第13話 メイドは見た 〜続続々・幽霊屋敷の怪〜
私はジーンと申します。
この屋敷に仕えて早いものでもう20年でしょうか。
いえ、もう少し長かったかも知れません。
まあ多少は誤差です。
旦那様の小さい頃からお仕えしてきた私は幸運な機会に恵まれお嬢様の御世話をする事になりました。
御嫡男のアルフレッド様や次男のロナルド様の御世話もしましたが、お嬢様の御世話はいささかてこずります。
お転婆が過ぎると言いますか・・・、と言えばまるで私がすでに良い歳に聞こえますので却下です。
お遊びが過ぎる、です。そうしましょう。
さすがに色々とありましたがアルフレッド様が転んで怪我をなされた事もありました。
アルフレッド様とロナルド様が取っ組み合いの喧嘩をされた時は本当に困りました。
ロナルド様は私に良くなついてくださり次に会う時にどれほど成長なされたのか楽しみです。
そんな私でも最初は戸惑うばかりでした。
刺さったフォークを抜き、浮かぶおしめを回収し、落ちる前に皿を拾う。
私もうまくなったものです。
長い年月の中で身につけた作法にまさかまだ奥があるとは思いませんでした。
無心。
ほんの少しの事で心を乱されてはいけない。
これはそう、試練なのだと私は悟りました。
敬虔なる信徒である私が次のステップへと進むためにお嬢様は試練をお与えくださっているのです。
ある商人が祝いとして持ってきた布製の人形。
これならお嬢様の部屋にあっても怪我の原因にもならず、女子らしい飾り付けになります。
そうして少しずつこの部屋にも人形が増えて壁際に飾られ、どこか殺風景だった部屋の雰囲気を明るくしています。
その中のいくつかの人形がきれいなドレスを着てブロンドの長い髪を流しているのを見て、お嬢様もいつかこんな風に可愛らしく着飾るのだな、とつい微笑んでしまいます。
それはある日の事でした。
丁度私がお嬢様の部屋に居る時で、エールトヘン様は隣室で御休憩中でありお嬢様も眠っていらっしゃいました。
その時です。
部屋の外で騒ぎが起きました。
どうやらシェリーが声を出しています。
私はお嬢様が起きては良くないと思い、部屋の外に出てシェリーを叱りました。
シェリーがまた守護霊様にからかわれた、などと言っていましたがその守護霊様も傍に居らず怪しいものです。
そういえばキャメロン様も珍しく近くに居ません。
シェリーが大人しく掃除に戻ったので私は部屋へと引返しました。
部屋に戻った私が感じたのは違和感。
疑問に思った私が部屋を見渡せば、何に違和感を感じたのかが分かりました。
天蓋付きベッドのカーテンが僅かに開いているのです!
そんな。まさか。
私は慌ててベッドへと駆け寄りました。
ああ、私はなぜあの時あんな一言を言ってしまったのだろう、と後悔しました。
お嬢様もいつかこんな風に可愛らしく着飾るのだな
そうです。いつの間にか綺麗なドレスを着てブロンドの長い髪を流しているんです!
ええ、それはそうです。なにせ私が見た人形そっくり、というより人形そのものですから!
そしてお嬢様!そんなドヤ顔の人形はありません!
パニックに陥る前に部屋を見渡せば、隠れているつもりのお嬢様が人形達の中に埋もれて顔だけ出しているを見付けたのですがそんなドヤ顔の人形なんて置いているはずもありません。
お嬢様を見付けた事で内心安堵した私ですが、お嬢様の悪戯なのかも知れませんがうまくお隠れになられてドヤ顔をしていると言うのならその尊厳を守りましょう。
「お嬢様が人形に!エ、エールトヘン様!」
私は扉を開け部屋を出て隣室へと駆け込みました。
事の真相はこうでした。
何でもお嬢様は避難訓練をしたかったそうです。
いつ誘拐犯が来るか分からないからその時の為なんだそうです。
あえて私を驚かそうとした事はいつもの悪ふざけだったそうです。
大袈裟に驚いて見せた私に苦笑いのエールトヘン様はそう仰られました。
『後でお嬢様には作戦失敗だったと言わないと』などとも仰られました。
そこに納得出来ませんがそういう事なら私も手伝う事にしました。
「それでしたら私にも是非人形を作らせて下さい。布の縫い方も、出来れば織り方もお嬢様にも覚えて頂きましょう」
そうして私はお嬢様からは片時も目を離さない事を固く誓い、今日もお嬢様似の人形や色んな人形を作るのでした。ドヤ顔も含めて・・・。
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