第4話 現在~黙秘~
「ねぇ、黙ったままじゃ、分からないよ?」
今、僕の目の前にはエリカがいる。
休日の朝。
突然僕の部屋に彼女はやってきた。
驚きながらもエリカを部屋に招き入れ、彼女へ送ったメッセージを確認すると、なんと全てに【既読】がついていた。
夜寝る前に確認した時には、確かについていなかったのに。
「エリカ?」
僕の部屋には来たものの、彼女はまだ一言も言葉を発していない。
表情も硬く、僕の目を見る事も無く俯いたままだ。
そんな彼女の姿に、僕の悪いクセ、ネガティブ思考が頭をもたげる。
(もしかして、これはもしや・・・・)
ふと目に留まったのは、彼女の白い首元についた、赤い印。
気付いた瞬間、心臓がドクンと大きな音を立てて飛び跳ねる。
違う、嘘だ。
そんなこと、ある訳ない。
頼む、違うと言ってくれ!
無言のままのエリカの前で、僕はギュッと強く目を瞑った。
***************
薄暗がりに浮かび上がる、エリカの白い裸体。
形よく膨らんだ胸元に伸びる手は・・・・僕の知らない男の手。
エリカはその手の動きに翻弄され、次第に呼吸を荒くしてゆく。
「もっと・・・・」
焦がれるようなエリカの声。
ダメだ、エリカ。
そんな声、出さないでくれ!
僕以外の、他の男なんかに聴かせるなっ!
やがて、僕の知らない男がエリカの上に覆い被さり、白い肌の上に、いくつもの小さな赤い花を咲かせてゆく。
すべすべとした太腿の内側に。
可愛らしいおへその横に。
柔らかな膨らみの間に。
そして。
仰け反らせた、滑らかな白い首元に。
やめろっ!
・・・・もう、勘弁してくれ・・・・
願いも空しく、エリカと男の行為は激しさを増してゆく。
僕の前で見せるように、エリカは乱れた姿を男に晒す。
男はまるで、エリカが自分のものであるかのように、エリカの体を思うさまに貪りつくす。
やがて。
恍惚の表情を浮かべるエリカがふとこちらを向き。
虚ろな瞳が、僕を捕らえた。
***************
「みっちゃん」
ハッと我に返ると、やはり虚ろな瞳のエリカが僕を見ていた。
久し振りに聴くエリカの声に、こんな時だというのに、心が高鳴ってしまう自分を押さえられないもどかしさ。
「心配、してたんだよ。まずは無事で、良かった」
僕の言葉にも、エリカは無言で僕を見つめたまま。
「今まで、どうしてたの?どうしてずっと連絡くれなかったの?何かあったの?」
僕の問いにも、やはりエリカは黙ったままだ。
スマホなくしただけだって。
忙しかっただけだって。
いつもみたいに、あっけらかんと笑ってよ、エリカ。
暫く待ってはみたものの、エリカはやはり黙ったまま。
(もしかしなくても、これはやはり・・・・)
悲しい結末を覚悟しつつ、僕は言った。
「僕に改善すべきところがあるなら、そう言って欲しい。言ってくれないと、分からない」
すると、エリカは黙ったまま、小さく頭を横に振る。
それはすなわち、僕には改善すべきところが無い、ということか。
いや。
もう僕には改善の必要など無い、ということだろう。
そして彼女には、その理由を告げる気など、無いのかもしれない。
・・・・僕が諦めて音を上げるまで、黙秘するつもりかい?
案外残酷なことをするんだね、エリカ。
やまない雨はない、って言うけど。
もうずっと、どしゃ降りだよ、僕の心の中は。
全然、やみやしない。
悲しい結末が、より一層近くに迫って来た気がして胸の痛みが強くなったけれども。
ここまで来てしまったならもういっそ、本当のトコロが知りたくなる。
それでふられてしまうなら、それでも、構わないから。
僕は腹に力を込めて、エリカに言った。
「他に好きな人ができたんだね?」
「・・・・え?」
久し振りに聴いたエリカの声の2言目は、僕の予想外の、とても短い言葉だった。
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