はちみつレモン

白石こゆぎ

第1話 のどかな景色

車窓から見えた景色は、ひたすら平らで畑ばかりの景色だった。降りて駅から出ると、シャッター街の静けさを感じる様子だ。約束では、駅まで迎えが来るという話になっているが、この景色を見て果たして来るのかと心配になる。心配になり、あたりを見合わしていると1台の軽トラが車を止めた。細身の男性が降りてきて手を振ってきた。


「おーい! こっちだよ」


話で聞いていた迎えの人だろうと思い、僕は少し駆け足で走った。少し走っただけでも汗がダラダラと流れてくる。今日はとても暑い。立っているだけでもジリジリと暑さが地面から伝わってくる。


「初めまして、オレは純だよ。君から見てオヤジの弟だよ。事情は聞いてるから大丈夫。兄貴と奥さんで旅行に行っているあいだ、9日間こっちに居るってことだろ?」

「そうです、僕は渡です。しばらくお世話になりますので、よろしくお願いします」

「よく出来ている子だな〜。まぁ乗ってくれよ、少しエアコンの効きが悪いけどさ」





 ついた場所は立派な一軒家だった。外見から見ると、かなり築年数がありそうだ。

実際にこんな古い家を見るのは初めてだ。あまりのすごさに声が漏れてしまった。

杉並区では見ない景色だ。ビルばっかりでせいぜい古い家と言ったら団地ぐらいしか見たことがない。


「立派な家ですね。僕こんな家見たことないです」

「そうかもしれないな。この家はオレが生まれる前からあるんだよ。兄貴が外側がイジったらダメだってこっぴどく言われるからさ。そのままなんだよ。内側は案外、今どきだぜ? 」


自分の父親がそんなことに関わっているとは思わなかった。普段、薄情で影が薄い父親に、そんな熱心にこだわる一面があることに驚いた。


「どうした? そんなところに突っ立っていたら暑さで死ぬぞ〜。中に入れよ」

「あ、いえ! すいません」


少し駆け足で向かった。純さんが戸をガラガラと開けると涼しい冷気がふわりと流れて来た。中に入ると、よく冷えていて涼しい。エアコンを見ると、確かに新しい。けど壁紙や柱などはかなり古そうだ


「確かに設備は新しいですね、涼しい」

「そうだろ?あぁ、ここは土間だから靴を脱いで上がってくれな? 都会の人はあんまり見ないだろ? 」


隅っこに靴を置いて上がった。純さんはこっちと言っている。荷物を背負って、向かった。すると純さんはピタッと止まり部屋のふすまを開けた。部屋はテレビやエアコンがある。そしてところどころ、ホコリが積もっている


「うーん。先週に掃除したけど、少し汚いかもしれないな。ボロ家だからすぐ汚くなっちまうみたいだな。悪いけどさ、一応ここに掃除用具を置いとくから、気になるなら掃除しといてよ」

「分かりました。ありがとうございます」


少し焦った様子で純さんが掃除機やぞうきんを持ってきてくれた。ごめんねと一言、言って部屋から去っていった。さほど汚くないので、掃除をするか少し悩んだ。このままで良い気もしてきた。しかし持ってきてくれたからにはやるべきだと思い、掃除を始めた




 掃除を終えると部屋はきれいになった。まさか来て初日から掃除を始めるのが最初だとは思わなかった。一段落してゆったりと休んでいると、ふすまがスゥーっと開く音が聞こえた。


「メシ出来たから、来てよ。あと少し手伝ってくれるかな? 」

「え、えぇ。分かりました」


配膳の手伝いをして、食卓の席に座った。大きな机にちょこんと、うどんと薬味がある光景は、どこかシュールさを感じる。いただきますを言い食事が始まった。


「それ、お中元でもらったヤツなんだよね。美味しいでしょ?何か振る舞えるモノがあって良かったわ」

「美味しいです。それにしてもこの机、立派ですね」


家の机より何倍も多くて立派だ。下手したら10人ぐらいで食べれる大きさがある。

父親の家は大家族だったのだろうか?


「今考えると、大家族だったからな。片手以上の人間が少なくとも居たからな。昔は子供がたくさんいた時代だからねぇ〜」

「そうなんですね」

「オレは子供が好きだから、来てくれて嬉しいよ。たくさん食べてくれよな!」


純さんは優しい笑みをしている。少し温かみを感じた。そんな姿を見て、僕はうどんを啜った





 布団でだらんと横になっている。あっという間の1日だった。ついたら、いきなり掃除。終わったら食事をした。そしてお風呂入って今に布団に横たわっている。

まったく気が休むことができない1日だった気がした。体がクタクタで疲労感が感じる。僕は洗面台で歯を磨いて、部屋を暗くして再び横になった。明日のことが心配になる片隅だが、だんだん視界が狭まった。

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