第71話

 約束したわけでもないのに自然とお互いが視線を交わし、一歩ずつ歩み寄る。

 混戦と化した戦場にいたプレイヤーたちの手が止まり、二人を中心にモーゼの十戒のように人が割れる。

 先ほどまで喧騒としていたのが嘘のような静寂が流れる。


「貴様がアンドロマリウスか? 実際に会ってみると意外と凡庸に見えるが……」

「初対面で随分と失礼なやつだな」

「いや、これは失礼した。あまりにも楽しみだったものでつい口が滑ってしまった」

「俺に何か用でもあるのか?」

「俺は強者を求めている。いくつかのゲームを転々としてきて今まで俺を満足させれるものはいなかった。このルミナスオンラインならばと思いはしたが……」

「勝手に期待しといて失礼なやつだな。あんたを倒せばウチのチームのいい宣伝になるんだよなぁ。スポンサーもまだついてな監督も言ってたし……あっ、そうだ、あんたウチのチームに来ないか? まだ枠が空いてるんだけどな」

 チームの選手のスカウトに携わってみると、これが意外と難しい。

 実力のあるプレイヤーはすでに他のチームに所属しているし、実力のないプレイヤーに限って条件を高望みする。

 中には俺の存在が気に入らないと勝負をふっかけてくる輩もいた。

 もちろんボッコボコにして追い出してやったが、時間の無駄だった。

 あとは冷やかしでくるやつらも鬱陶しい。

 チームの顔として下手に出て懇切丁寧に対応していたがほとほと疲れ果たしてしまい結局、監督に任せっきりになってしまっている。

 監督には敬意をもって接しようと決めたものだ。

 監督だけでなくバックアップをしてくれる人たちにも感謝の気持ちを忘れてはいけない。

 チームとはプレイヤーだけでなく、表には出てこない人たちの尽力によって回っている。

 ということで、ダメもとで誘ってみる。


「ふっ、もしも俺が負けるようなことがあれば貴様のチームに入ってやろう」

 予想とは違う返答だった。

 なぜなら鴉はプロなんて興味がないと思っていたからだ。

 まぁ、よっぽど負けない自信があるのだろうが。


 鴉が漆黒の刀を抜く。

 鴉はルミナスオンラインだけでなくゲーム業界で有名、一種の伝説となっている。

 あらゆるゲームを転々とし、そのほとんどを一年前後でランキングトップに君臨してから引退している。

 多くの企業からスカウトがあっても、すべて断っている。

 前世で噂は聞いたことがあったが、プロリーグ設立前にルミナスオンラインを引退していたので詳細は不明。

 現在、鴉は闘技場のトップに君臨しており、引退も秒読み。

 セイントベアーズのガルドに呼ばれて、ちょうどスカウトがてら助けてやるかとやってきてみたら、ラッキーなことに大物がひっかった。

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