しいんだ。


俺は一人、散歩に出かけた。


◆◆◆


昨日、俺が放り込まれた林の近くに来た。


俺だった奴の死体は既になかった。


血だまりが出来ていたから、多分死体はゴブリンにでも食べられたのだろう。


俺と入れ替わっている以上は『確実に死んでいる』のは間違いない。


俺は前世の風習に合わせて手を合わせた。


相手が如何に悪くとも死んでしまったのには間違いないのだから…


さて、俺はこれからリヒトとして生きなければならない。


これが、村人、せめて冒険者なら『周りと接触しないで静かに生きる』


そういう選択もあるがリヒトが冒険者である以上それは無い。


まずは自分がどれ位の事が出来るのか試す必要がある。


◆◆◆


林から奥にきた。


此処迄くればまず人は来ないだろう。


軽く聖剣を振るってみた…凄いな、これ。


剣の才能(極)があるせいか、剣をどう使えば良いか体が教えてくれる。


まさにチートだ…剣を振るった事が無い俺がどう動かせば良いか全て解る。


事実、目の前の大木があっさりと斬れた。


魔法だって同じだ…呪文なんて知らない俺が…どうしたら発動するか解る。


使うタイミングまで解るんだからスキルって凄すぎる。


しかも、ジョブのせいか体力も筋力も数倍早く動ける。


頭の中に『超人』そんな言葉が動く位凄い。


リヒトは細マッチョな体だ。


こんなスリムな体で恐らくは通常の人間の数倍の力が出せるなんて物理的に可笑しすぎる。


まぁ…それが『勇者』そういう事なのだろう。


これで、戦闘に置いて困ることは無いだろう。


あとは記憶だ。


『牛鬼』の能力を持ってしても記憶までは手に入らない。


相手と入れ替わるのだから仕方が無い。


記憶迄完全に手に入れたら…それは最早合体になる。


それは自分で無くなる事を意味する。


まぁ、どうにかするしか無いな。


◆◆◆


近くにオークの集落がある。


当然、リヒトなら余裕で狩れる筈だ。


俺は試しにオークの集落を襲ってみた。


集落とはいえ小さめだから精々が20位しか居ない。


それでも、街人からしたら脅威だし、冒険者も単独では無理だ。


だが『勇者』は違う。


俺は聖剣を片手に斬り込んだ…そして次々に倒していく。


「光剣」


光魔法を聖剣に掛け切れ味が増す技だ。


まるで包丁で野菜を斬る位簡単にオークの首が跳ね飛ばせる。


この集落にはキングは居なかった。


ものの20分で終わった。


討伐証明部位である鼻を斬り落として、魔法の収納袋に入れた。


確かに大量の物が入るのだろう…俺がクビになるわけだ。


余裕があるので20体のオークも入らないか試したら全部入った。


ポーターなんて要らない…仕方ないかもしれないな。


◆◆◆


冒険者ギルドに顔を出した。


「勇者リヒト様…討伐ですか? それとも」


「オークを討伐してきた、褒賞と査定を頼む」


「解りました、すぐに査定します」


これも勇者の特権の一つだ、他の人間を差し置いても優先的に、褒賞や査定をしてくれる。


「宜しくお願いします」


「はい」


直ぐに査定に取り掛かり、報奨金と査定の金額が決まったようだ。


「オーク1体当たり金貨1枚で20体ですので金貨20枚(約200万)になります、素材の方が全部で金貨5枚(約50万)ですので合計金貨25枚です、お支払いの方はどうしますか?」


「金貨10枚だけ貰って残りは俺の口座にいれてくれ」


「畏まりました」


嘘だろう…彼奴金を誤魔化していたのか…


今は俺の口座になったリヒトの口座には金貨3600枚(約3億6千万)も入っていた。


パーティ口座は別だからこれはリヒト自身の財産だ。


良く考えて見れば、彼女達三人は質素で金を使っている所を見たことが無い…俺だけじゃない、三人にはしっかり金を渡しているみたいに思っていたが違ったようだ。


まぁ良いや…すぐ変わるのは可笑しいから少しづつ変わっていけば良いか。


俺は金貨10枚を受け取り冒険者ギルドを後にした。


◆◆◆


自分がそれ以下だったから気がつかなったけど、三人とも三職(聖女 賢者 剣聖)にしては身なりは貧相に思える。


綺麗なのはリヒトだけだ。


お金も入ったし、何か買って帰るか…


俺は宝石商に寄ってみた。


「これは、これはリヒト様、今日も何かお買い求めでしょうか?」


今日もだと…三人は指輪以外の貴金属は持っていない。


しかも、見た感じ露店で売られているような安物だ。


「済まない、戦闘で頭を強く打ってな記憶が曖昧なんだ、俺何か買った?」


「はぁ、大変ですね…数日前に飲み屋の女性2人を侍らせて『好きな物買ってやる』と指輪を2つ買われたじゃないですか?」


リヒト…お前、そんな事していたのか?


「そうだったな、今日は1つ金貨2枚の予算で赤、青、緑をモチーフにしたネックレスが欲しい」


「解りました用意します」


エルザは髪が赤く、情熱的だから赤い宝石が似合う気がする。


クラリスは青髪で癒し系だから青の宝石。


リタは濃い緑の髪にグリーンアイだから緑の宝石が似合うだろう。


「お待たせしました…こちらが予算の中でご用意できる物でございます」


俺は、適当に3つ選び…宝石商を後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る