ご都合主義ハーレム世界に召喚されたかと思ったらわりと重ためだった件。



 なんか白い光に包まれたと思ったら異世界に来てしまったらしい。

 意味が分からないと思うが俺も意味がわからないし信じたくない。


 どうやら俺は『魔王』に対抗するための『勇者』として召喚されたらしい。いやそういうベタなのはお断りなんで。そもそも俺そういう柄じゃないしもっと野心あふれた中二病患者狙って召喚してやれよ引きこもりに何求めてんの?

 とか言っても通じないし聞く耳持たれないのはわかりきってるのでまずは無難な対応で様子を見ることにする。さりげなーく「いきなり召喚とかされても困るっていうか拉致誘拐ですよー」とか「ただの一般人なんで戦いとか言われても困りますよー」という雰囲気も出しておく。


 それにしても召喚の儀とやらをした巫女もこの国の責任者として出てきた王女もゆくゆくは共に旅をすることになるという剣士も魔術師も揃って妙齢の美形揃いとはどういうことだ。男女比が偏った世界に来てしまったかと思ったが、城で働く人を観察するにそういうわけでもないらしい。ちなみに王は病で臥せっているので王女が名代なんだとか。


 経験則的に明らかにハーレムものの気配を醸し出している。そもそもが異世界召喚だし。ベタにもほどがある舞台立てだし。召喚される前からして、前世記憶アリ・世界が二次元めいてハーレム系イベント盛りだくさんなせいで魂の根底から二次元愛だってのにオタクライフが謳歌できずに食傷してたら同じ境遇の逆ハーレム主人公タイプの女子と意気投合。それでも折れない現実の恋愛フラグに部屋に籠城してゲームという現実逃避をしようとしたら召喚された、なんて冗談みたいな経緯だ。これも俺の二次充を邪魔するイベントに違いないと思ってしまうのは最早仕方ない。……っつーかこの流れ、もしかして同士も似たような状況に置かれてるんじゃないだろうな。あっちも引きこもって現実逃避するって言ってたし。


 二次元愛のインドア系オタクであり、喧嘩慣れしてるでもない、武道の心得もない一般男子に剣持たせたって重さに振り回されるのがオチだろ、というのが正直な感想だったが、そこら辺は勇者のための剣他が補正してくれるんだと。いやそれだったら別に異世界人連れて来なくてもよくね?って感じだが、適合するのが異世界人だけなんだと。ハイハイご都合主義ご都合主義。


 悲しいことにご都合主義には慣れ切った身なので、というか召喚されてしまったからには『何もしない』を選択し続けるのはよくて事態の膠着、悪くて死亡フラグだろうなと思うのでそこは流してとにかく無心でイベントをこなしていく。

 しかし、国を救わせるために召喚したならしたで、それだけに注力させてくれないだろうか。別に、儚げロリ巫女に「わたくしを恨んでくれていい。呪ってくれていい。それでも、還すことはできない。あなたにしかこの国は救えないのです……!」と縋られなくても、国を背負う重圧に健気に耐える可憐な王女に「この国に何の関係もない貴方に『この国のために働け』などと傲慢なことを言うしかできない、情けない王族だと蔑んでくれていい」なんて覚悟を決めた顔で言われなくても、国に忠誠を誓ったというストイック系美人の剣士に「どれだけ剣の腕を磨いても、私に国は救えない。君という存在に頼るしかないんだ。それが、悔しい。……泣き言なんて、情けないね」と茶化すように微笑まれなくても、市井の魔術師から王族の信頼を得るまでに至った色香溢れる年齢不詳美女に「あなたはただ剣の示すまま、それを振るうだけでいいの。他の責任なんて、私達が負うわ」なんてデフォルトで纏う妖しさを消した真摯な瞳で伝えられなくても、帰還フラグのために働くんで。


 あとお約束的に精霊的なのと契約することになったのはいいが、元は無性なのに「だって、契約主の異性の姿の方が好きになってもらいやすいでしょう?」とか言ってボンキュッボン美人の姿で固定されたのは心からなんでだと思った。契約主に好意を持ってくれたからこそ契約してくれるわけで、つまり契約主が好みやすい姿をとるのはわかるがそこは個々で対応してほしい。……いや元々の性格(っぽいもの)からして、男性体でもノリは変わらないならまだ女性体の方がマシか……? いっそ性別不詳の子どもの姿なら……うーん、そもそも高次元存在の好意に縋って力を貸してもらうという図式が性に合わない気がするので、姿かたちなんて些細な問題か?



 とか現実逃避に考えてたら弱った黒トカゲっぽいものを成り行きで拾ってしまい、死なせるのもなんなので世話をしてたら突然黒髪無表情系ロリ美少女に化けた。美が付く生き物が飽和しすぎだろ。

 記憶がないとかで雛鳥的に懐かれ、元のところに置いてくることもできず、しかし身元不明の生き物を引き入れてしまったことが何らかのフラグになるのでは?という気持ちが拭えず周りに伝えることもできず、影に住まわせるという謎の事態に陥ってしまった。フラグを強固にしてどうする。

 自分で自分の行動が信じられない。こんないかにも泥沼なフラグ行動をとるとか頭がどうにかしてたとしか思えない。画面の向こうならともかく、現実では恋愛に限らず深い仲になるようなイベントはお断りの信条を掲げているのに。まあこれは後日、俺の判断力が鈍りすぎて選択ミスしただけじゃないんじゃないか?というのが判明するわけだが。


 とにかく役割を果たさないと還してもらえそうにないので言われるままにあっちへ『勇者』装備を獲得しに行き、こっちへ『魔王』の影響で凶暴化した生き物退治に出かけ、野宿で添い寝イベントも宿で湯浴みドッキリも二人だけの夜会話イベントも命の危機を救い救われイベントも順調にこなしてしまった。

 自分の生活基盤がない世界だとこんなにもハーレムイベントを回避しにくいとは。そして付き合う付き合わないとかいうレベルでなく添い遂げる添い遂げないの話に発展しがちなのがヤバい。そりゃそうだよな、結婚適齢期からして違うもんな。


 でもただ元の世界に帰りたいだけなのに「そちらの世界に愛する人がいるのですか?」とか「想う人がいるとしても、私は……!」みたいなことを言い出さないでほしい。確かに想う人はいるが元の世界のさらに次元の違う平面世界に生きる推しだ。どうせ世界を超えるなら推しのいる世界がよかった……いやでも推しのいる世界が三次元になったら今みたいに「いや現実リアルだし……」ってなりそうなのでやっぱり次元の違う存在のままでいい。



 そうこうするうちに判明する『魔王』と『勇者』がマッチポンプの産物だという衝撃の事実。いや正直妖艶美女魔術師が良心の呵責とか贖罪を匂わせる台詞を度々口にするので予想はしていた。『魔王』が滅ぼすのが『国』(とは言ってもここの国は大陸一つ丸々なんでわりとでかいけど)っつー小さい枠組みなところで何かあるなとは思ってた。

 なんでもこの国が大陸を統一するときに大陸の神とやらを殺し、その呪いにより大陸ごと沈む運命にあるところを生贄的な『魔王』を作り出すことで呪いを転嫁し、それを殺すことで問題を先送りにし続けてきたと。大陸の血が一滴でも入ってると呪いをさらに強力にしてしまうし、それでなくても神の呪いをどうこうしようとすること自体が確率で死に至らしめたりするので、うっかり死んでも誤魔化しやすい異世界人を引っ張り込むなどしたと。召喚の術式に軽い洗脳みたいなもんも含まれてるので『勇者』は表向きの説明でもある「国を滅ぼす『魔王』を殺す」役割を受け入れやすくなっていると。そして俺の拾った黒トカゲもといロリ美少女がその『魔王』となる器的なアレで、いろんな偶然やらが重なって記憶を失った状態で俺が保護してしまったと。『勇者』は召喚された時点で『魔王』との繋がり的なものが発生し、そういう運命力的なもので役割を果たさせるように物事が流れるようになっているが、今回は神的なアレが介入したことで変化したと。


 ……いやー、ここまで『道具』扱いの『勇者』ってのもある意味すごくないか? 人権無視感がすごい。美のつくシリーズの彼女ら以外の権力者がどうにもきな臭い感じだなとは思っていたが、ここまでだとは。

 つまり『魔王』も『勇者』も体のいい生贄じゃねーかふざけんな勝手に滅んでろ、と言ってどんな手を使ってでも還ろうとできる人間だったら話は早かったんだが、残念ながら俺は一応何も知らずにただ暮らしている人たちも、真実を知ってショックを受けている真っ当な感覚を持った彼女たちも、生い立ちからのあれこれでがんじがらめになって利用されてしまったけれど良心は失っていなかった魔術師もどうでもいいと言えない程度にはこの世界の人々を人間として認識してしまっていたので、悪いおっさんたちに監禁状態にされてしまったのであった。

 マジかよ囚われの立場になるのは普通姫だろ。いや王女も似たような立場にはなってるけどそういう問題じゃない。あと悪いおっさんたちはなんでそんないかにもな悪役面か腹黒好々爺みたいなのしかいないんだ。美が偏りすぎだろ。



 『魔王』が国を滅ぼすっていうのは、どうやら俺がロリ美少女を保護したことでいろいろ条件が揃わなくなって回避できるらしいが、緩やかに大陸が沈むことになるらしい。殺された大陸の神の同類が言っていたことなのでそこはもう信じるとして、真実を知ってしまった面子が各自囚われの身なのが普通にヤバい。

 王女とかは精神の無事はともかく殺されはしないだろうが、半分くらいは口封じで殺される可能性しか見えない。まだしも監視のゆるい魔術師を利用すれば俺だけなら逃げられそうっちゃ逃げられそうだが、後味が悪すぎる。とか言ってる場合じゃないのはわかってるんだが、うーん。っつーか神的な存在も手を出すなら最後まで手を出していけ。アフターケアをしっかりしろ。


 

 などと言っていたらなんと同じ世界に落ちものトリップしていた同士が助けに現れた。マジかよヒーローかよ。そういうことするから逆ハー主人公なんだぞ、と言える立場でもないので慎ましく助けてもらった。

 「『勇者』とかって聞こえてきてたし、立場的に自力で帰るの難しいんじゃないかと思って……」とか言ってたが、多分同士も数ある逆ハーイベントをギリ回避して助けに来てくれたんだろうことは、協力者だと説明されたトリックスター系美形が大陸の神云々より上位っぽい存在なところで察した。



 他の監禁仲間もどうにか解放、彼女らの蜂起によって腐った権力中枢をなんとかする目途も立ち、涙の別れイベントもこなし送還してもらって、二次元っぽさは大して変わらなくても漫画も小説もアニメもゲームもあって二次充ができるという点で大きな違いのある元の世界に戻って。


 それでその異世界との縁は切れた――なんてそんなわけがなかったことを思い知ったのは、いわゆる創世神的なアレだった同士の協力者が「一度拾ったものは最後まで面倒見なよ☆彡」なノリで黒髪無表情系ロリ美少女を送り込んできた現実を目の当たりにした瞬間だった。ちなみに俺の隣では同じく送り込まれた異世界人を前にした同士の目が死んでいた。



 ……だから、いくら二次元っぽくても三次元リアルのフラグはお断りだっての!


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