第6話、魂を傷つける言葉を受けるくらいなら、下世話な本音の方がマシ
その後、オレは詳しい説明を聞くことも含めて。
召喚されし部屋を出て、聖ジャスポースの学び舎がある場所へと、二人に引っ張られるようにして向かうこととなった。
何でも、テストの準備のために、二人の所属する部活にあてがわれた部室に行くらしい。
亜柚ちゃんとシュンちゃんが所属している部がなんなのか何となく予想ができて。
あまり気はすすまなかったけれど、そこに行かなければテストは始まらないというのだから仕方がない。
でも、それよりもまず驚いたのは、今いるこの豪華絢爛って言葉がよく似合う大きな部屋が、シュンちゃん一人の下宿先(二人はここ、神の戸に留学してきた魔法使いなんだって言っていた)だと言うのが驚きだった。
「シュンちゃんはひょっとしなくても、すごくいいところのお嬢様だったり?」
「え? うーん。あんまり考えたことないけど、みんなには良くそう言われるかも」
よく分かんないけどねと言った風に、シュンちゃんは首を傾げる。
という事は、この部屋がフツーに思えるくらいには生粋のお嬢様なのだろう。
「シュンお姉ちゃんはね、すごいんだよ~。シュンお姉ちゃんせんぞくの試験官せんせいがいて、それから火の国のお姫さまともおともだちなんだぁ」
すると、亜柚ちゃんが自分のことのように姉自慢を始める。
顔つき自体は似ていないし、本当の姉妹ってことはないんだろうけど、亜柚ちゃんの嬉しそうにも見える表情を見ていると、そんなこと関係ないくらい二人の間には強い絆があるんだろうなって何となく理解できた。
「すごいかなあ? シオン先生は試験官のついでだって言ってたし、フレアさんなら、亜柚ちゃんだってお友達でしょ?」
そんなやりとりを伺い見るに、きっとシュンちゃんがお嬢様みたいな、特別扱いされたくないんじゃないかってふと思う。
別にお金持ちってわけじゃないけど、そう思われたくないって気持ちはオレにもあるし、理解できたから。
しかし、二人の共通のお友達にはお姫様がいるんだな。
お姫様だなんて、それこそ物語の中でしかお目にかかったことはないけれど、目の前にいる二人がもうすでにお姫様だよねとは、流石に思ってはいるけど口にはせず。
「あ、そうだ。今更だけど二人は本当の姉妹じゃないんだよね? さっきの、お兄ちゃんがいない人云々と同じってこと?」
「うん、そだよ~。それでね、あゆはますたーさんを探してるまいごのごーれむなの。シュンお姉ちゃんが助けてくれて、お姉ちゃんになってくれたのよ」
「?」
マスター? ゴーレム? よく意味が分からないな。
オレはそう言って笑う亜柚ちゃんに対し、首を傾げてしまった。
ゴーレムって言うと、どっかの町の前で門番している奴のことが思い浮かぶけど、そんなわけないだろうしな。
アニキならどんなリアクションするかな?
きっとそういうのも詳しく知ってそうだけど。
ま、分からないことは聞かないと。
「へへ、そう言われると何かくすぐったいよ、お姉ちゃんって言ったって同い年なんだし」
そう思い、再び口を開きかけたが、シュンちゃんのそんなある意味衝撃的な言葉に、固まってしまった。
「え? 同い年っ!?」
まさか、って言おうとしてやっぱり口をつぐむ。
「あーっ、俊お兄ちゃん、やっぱりおどろいてるーっ。あゆとシュンお姉ちゃん、せんとじゃすぽーすのおんなじ一年生さん、なのにぃ」
「あ、ごめん、ごめんよ」
ちょぴりいじけたような表情を見せる亜柚ちゃんに、オレは反射的に頭を下げた。
人を一方的な思い込みで判断することがとってもナンセンスだってことは、幼少のみぎりの頃からしみるほどに己の身体に刻まれている。
それをすることが、歯を一本失うような代償(失ったのはオレじゃないけど)であると、ある意味遺伝子レベル叩き込まれていたというのに。
「あ。ううん、いいのいいの。だってあゆがちっちゃいのはほんとだもん」
そんなオレの思考を悟ったわけでもないだろうけど、間髪おかず慌てたように亜柚ちゃんがそう言ってくれたので。
顔を上げると、はにかんだような申し訳ないような亜柚ちゃんがそこにいて。
何だか不思議と大人びて見えるその表情に、なんだかオレのほうまで照れてしまった。
普段は幼い感じなのに、時にはとても大人びていて。
どれが本当の亜柚ちゃんなんだろうなって思う。
同時に、今この瞬間の亜柚ちゃんこそが、素なのかもしれないって気がした。
「あ、でも、そんなに気にすることじゃないよ亜柚ちゃん。ノアだって『キミらは同い年に見えるからダイジョウブ』だって言ってたしさ」
「うんっ」
それはひょっとして、褒めてないんじゃあとも思ったけれど。
それでも二人が嬉しそうなので別にいいかなって勝手に自己完結をしておく。
しっかし、二人とも高校一年生かぁ。
ウチの高校と同じ制服に見えるせいか、懐かしくなってしまったけれど。
そこまで考えてオレは青くなった。
ついでに髪を掻き毟って暴れたくなる。
オレさっき、何しようとしてたシュンちゃんに!?
へたすれば10も年が離れてるのに!
苦悩しつつ自身で自身を 殴りつけていると、何気にアニキの顔が浮かんでくる。
『10歳がベストだが、30歳までなら幼ければ全然イケル!!』
お前はそう言う呪いにかかっていると笑うあのアニキの顔を、台詞ごとどぎゃっと蹴倒し破却してやる。
オレはそんなんじゃねえって言い張れる自信が。
もうなくなってる気がするのがとてもいやだったけれど……。
(第7話に続く)
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