第34話

「やすひろ、あれやりなぁ!!」

「はぁ、あんたには悪いけど古来より姉に逆らえないのが弟の宿命ってもんだろ。あぁ、友よ、愚かな私の過ちを共に神に謝ってくれないか。贖罪の祝詞」

「てめぇっ!! 最悪な術をかけやがって」

 贖罪の祝詞はパーティを組んでいるか、1時間以内にパーティを組んでいたプレイヤーを対象にしてヘイトの移譲を行う最低最悪なスキル。

 ヘイトとはモンスターがプレイヤーを襲う優先順位をつけるものでヘイトが高いと襲われやすくなる。

 赤く光る三つ目がこちらに向いた。

 本来の使い方はタンクなどにかけてヘイトコントロールするスキルなんだが、悪用されるとこの上なく最悪なスキルに早変わりだ。


「くそっ!!」

 俺がターゲットになってる間、メルルは巨大ゴーレムを殴り続けている。


「ほらほら、あんたも反撃しないとなぶり殺されるわよ」

 ここで攻撃すると俺からヘイトが離れるのが伸びてしまう。

 しかし、いつまでも現状維持してるのも違う。


「分かったよ、お望み通り攻撃してやるよ!! ヴェノムアロー」

 おどろおどろしい紫色の矢を放つ。

 魔法スキルなので弓なんて必要ない。

 矢は一直線に飛んでいってメルルの腰に刺さる。


「い……つぅぅ!? てめぇ……」

「そんな親の仇みたいに睨むなよ。ほら、そこ危ないぞ」

 巨大ゴーレムがメルルを攻撃する。

 いくらヘイトがあっても絶位ではない。

 モンスターごとに攻撃対象にする条件なんかもある。

 俺のヘイトがメルルと近づいてきたからこそ、近くにいる侵入者を攻撃するという条件が発動した。

 我慢して攻撃しなかった甲斐があったというものだ。


「聖銀の杯」

「さすがに解毒スキルくらいはあるわな。だけどいのかなぁ完全サポート役のお前がヘイトもらっちゃってさぁ」

 コウメイが使ったスキルは解毒スキルだ。

 神官なら持っていて当然のスキルなのだが、回復系のスキルはヘイト上昇率が尋常じゃない。

 コウメイもそれを分かっていて苦い表情をしている。

 分かっててもやるしかなかった。

 仕方ないんだよなぁ。

 メルルが落とされれば勝つ選択肢がなくなる。

 それどころかコウメイ一人じゃあ、帰ることも出来なくなるだろうな。

 攻撃スキルをたった一つしか持ってない上に微妙な性能。


 二人がゴーレムに釘付けの間に右側の壁に走って、騎士のポーズを変える。

 剣を台座に刺して両手で柄を押さえる騎士の両手を天を仰ぐように広げ、剣を台座に刺さったまま回転させる。

 ゴゴゴという音と共に騎士の後ろに道が現れた。


「さっきの贖罪の祝詞はこれでおあいこってことにしといてやるよ。じゃあ、頑張ってね」

「まっ、てめぇ!!」

 俺はメルルに笑顔を向けて、騎士の背中にスパイラルゲイルを撃った。

 騎士が崩れ落ちて、その瞬間、扉は閉じ飾りであったはずの騎士の彫刻たちが動き出す。


「あんどろまりうすぅぅぅぅぅ!! 覚えとけよ、許さねぇからなぁぁぁぁぁ」

 分厚いはずの扉越しにメルルの怒声が聞こえてきた。

 まんぞく、まんぞく。

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