17話 地獄の健康診断

翌日。一色は2年G組の教室へと歩いていた。


今日は午前中に健康診断、午後にはCCBSの練習か。


昨日のHRで時間割を見て、一色は衝撃を受けていた。


毎日5、6時限目がCCBSの練習なのだ。


ホントに変わった学校だ……


一色はそう思いながら歩き、2年G組の教室があるG棟にたどり着いた。

G棟には1年G組、2年G組、3年G組の教室がある。

つまりはGランクの生徒の収容所みたいなものである。


一色がG棟の中へと入ると、下駄箱で靴から上履きへと履き替えている

水森葵とバッタリ出くわした。


「おはよう」

一色は挨拶すると、

「おはよう、一色くん」

と水森が返してくれた。


来る時間が同じだったこともあって、水森と一緒に教室にのある階段を上がっていくと、


教室の前の廊下には島野が座っていた。


「島野じゃん。おはよう」

「一色くん、おはよう」

「どうしたんだよ。廊下で座って」


「おいおい。どうした?廊下に座って」

「いや、女子が着替えてるから入れない……」

「あーーー……えっ?教室で着替えてるの?」

一色は驚く。

「そうだけど……」

「更衣室とかないんか……」

「更衣室、G組の人達は使えないんだよね……」

「ええ……そうなの……」


G組だけが更衣室使えないのかよ……


一色と島野の会話を聞いた水森は驚く様子もなく、

「それじゃ、私、着替えてくるから」

と教室の中へと入っていった。


一色と島野の2人きりとなった。一色は考える。


「いや、教室で着替えるとはいえ、こうやって男女別で時間帯をわけて着替えてる分にはいいか……いや、いいのか、これは……」

一色は自分の考えが正しいのか正しくないのかよくわからず、言葉に詰まっていた。

「今回の場合は授業開始前、ホームルーム前ということもあって、時間に余裕があるからこうやって男女別で時間帯をわけて着替えているけど、授業と授業の間の休み時間で着替えなくちゃいけない場合は、時間がないからという理由で、男女同室で着替えているんだよね……」


「えええ? マジなのかよそれ!!」

「うん。そう……」

島野は気まずそうにしていた。一色は慌ててスマホを見る。

学校で支給されたスマホでは、クラスの時間割も見ることができる。


体育の授業は月曜日の3時限目と金曜日の4時限目にある。


いや、これまずくねえか。2時限目と3時限目、3時限目と4時限目の間の休みは

10分しかない。これ、時間が足りないから男女同室着替え確定じゃねえかよ!!


「体操着はともかく、水着に着替える時はさすがに更衣室が使えるよな!!」

「水泳の授業も更衣室使えないから教室で着替えるんだよ……」

「マジかよ……」


一色は開いた口が塞がらなかった。


「これ……女子にとっては地獄だろ」

一色が女子の心配をすると、

「男子にとっても地獄だよ」


たしかに。一色は島野の発言に頷いていた。


「まさか高校生にもなって、着替えが男女同室とか想定外すぎて……」

一色は頭を抱えていた。


「そうだよね……」

島野は一色に同情していた。


すると、2年G組のクラスメイト達がズラズラとやってきた。

その中には岡崎もいた。

「岡崎、おはよう」

「おお! おはよう一色、島野」

岡崎は島野、一色に挨拶する

「女子、俺たち着替えたいから入っていいか?」

「あーーー葉乃川さんがまだ来てないからもう少し待ってくれる?」

「じゃあ、入るわ」


と岡崎を含めたクラスメイト達が教室に入っていく。


一色と島野は彼らの行動に絶句する。


ちょっと待て、葉乃川さんまだ着替えてない……

すると、葉乃川さんが急いで教室にやってきた。


「ということで、俺たち着替えるから、女子たちは廊下に出ろ」

「ちょっと待ってよ。葉乃川さんまだ着替えてないじゃない!」

「葉乃川が遅れてくるのが悪いんだろ。始業時間5分前だぞ」

「そ、それは……」

「というわけだから、女子たちは廊下に出ろ」

と女子のクラスメイト達の批判をよそに、男子クラスメイト達は着替え始めようとする。すると、葉乃川が


「登校中に何人かに絡まれて……遅れてしまったの。ごめんなさい。すぐ着替えるから、男子は廊下に出てほしい」


「着替え? 今ここで着替えればいいじゃないか。なあ、葉乃川さんよぉ」

と主犯格の男が言うと、他のクラスメイトの男子が一斉に騒ぎ出した。


「おい、相田、葉乃川さんに対してそれはないだろ」

島野が葉乃川を庇おうとする。

「あ、島野じゃん。何? 葉乃川のこと庇ってるの? G組のこと馬鹿にしてたくせに? なんでこいつのこと庇ってるの?」

「相田、それはね。島野が葉乃川のこと好きだからですよ」

「ああ、そうだったわ」

と岡崎が暴露すると、ゲラゲラと相田達は笑っていた。


岡崎、お前は何を言ってるんだ?


「でもさ、葉乃川って昨年不調だったとはいえ、陸上部2年の期待のエースだろ?

しかも、あの学年総合ランキング4位の外山さんからも好かれているらしいっすよ」


「そうか。外山と島野……学年総合ランキング4位の外山、

かたや、同級生の女子に100m走で負ける島野。雲泥の差だな」

と岡崎と相田達はは笑っていた。

「岡崎くん……どうして……」

「ああ、ごめんね島野。葉乃川のことを庇った君とはもう友達じゃないから」

と岡崎は吐き捨てた。


「おい、それはないだろ! 岡崎!」

「え? 一色? 君も庇うの? 葉乃川はG組の生徒に暴言を吐いたくせに?」

「言っておくけど、葉乃川はG組の暴言にもやらかしているからな。それでも庇うってんなら……」

と相田は拳で手を叩き、睨みながら言っていた。

「それとこれとは話は別だ。葉乃川さん1人着替えるのにそれほど時間もかからないだろうし。その時間すらも拒むってか!」


と一色は反論し、水森を含めた女子のクラスメイト達、

教室にやってきた男子学級委員長の平野と一緒に、

島野、一色は男子と口論していた。

すると、


「もうわかった!」

と葉乃川が叫ぶ。


「わかった……私、ここで着替えるから……大丈夫……着替え終わった人は廊下に出て……」

と葉乃川は小さな声で言った。


「そう、それでいい」

相田達は満足そうだった。この変態どもが。


「し、しかし他にも男子が……」

「私、大丈夫だから……」

と葉乃川は声を振り絞って言う。その目には涙が溜まっていた。

「ま、葉乃川詩織様がそう言うんだし、俺たちも着替えるから廊下に出てね~」

と相田はニヤニヤしながら言う。

クラスメイトの女子たちはなかなか廊下に出ないため、

「さっさと出ろよ!!着替えるんだからよ!」

と相田が怒鳴る。


相田の怒鳴り声にさすがにビビったのか、クラスメイトの女子たちは

「男子最低」

「きもい」

「変態」

と渋々教室を出ることとなった。


一色は相田達に対して怒りを感じていると、

水森が

「私達じゃどうにもできなかった、ごめん。葉乃川さんのこと、あとはお願い」

と一色にささやき、教室を出た。


葉乃川はブレザーを脱ぎ、ワイシャツの裾に手をかける。


男子たちは歓声を上げていた。葉乃川さんの手は震えている。


私の下着、いや、私の下着を脱ぐところ、見られるんだ……


葉乃川さんが脱ごうとした瞬間、


島野と一色が葉乃川の前に壁を作り、それに続いて、学級委員長の平野、そして、遅れてやってきた穂村が葉乃川の前に壁を作っていた。


これで葉乃川さんの着替えてるところは誰にも見られない。


「おい、着替えてるところ見れないじゃねえかよ!」


「葉乃川さん、今のうちに着替えちゃってください」

島野は小声で葉乃川に伝える。

すると、葉乃川は涙ながらに頷き、すぐさましゃがんで着替え始めた。


「こ、こうなったら力ずくで……」

「ほうほう、俺達を相手にするのな」

と穂村は楽しそうな表情をしながら、相田達を見る。

長身でガタイのいい穂村に、相田達はビビっていた。

そうだよな……相田達、昨日のカレー事件の現場にいたんだもんなぁ……

知ってるぜ。俺は。


「一色。お前も葉乃川を庇うんだな」

「庇って何が悪い? たしかに、葉乃川さんはG組の悪口を言っていたし、

カレー事件から推測するに、他にもやらかしているだろうね」

と一色は前置きし、

「でもよ。こうやって寄ってたかって葉乃川さんの下着を脱ぐ姿を見ようとするやつもどうかと思うがね」

と一色は冷ややかな目をして言った。

「あと、岡崎」

「何だよ」

「なぜ2年G組の女子クラスメイトの紹介の際に、

葉乃川さんのことを省いたかわかったよ。

岡崎、お前、葉乃川さんのこと嫌いだから省いたんだろ。納得だわ」

と一色は言った。


「あと、相田達に聞きたいのだが、島野を馬鹿にできるほど、

君たちは優れた人間なのかい?」

と一色は問いただす。


「優れた人間は同級生の女子にスポーツで負けたりなんかしねーよ!!」

と相田は笑う。

「同級生の女の子に負けたのは初耳だったな。だけどよ、

同級生の女の子に負けたとはいえ、昨年の1年G組の学力トップかつ、学年50位以内の学力を持ち、3学年合わせて256人しか出場できない

クラブカーストバトルトーナメントに

G組の生徒史上初となる本選出場を果たしたんだよね。島野幸史郎くんは。

果たして君たちは彼なのかね」

「どうしてそれを……は!そうか!スマホ!!」

「ご名答。いや~このスマホ。クラスメイトの戦績まで見れちゃうのな。すごいわ~」

と一色は感心していた。

「で、でも同級生の女子にスポーツで負けたりしたのは事実だろ!」

「いや、でも君たち、同級生の女子も本選出場できた

クラブカーストバトルトーナメントに予選落ちしてるじゃん。そ

れじゃ、間接的ではあるが、君たちも同級生の女の子に負けたってことになるよね。それはどうなんだよ」

と一色は言うと、相田達は

「いや、それはスポーツじゃないだろ」

「スポーツじゃないのは知ってるよ。で、俺が聞きたいのは、君たちはクラブカーストバトルトーナメントにおいて同級生の女子が本選出場、君たちは予選落ちしてるけど、それについてはどう思ってるのかってこと」

「そ……それは」

「そういやさ、島野って同級生の女の子に100m走負けたって本当なのか?」

と一色が島野にこっそりと聞くと、島野は恥ずかしそうに

「うん……負けた」

と言った。

「でも気にするな。同級生の女の子に負けたことよりも、それを馬鹿にするやつの方がよっぽどカッコ悪いからな」

と一色はそう断言した。


そうこう会話しているうちに葉乃川さんの着替えが終わったらしい。


一色と島野は無事着替えることができてホッとしていた。


葉乃川の着替えが見れず、不満に思ったのか、相田たちは、一色たちを睨みつけ、

自席へと戻っていった。


「ありがとう。島野くん、一色くん、平野くん」

「どうも」

「そして、穂村くんもありがとうね」

「おうよ。しかし、相田のやつは弱っちいな。タイマンぐらい張ってやろうと思ったのに。全然攻めてこねえんだもん」

「ハハハ」

と葉乃川は笑った後、


「じゃあ、私、教室出るね」

と言い、去っていった。


こうして、無事に体育着に着替え終わり、

健康診断の方も、何のトラブルなく終わった。


葉乃川さんのことを頼むとお願いした水森からもお礼を言われた。


後は午後のCCBSの授業に備えるだけ。


一色はそう思っていた。


しかし、新たな事件が、一色たちを待ち受けようとした。


そう、葉乃川さんの下着が盗まれていたのである。


下着を盗まれて泣いている葉乃川さんをクラスメイトの女子たちが慰める。


一体、誰が……こんなことを……


一色と島野は呆然と立ち尽くしていた。
























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