第40話 魔王登場

「ゼェゼェ……ゼェゼェ……」


「師匠、大丈夫ですか?」


「ゲフッ……だ、大丈夫だ」


「それなら良かったです」


 嘘だ。本当は全然大丈夫じゃない。外堀を泳いだ後、内堀を泳いだため完全にヘトヘトになっている。おまけに城を守るモンスター達が次から次へと襲いかかってくるから、休憩する暇もない。


「ついに城の本丸までたどり着きましたね。突入しますか?」


「ちょっと待った。とりあえず回復しよう」


「わかりました!」


 ジェシカは手慣れた動きで魔法陣を完成させる。こいつは俺が修行している間、ひたすら魔法陣を描く練習してたから、だいぶ早くなったな。

 俺は魔法陣の上に乗り、瞬時に詠唱を終えると回復魔法を使う。


「ネオヒール!」


 全身の傷口が塞がり、乱れていた呼吸も元に戻った。まるで一日中眠ったような爽快感だ。しっかり修行しておいて良かった。


「では、いよいよ突入ですね?」


「いいや、突入はしない。城ごと爆破で中にいる魔王を葬る」


「なるほど。師匠らしい姑息な手段ですね!」


「姑息って言うな!」


「すいませ〜ん」


「ほら、危ないから下がっとけ」


「は〜い」


 アイマスクを外して城の壁を爆破する。しかし、何故か傷一つつかない。  


「う〜ん、どうしてだ?」


「漆黒のダークネスが着ていた鎧と同じ魔鉱石を使った壁なんじゃないですか?」


「なるほど、だからこんなに気持ちの悪いオーラを感じるのか」


「師匠、どうします?」


「普通に侵入して魔王を討ち取るしかねえな」


「ですね!」


「ここから先はマジで危険だから今まで以上に気合入れて行くぞ!」


「ラジャー!」









「師匠、モンスターです!」


「えーっと……あれは、ゴブリンかな?」


「どうやらそのようですね」


「妙だな。モンスター達の総本山であるはずの魔王城にしては、警備のモンスターが弱過ぎる」


 魔王城に侵入してかなりの時間が経ったが、ここまで遭遇したモンスターはスライムやオークなどの雑魚ばかりだ。何か裏があるのかと思わず警戒してしまう。

 

「一応、油断しないようにしましょう」


「ああ!」


 ジェシカが速攻で用意した魔法陣の上に飛び乗り、俺は魔法を使う。むやみに屋内で爆発スキルを使うとこちらにも被害があるので、可能な限り普通の魔法で戦わなければならない。


「エターナルブリザード!」


 ゴブリンは一瞬のうちに氷漬けになった。どう考えてもオーバーキルだね、これは。

 その後も雑魚モンスターしか現れず、俺達はとうとう魔王城の最上階にたどり着いた。


「俺の索敵スキルによると、この扉の向こうにヤベェ敵がいる。今まで戦ってきたモンスターの何十倍もの覇気を感じるぜ」


「この先に魔王がいるのでしょうか?」


「恐らくな」


「私達の冒険もいよいよゴールですね。私、師匠と出会えて良かったです」


「こんなところで死亡フラグを立てるな! さっさと行くぞ!」


「はい!」


「たのもーう!」


 扉を勢いよく開け放ち、中に入る。この城の中で最も広い部屋、恐らく玉座の間だろう。

 階段を上った先にある黒い玉座に何者かが座っている。


「あれ? 女の子?」


 玉座に座っているのは青色のロングヘアーの美少女だ。背格好や顔立ちから推測するに十五歳くらいといったところだろうか。


「ちょっと、あなた達は誰なの!?」


「ち〜っす! 良かったら一緒に食事でもどうっすか?」


「は? いきなりなんなの!?」


「師匠、ナンパしてる場合じゃないでしょ!」


「悪い、悪い。だけど、魔王城でこんな可愛い子に出会えるとはな」


「わ、私が可愛いですって!? そんなこと言われたって嬉しくないんだから! おバカ!」


「わ〜、照れてる〜!」

 

「照れてないから!」


 反応もめっちゃ可愛いな。だけど、か弱そうな女の子がこんなところにいたら危ないだろ。魔王と戦う前に避難させてあげよう。


「師匠、談笑しないでください! 多分、あいつが魔王ですよ!」


「え、魔王!? どこだ?」


「だから、あそこに座っている女の子ですよ!」


「嘘つけ。あの子が魔王なわけないだろ。なあ?」


「私が魔王よ!」


「え、マジ?」


「マジよ!」


 俺と同じ年頃の女の子が魔王だったなんて、驚きで言葉も出ない。

 何とか和解してお持ち帰りできないかな? そんなぶっ飛んだことを考えてしまうくらいには動揺している。

 いくら可愛くても魔王だから倒さないと駄目だよな。本当は仲良くしたいけど。


「というか、あなた達なんなの? ここ私の部屋なんだけど、勝手に入って来ないでよ!」


「俺の名前はダンテ・ウィリアムズ。王様の命令で魔王を倒しにきた!」

 

「ダンテって、うちの幹部をボコボコにしたあのダンテね!」


「その通りだ!」


「遠征で魔王軍の主力隊が留守にしてる時に限って攻めてくるなんて、なんてタイミングが悪いのかしら!」


 だから雑魚モンスターしかいなかったのか。超ラッキーじゃん。なら城の警備が手薄なうちに速攻で魔王を倒して帰るのがベストだな。


「こっちが身分を明かしたんだし、お前も名乗ったらどうだ? 一応、魔王にだって名前くらいあるんだろ?」


「そうね……私のことは滝川さんとでも呼びなさい」


「滝川……その名前、異世界人か!」


「似たような物だけど、正確には違うわね。向こうの世界にいるとある人物には『正の人格』と『負の人格』があって、その負の人格だけがこの世界に転送されてきたと言った感じね」


「何言ってるかよくわかんないけど、お前が超悪い奴ってことで良いか?」


「悪い奴の定義がわからないけど、私の目的はこの世界を支配することよ」  


 う〜ん、なるほど。普通に悪い奴だな。


「早く帰って平和に暮らしたいんで、サクッとお前のことを成敗させてもらうぜ」


「やれるものならやってみなさい!」


 かくして俺と魔王の戦闘が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る