第17話 親の死に目に会えたんだが

モンタギューは急ぐ。ここ最近の父の調子は少しマシになっていたが、どうやら嵐の前の静けさだった様だ。病に臥せってからめっきり置いた父の姿は胸にくるものがありいつ最期の時が訪れても良い様にはしていたのだが、実際に来るときは他の用事で立て込んでいる時だというのだから世の中うまくいかないものだとモンタギューは溜息をつく。


急いで父の所へ向かった所、なんとか父が死ぬ前に辿り着き、床に臥せる父の傍に寄り、人払いが出来た。父は弱々しい声で「良く帰って来た」と告げ、どうやら間に合ったようだと安堵してからモンタギューは話し掛ける。


「父さん。何か言い残す事はないか。その為に俺は帰って来た。」


すると父はわずかに目線を向けた後に何か伝えたそう気配を出しつつ呟いた。


「昼・・・に出したん・・・では・・・。・・・くれ。」


か細い声に聴き損ねたモンタギューはもっと傍に近寄り言う。


「もう一度言ってくれ。良く聞こえない。」


すると父はまた話し出す。


「昼食用に肉をテーブルに出したんだがそのままでは不味い。片付けてくれ。」


モンタギューは思わず『今言う事かよ!』と思ったが気になって仕方がないのだろう。急いでモンタギューは台所に行き、確かに出したままの肉をしまってからもう一度父の所に向かった。

すると父はどうなったのか知りたいと目で訴えてきたのでモンタギューは答える。


「ちゃんとしまったよ。さぁ、もう心配事はないだろ?」


そう言ってモンタギューは父の傍に座り、父が話に耳を近づける。


「・・・ミに・・・れ。・・・てあ・・・り・・・ると。」


「もう一度行ってくれ。今度はちゃんと聞き取る。」


「ソフィーに伝えてくれ。タンスの下に隠してあるへそくりはお前にやると。」


「ソフィーって誰だよ!」


「あの・・・、何かお呼びで?」


どうやら自分の名前が呼ばれたと思った女が扉を開けて中を覗いてきた。あんたの事かとモンタギューは思ったがとりあえずは話が進まないので外で待っていてもらう事にする。


「分かった。後でちゃんとするから。それで、他にないのか?」


「今日はまだポチの散歩に行ってない。」


「分かった。後で行こう。他には。」


「いや、分かってない。今ポチがどんな気持ちで待っているか・・・」


「分かったから!後でちゃんと行く!それで他には。」


「実は昔、お前の母さんには黙っていたんだがお前の母さんの前に付き合っていた女が居たんだ。」


「俺に告解するなよ!ああ、母さんも居ないものな。それで他には。」


「それがソフィーだ。」


「さらりととんでもない事言い出したな!それで、他には。」


「お前は知らんだろうがポチの好物は実は芋だ。」


「あんたの中でポチはどれだけ重要なポジションなんだよ!他には?」


すると父はもうないと言わんばかりに安らかな顔をして今にも逝ってしまいそうだったのでモンタギューは慌てて言った。


「本当にもう無いのかよ!なぁ!?」


すると父はうるさそうな顔をしてモンタギューを見つめてから何か思い出したように呟いた。


「詳細は遺書に。」


「先にそれを言えよ!」

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