第2話、家族に見守られ起こされて、プロローグを奏でる




―――気がついたら、そこは異世界だった……。




あ、違うな。

アニキがつくったゲームっていうか、夢なんだったっけ。

そうだよ、あの煌々と赤い世界でのアニキとの会話はどう考えたって夢だったはずだった。


知らない天井というか、自宅の自室などを除けばほとんど知らない天井であろうと内心でツッコミつつ、あまり普通の家っぽくない天井を眺めながら昨日? のことを思い出す。


オレは確か、遅めに仕事から帰ってきて。

珍しく実家から電話あって、実家に帰るのは来週にするってこととか、でも日帰りになるかもとか、その時に借りてたお金持っていくって、話をしたんだ。


それから、ちゃっちゃと作った夕飯(パスタ)をかっ喰らい、ついでに仕事関係でいただいたワインを飲んですぐに寝たんだった。

普段の見慣れていなかったから、そのせいで夢見ちゃったのかもしれない。


だってさ、何ていうの?

全体的にありえないってか、なんかすごいんだよ。

その部屋はさ、何か煙ってて薄暗かったんだけど。

どこかのお金持ちも豪邸の一室というか、スイートルームみたいで。

オレの足元にはどこかで見たことありそうな……えっと、魔法陣らしきものがあったるするんだ。


そんでもって極めつけは。

ちょっと遠巻きからこっちを見てる、二人の女の子だった。


これが夢だって思った一番の理由は。

その二人が、オレの知ってる人に見えたからなんだけど。



そのうちの一人は、桜や桃の花の色をそのまま髪染めに使ったみたいな、おさげの女の子。

ずいぶんと小柄で、お人形みたいな女の子だった。

初め会う子のはずなのに、その紅の視線に含むものや雰囲気が、もうニ度と顔を合わすことのないと思っていたあの人に、似ていて。

それがひどく、オレの心を疼かせる。


もう一人の子は、雲ひとつない空の色を含んだ……お揃いにしているのか、これまたおさげの女の子。

折れてしまうんじゃないかってほどに華奢だけど、好奇心が有り余っているといった雰囲気がよく分かる、溌剌とした感じの子だった。


彼女の場合、こう言ったら失礼なのかもしれないけれど。

知ってるって言うよりは何故だかオレに似てるかもなんて思ってしまった。


お前は女の子に生まれていたら、なんてよく言われたものだけど。

そんな届くはずのない理想みたいなものを体現されているような気がして。



オレはいったい、どんな顔をしていただろう。

ひょっとしたら、歪んでいたかも知れない。

何故だか、こんな顔を二人には見せちゃいけない。

そんな強い気持ちがあった。

夢なのに……夢だよね? 

そんなことを考えていて。

目を覚ましたのにも関わらず何も言わないオレを、彼女たちがどう思ったのかは分からない。



それでも、今まで煙っていたもやが晴れると、彼女たちは。


こんなオレでも、オレなのに。

本気の本気だってわかってしまうような。

眩しいくらいの満面の笑顔を浮かべてくれていて。




「「ようこそー!聖ジャスポース学園へ!!」」


と、きれいに揃って叫んだ。 



(……うーんと。つまりこれはどういうことだ?)


夢……アニキがつくったゲームの、恐らくは冒頭部分。

どこぞの伝説的ゲームのように、母親に起こされるところから始まるように。

このゲームの舞台は、いかにもな学園なのだろうか。



それが、この世界におとされたオレの、最初の感想だったと思う。


『神の戸』と言う名のついた不思議の世界と。

彼女たちとの、大切な出会いの。



    (第3話につづく)






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