僕の都合なんかお構いなしな幼馴染の話
月之影心
校舎裏
僕、
そりゃ愛莉だって自我のある人間だもの、他人に対して強く当たる事だってあるのは分かるよ。
でも僕に対してはそういうのが他の人よりも強い気がするんだ。
「大地!行くよ!」
「え?僕、今お弁当食べてるんだけど……」
「そんなの後でも食べられるでしょ?ほら!急いで!」
「でも、それじゃ昼休みが終わってs……」
「文句あるって言うの?」
「い、いや……無い……です……」
こんな感じでいつも僕の都合なんか関係無しに何処かに引っ張って行こうとするんだよ。
あ~いや、別に嫌ってわけじゃないんだ。
僕は愛莉の事が好きだから。
気の強いところばかりでも無いのが分かってるから。
◇◇◇◇◇
「それで、何処に行くの?」
「黙って着いて来なさい。はい、これ持って。」
「これ?何?」
「道具。」
「何の?」
「いちいちうるさい。黙って持って着いて来る。」
「あ、はい。」
両手を大きく振り、小振りなお尻を揺らして僕の前を大股に歩く愛莉に、僕は一生懸命着いて行く。
背は僕より10cmも低いのに、何でこんなに歩くのが早いんだろうかといつも思う。
連れて来られたのは校舎裏。
昼休みの校舎裏。
放課後なら告白のメジャースポット。
でも今は昼休みだから誰も居ない……と思ったら女子生徒が一人ぽつんと立っていた。
「逃げずにちゃんと来たね。」
愛莉が少し威嚇を込めたような声を掛けると、その女生徒はオドオドした感じで長い前髪の隙間から上目遣いにこちらを覗き見てきた。
どう見ても怯えてる。
まさか喧嘩でも始めるつもり?
愛梨は一旦止めた足を再び進めてその女生徒の方に近付いて行く。
「大地も来て。」
「え?あ……うん……」
何をするのかな?
相手は女の子一人だぞ?
女の子一人に僕と愛莉でイジメ?
いやいや、それはダメだよ。
て言うかそもそもイジメはダメだぞ。
おもむろに愛莉がその女生徒の長い髪を掴んだ。
右手を目にも留まらぬ速さで伸ばしたかと思った瞬間だった。
やっぱイジメる気だ。
「大地。その袋こっちにちょうだい。」
愛莉に着いて歩く間、愛莉から受け取った袋がカチャカチャカサカサ音がしていて、明らかにカチャカチャは金属的な音なんだよな。
まさか刃物系?
道具って斬り付ける系?
いくら愛莉の頼みでもそれはマズいんじゃね?
でも断れない。
愛莉の言う事に逆らうなんて出来ない。
だって僕は愛莉の事が好きだから。
◇◇◇◇◇
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ……
愛莉に髪を掴まれた女子は校舎裏口のコンクリートの階段に腰を下ろしている。
ポンチョみたいにしたビニールシートみたいなのを頭から被らされて、後ろで中腰になっている愛莉に髪を切られてる。
女子の周りに数ミリから数センチ単位で真っ黒な髪の毛が落ちている。
「あ、あの……あ、愛莉……?」
「今話し掛けないで。集中してるから。」
「あ、はい。」
愛莉は真剣な眼差しで手に持ったハサミと女子の髪の毛を見ながら髪を梳いたり切ったりしている。
女子はオドオドした表情はあまり変わらないまま、愛莉が『目を閉じて』と言えば目を閉じ、『頭ちょっと右』と言えば首を右に傾げている。
「出来た。うぅむ……我ながら完璧。」
女子の背後からその頭部を見下ろす愛莉は得意気な顔をしていた。
女子は目をぱちくりさせたまま現状を未だ把握しきれていない表情だ。
愛莉が僕に持たせた袋から手鏡を出して女子の顔の前に差し出している。
「どぉ?アンタはこういう髪型が似合ってると思うよ。」
いや、勝手に他人の髪を切るってマズいと思うんだけど。
「こ、これが……私……?イイ……」
いいんだ。
同意を求められた風でも無いのに勝手に髪切られたけどいいんだ。
「あ、ありがとう……でも……どうして……?」
「ん~……寧ろ可愛い顔してるのに何で前髪で隠すの?」
そういう事を訊いてるんじゃないと思うんだけど。
しかも質問に質問で返すのはダメだと思うんだけど。
「か、かわっ……!?わ、私なんか……そんな……」
「髪の毛で顔を隠すのは自信が無いからだよね?大丈夫!アンタは可愛い!私が言ってるんだから自信持ちなよ。大地もそう思うでしょ?」
「ふぇっ!?あ、あぁ……か、可愛いと思う。」
いきなりのキラーパスだったね。
いきなりのキラーパスに『可愛い』とか言っちゃったよ。
髪切ってる時、話し掛けても話し掛けるなって言われたから完全に視聴者になってたよ。
「ね?大地もそう言ってるから間違いないよ。自信持って。」
「う、うん……ありがとう……」
納得させちゃったね。
まぁあれだけ自信満々に言われたら誰だって納得しちゃうよね。
愛莉はあっという間にみにくいアヒルの子を白鳥にしちゃったね。
あ……愛莉が髪を切った子が『みにくい』ってわけじゃないんだ。
あくまでも『例え』だからね。
実際、愛莉が調髪した後のその女の子は何で前髪伸ばして隠していたんだろう?ってくらい可愛らしい顔をしていたし。
あ、いや、別に心移りするわけじゃないんだ。
どんなに可愛らしい子がいても、僕が好きなのは愛莉だけだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます