第31話

 二人が言い争っているのを旋回しながら見ていたガーゴイルの嘴が開いた。

 ガラスを引っ掻くような不快な音と同時に何かが口から放たれる。


「ちっ、やすひろ、盾出しな」

「っ!? 聖女の盾!!」

 空中に現れた聖なる盾が何かを弾く。


「あっ……どうも……」

 さも友達かのように手をあげる俺を見て二人は目を点にして時間が止まる。


「はぁ!?」

「なんだおまえ?」

 弾かれたそれが覗き見していた俺が隠れていた扉を吹き飛ばしたせいでバレてしまった。


「こんばんはぁ、私はメルルと申しますぅ。そのお姿から拝見するに魔法使いですよね。今、ちょうどボス戦をやっていて困ってたんですぅ。お力を貸してくれませんか?」

 先ほどまで怒鳴っていたのが嘘のように猫なで声で少女が迫ってくる。

 もう一人の男が必死になって攻撃を防いでいる横でそれを無視するように力を貸してほしいと頼んでくる胆力たるや、どれだけドス黒いものを胸の内に抱えているか垣間見えるというものである。


「いいですよ」

「やったぁ!! パーティ申請しますね」

 ちょうどいい。

 持ちつ持たれつ、互いに利用し合う仲というのも悪くない。

 そうだろ、破壊女帝メルル。

 華奢で可憐な見た目とは裏腹に全てを力で破壊し尽くす破壊の権化のような女。

 自分に尽くしてくれるプレイヤーで周りを固めて、利用価値がなくなれば捨てる。

 男どもが捨てられないように貢物を捧げに行列を作るその様から女帝と呼ばれていた。

 名前を聞くまでは忘れていたよ。

 常に取り巻きがガードしていたため実物を見るのは初めてだ。


 しかし、これはたしかに動画で見るのとは雲泥の差だな。

 オーラとでもいうのか、惹きつけられるような魅力を感じる。

 真実を知らなければ盲信的に尽くしたくなるのもわからないではない。

 知っていれば触れてはいけないパンドラの箱、女の闇を見たような気分になって、とてもではないが仲良くはできない。


「よろしくお願いします、あそこで攻撃を防いでいるのが弟のコウメイです」

「姉さん、そろそろ厳しいよ」

 スキル聖女の盾は発動者本人がスキルを解くか、一定以上のダメージを受けると自動で解ける。

 防御に定評のあるスキルとはいえガーゴイルの猛攻をここまで防げるのは素直にすごい。


「とりあえず落とすから後は任せた」

「はぁ〜い、お願いしますぅ」

(ちっ、ガーゴイルの強さも知らないくせに呑気な野郎だな。使えなさそうだしいざとなれば肉盾にしてロストアイテム回収するか。ルーキーの割にはアイテムはいいもん持ってそうだし)

 どうせ腹の中では俺が使えるかどうか値踏みしてんだろ。

 メルルの周りに人が集まるのは何もその外見と猫を被ったキャラだけが理由じゃない。

 使える人間にはそれなりに還元するからこそ、ビジネスパートナーも後を絶たなかった。

 メルルは価値があるかどうかを見抜く才能がズバ抜けているという風の噂も聞いたことがある。

 落ち目のやつは切り捨てられて有用なやつだけが残される。

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