閑話 とある新米幹部候補生の追従


 ◇◆◇◆◇◆


「ぜぇ……ぜぇ……」


 やあ皆様。疲労困憊のボクピーターです。


 いやあ体力テスト(怪人化有り)を正直甘く見てた。怪人化有りとはいえ大半は普通の体力テストと同じだし、部分変身で邪因子を温存しながらだから余裕だろうと思っていたけど冗談じゃない。


 記録を出すには邪因子を如何に活性化させるかが重要だけど、種目が幾つもある訳でその度に活性化させていたらどんどん疲労もたまる。


 実際テストの前に景気づけに怪人化していた面々は、前半で飛ばし過ぎて大半が途中で怪人化が解けたり、或いは怪人化を保つのが精いっぱいで記録が中々伸びなかったり。


 そんな中、


「はぁ……はぁ……やりますわね。流石は我がライバルネル・プロティ。この私が勝てないとは」

「ふん。まあまあ歯ごたえがあって楽しかったよガーベラ。……あとさっきのアレはノーカンだからっ!? たまたまそこだけ勝ったからって良い気にならないでよねっ!」


 疲れはあるけどまだ余力を残しているガーベラさんと、ガーベラさんに負けた分以外をもぎ取りながらもどこか悔しそうなネルさん。


 互いにラスト一種目を残した状態でもそんな事を言い合える二人に対し、凡人のボクから言える言葉は一つ。



「お二人共張り合い過ぎでしょうっ!? 何で全種目一緒に受けてんですかっ!? 仲良しですかこの野郎っ!」

「それを言ったらピーターだってそうじゃん!」

「そうですわよ!」

「アンタらに付き合わされてんでしょうがっ!?」





 ちなみにそれぞれの種目でのぶつかり合いをざっくり説明するとこんな感じだ。


 反復横跳び。


「ハッハァっ! このガゼル怪人と化した俺様に勝てる奴なんて……ナニィッ!?」

「うららららぁっ!」

「凄いっ! 残像が見えるレベルだっ!?」

「ちぃっ!? こういうシンプルに敏捷力を測る試験は苦手ですわっ!?」

「足に邪因子を集中して……何とかいけるっ!」


 全体順位(体力テスト参加者237名中)

 ネル 1位

 ガーベラ 20位

 ピーター 98位





 反射神経テスト。


「制限時間内に飛び出てくるモグラを叩いてください。道具はこちらをお使いください」

「……これマンガで見たっ!? モグラ叩きって奴ね。うりゃりゃりゃっ!」

「オ~ッホッホッホ! こういう分野でしたら私の得意分野ですわ!」

「ああっ!? 髪でいくつもハンマーを持つなんてそんなのアリ!? ならあたしだってぇっ!」

「なっ!? 目で追えない程のハンマーの動きですって!? ……負けませんわよっ!」

「二人共っ!? 台が壊れるっ!? 壊れますって!?」


 ネル 1位(終わった後で台の修理が必要に)

 ガーベラ 2位

 ピーター 105位





 握力測定。


「ドッセ~イですわっ!」

「なっ!? 俺はゴリラ怪人だぞ!? だってのにこんなお嬢様っぽい奴に抜かれるなんて!?」

「オ~ッホッホッホ! 貴族たるものそれなりに身体を鍛えておりませんとね!」

「……あのぉ。測定機に髪の毛が絡みついているんですけど」

だけですので何の問題もありませんわ従僕さん。……それに」


 メキョッ!


「……旧式とは言え、あっちで測定器を握り潰した我がライバルに比べれば可愛らしい物ではなくて?」

「……そうですね」


 ネル 1位(測定器破壊。ただし上限を超えての破壊の為暫定1位)

 ガーベラ 9位

 ピーター 110位




 立ち幅跳び。


「ヒュ~! ワシ型怪人の俺。飛ぶのはルールで規制されてるが、翼を広げて滑空するのはセーフ。このまま風に乗ってなるべく遠くへ」

「少々横を失礼しますわっ!」

使大ジャンプだとぉっ!?」

「邪魔。退いて」

「なっ!? 反対側からもっ!?」

「くっ!? 流石ですわね。足に邪因子を溜めて跳んだだけで追い抜かれましたか」


 ネル 1位

 ガーベラ 6位

 ピーター 81位





 邪因子制御力テスト(疑似爆弾解体形式)


「ムキ~っ!?」

「あ~ららみっともない。それでも我がライバルですの? ……仕方ありませんわね。ではこの私が多少教授致しましょう。ほらっ! まずそちらの赤い線を邪因子を流したまま引っ張って、それとまったく均一になるよう邪因子を調整しながら隣の青い線を切断。その左隣の黄色い線は罠ですから少しでも邪因子を流すと失敗になりますのでお気をつけて。それから」

「ああもうっ! めんどくさいっ! こんなの全部まとめて邪因子を流し込んでぶっ壊せば良いのよっ! ……わぷっ!?」

「ああまた失敗ですの? こんなに煤塗れになって……仕方ない。ハンカチを貸してあげますわ。使い終わったらきちんと洗って返してくださいまし」

「……やった! 出来たよガーベラさん! あれぇ? ネルさんまだ出来てないの? ボクだって出来たのに? へへ~ん! ……ふぎゃ!?」

「ピーターの癖にそんな簡単にできるなんて生意気よっ!」

「ヒドイ!?」


 ネル タイムアップ及び機材粉砕の為測定不能(ただし制御力が無いというより性格面での問題)

 ガーベラ 1位(参加者記録中10位)

 ピーター 15位





 その他幾つか種目はあったけど、まあこんな感じで結局最後まで張り合う二人に付き合ったボクは凄いと思う。……そう思わなきゃやってらんない。


 しかしネルさんが有り余る邪因子を常に活性化させて力技で記録を叩き出しているのに対し、ガーベラさんは非常に細かな邪因子コントロールと自身の髪を創意工夫して使って負けじと食い下がる。


 そういうまったくタイプの違う二人だけど、


「次がいよいよ最後の種目ですわ」

「最後は妙な小細工無しの真っ向勝負。邪因子量測定テスト。そんな疲れ切った身体でちゃんと測定できんのガーベラ? ……あっ!? 疲れてたから負けたって言い訳にでもするなら止めはしないよ?」

「はっ! 御冗談を。少々疲れている程度を言い訳にするようでは貴族の名折れ。そちらこそ邪因子を伸ばす事だけ考えてまた機械を壊すんじゃなくて? ネルさん」

「さっき見たけど今度の測定器は最新型だから平気だも~ん! ……そんじゃ行こうか! 最後に圧倒的な邪因子を見せてあたしの格を分からせてあげるっ!」

「望む所ですわっ! 行きますわよっ!」


 そうやってどこか楽しそうに張り合う二人の姿は、ボクにはどこか輝いて見えたんだ。





 最後の邪因子量測定テストは特に大番狂わせもなかったので結果だけ。


 ネル 1位(今テストの2位に対してダブルスコア。歴代参加者記録中第2位)

 ガーベラ 5位

 ピーター 66位


 二人につられてボクも自己新記録を叩き出したのは地味に嬉しい。





 こうして、初日の体力テストは終わりを迎えた。

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