かえろ

ある日「あの山を越える」と言った君

私は止めたのだけれどね

「山を越えれば何か見えるはず」

希望膨らませて出てく君


慣れない険しくて遠い道

何度も何度も転んで傷だらけ

ようやく登り詰めた君に見えたもの

それはまた次の山の登り口


かえろ かえろ おうちへかえろ

君の大好きなハンバーグ作るから



「森へ薬草採りに行く」と言った君

私は止めたのだけれどね

火傷やけどしちゃったあなたが可哀想」

涙をにじませて出てく君


不気味でぬかるんだ暗い道

森にはあちこちスズメバチの巣だらけ

それとは気付かないまま触ってしまい

うのていでハチから逃げ惑う君


かえろ かえろ おうちへかえろ

とびきり美味おいしいシチューを作るから



がけの花を取りに行く」と言った君

私は止めたのだけれどね

「あの子がどうしても欲しいって言ってた」

手とひざ震わせて出てく君


危ないいのちけの高い場所

それでもどうにかその花をって

満面の笑みで差し出す一輪

その子は面倒そうに「それもう要らない」


かえろ かえろ おうちへかえろ

ほっこり温かいポトフ作るから



「怪我したジカ助けたい」と言った君

流石さすがにこれはまずいと思ったけど

ても立ってもいられなかったみたい

私を振り切って出てく君


いつの間にかに姿消したジカ

「探して! 探して! 探してよ!」と私に泣き付く君

ひとしきり回った私にできる事

それはひたすら天をのろう事だけ


『あの子、見付かった?』

『ねえ……聞いて』

『ふえ?』

『落ち着いて聞いて。あのジカ……死んだの』

『……え』

『撃たれたの。鉄砲で』

『なん、で……』

『畑を荒らしたからよ。シカは、害獣なの。助けちゃいけないのよ』

『そんな……だって、だって! あの子生きようとしてたのに!』

『……っ』

『一生けんめい、生きてたのに……』

『うん、そうなんだよね……わかる。わかるよ? 悪くなんかないはずなのにね……』

『……』

『私、かばおうとした。でも、何もできなかった……ごめんね、ごめんね? ごめんね……』


かえろ かえろ おうちへかえろ

ねえ ねえ 何か食べたいものは無い?



期待は裏切られ 親切は果たせず

好意は無下にされ 慈しみは裏目に出て

君は何を感じたのだろう

何を思ったのだろうか


優しい人とめぐりいたい

そんな事よく聞くけど ざんこくな話!

傷付く事で優しくなれるのなら

君は優しくなんかならなくていい!!!


二人並んで歩く帰り道

足取り細くうつむいたままの君

私はそんな君がただ愛おしくて

だから世界の他のだれためでもなくて

君だけには優しい私でりたい



      †



🎦 https://youtu.be/VBiLtA3UelI

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