第14話

 フィットネスマシーンのように動力部が小さく、運動部位を形作る鉄やゴムが目立っていると素材の比重で雑品と見なされないが、プラスチックで覆われた箱型の複合型レーザープリンターはどんな素材が使われてこうも重たくなったのか外観だけではわからず、また高度な動作をするということで雑品の範疇にいるのだろうか。ところが同じ電化製品でもマッサージチェアとなると業者にひどく忌み嫌われてしまうのは、ゆったり大きく小刻みに動いたり振動したりと運動の幅は狭くないが、合成皮革やらクッションとなる科学繊維が原因か、それとも無駄な重たさのせいか一度も買い取ってもらえず、処分を安く済ませるなら、革を剥ぎ、中身を抜き、細かく分解してフレームは鉄くずに、銅線は分けて集め、リモコンだけを雑品にしなければならなかった。

 家電製品において最も厄介なのが冷蔵庫だった。家電リサイクル法の対象で同じような大きさの洗濯機は輸出業者に牛丼と同程度の価格で買い取ってもらえて、乾燥機は鉄くずとして売ることはできたが、冷蔵庫はある年式以降に製造された電化製品だけが持つ印があれば、目立った傷や凹みのない物はリサイクルショップで安くない値段で買い取ってもらえるものの、その基準から外れるとひどく扱いに困る代物だ。相武台にある黒人の業者に金を払って引き取ってもらう経路を見つけるまで、男はこの大層な物を解体していた。ドアを外し、バールで外カバーを穿ち、差し込み、剥がしていくのだが、冷却効果を高める化学繊維が煩わしく邪魔をしていて、良い値段で買い取ってもらえる銅管も張り巡らされているので取り外すのも簡単にはいかず、力任せに加えてやたら細かい作業が必要となり、あたりは繊維やカバーの破片が散らかり、時間と労力のかかる割に得られる対価は少なく、室内のトレイなどはプラスチックとして無料で引き取ってもらえるが、ドアやカバーは混載ゴミのコンテナの中で幅をとることになる。法令に従っていない処分方法だとしても男はそれほど気にならなかったが、冷蔵庫の部品で最も金になる銅で作られた冷却装置を取り外す時に、どうしても内部に充填されているフロンガスを外へ放出させることになり、スプレー缶に穴を開けた時に発する遠慮ない音が数倍狂ったように飛散するのは、法令の枠外の行為を他にも少なからず行っておきながら、これだけが特に悪いと思われた。それは政治家に決められた制度ではなく、温暖化を進ませる紛れもない行為だと知っていたからだ。

 季節によって色合いを変える雑品の代表として、夏はとにかく扇風機が集まる。風車の形をそのまま踏襲したこの電化製品は、新しい型ほどプラスチックによって成り立ち、軽いくせに割と頑丈でいて、何だか味気ない穏やかな白から離れられない控えめなクリーム色ばかりだが、一昔の製品となると、羽はくすんでいるが出来損ないのステンドグラスの青や緑のものがあり、それらを覆う網は金属で作られていて、全体からは存在としての硬質な印象を与え、見た目どおり重く、部分部分錆びついた具合は生きた年数を感じさせ、鉄の網目をすり抜けて高速に回転している円に触れたならば、容赦なく指をすっ飛ばすであろう、と想像させる力強さがあり、冷蔵庫と違って不器用な重さはそのまま金になるだけ好ましい物だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る