第32話 緊急事態再び

「それでさ、そこでドラゴンが炎を吐いてきてまともに喰らっちゃってさ」


「うわ、痛そう! それでどうなったんだ?」


 飲み会が始まってからかなりの時間が経った。俺は今、リュートの冒険話を聞いて楽しんでいる。こいつは経験豊富だから、話を聞いていて面白い。


「近くにあった湖に飛び込んで消火してからすぐにポーションを飲んで回復したよ。そこから反撃に転じてドラゴンを倒したんだ」


「おお、すげえ!」


「危うく死ぬところだったけどね」


 リュートはこの街で最強と言われているだけあってマジで強いみたいだな。この前の戦いでは負けちゃったけど、敵の数が多過ぎたから仕方ないね。千匹のモンスターに勝てる奴なんてそうそういないもんな。まあ、俺は勝てちゃったけど。


「冒険の話、もっと聞かせてくれよ!」


「良いよ! 次は隣国のお姫様を助けるために地底人とバトルした話を……」


「師匠、大変です!」


 リュートの話をワクワクしながら待っていると、ジェシカが割り込んできた。地底人とのバトルの話を早く聞きたいのに邪魔しないで欲しいな。


「もう朝になっちゃってますよ!」


「え!?」


 マジかよ……たくさん話してたらあっという間に時間が過ぎていたみたいだ。酒も入ってたせいで、どんどん話が盛り上がっていったからな。


「セシリアさんが心配しますし、そろそろ帰った方が良いんじゃないですか?」


「まあ、そうだな……」


「それじゃあ今日はここまでにしよう。また時間がある時に飲みに行こう!」


「おう、今日の飲み代は奢るぜ!」


「え、良いのかい!?」


「ギルドから五万ゴールドももらっちゃったからな。財布の中が潤ってるんだよ」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」


「ケチな師匠が奢るなんて珍しいですね〜」


 ケチとは何だ、ケチとは。失礼しちゃうぜ。お前にだってお菓子とか買ってあげてるだろ。十ゴールド程度の駄菓子だけど。


「それじゃあ帰るぞ!」


「あいあいさ〜!」


 俺達は家に帰ると、すぐベッドに入った。クエストの疲れと大量摂取したアルコールの影響で深い眠りへと誘われた。










「ダンテさん、起きてください!」


「う〜ん、むにゃむにゃ……お宝たくさんゲットだぜ。ジェシカ、お菓子食べ放題だぞ」


「寝ぼけてないで起きてください!」


 世界が揺れている。セシリアの奴、俺の体を揺すってやがるな? 気分の悪い目覚めだ。


「もうちょっと寝かせてくれよ……」


「一刻を争うんです! 早く起きて!」


「わかった、わかったから揺らすなよ! 酒飲んでるから吐いちゃうよ!」


 遂に観念した俺はセシリアの言葉に従い、ベッドから体を起こす。相当取り乱している様だから、何かとんでもないことが起こったのだろう。


「それで何があったんだ?」


「この音が聞こえませんか?」


「音だと?」

 

 耳を澄ましてみると、家の外でけたたましい音が鳴っているのが聞こえてくる。ベルの音だ。


「これって、非常ベルか?」


「そうです、緊急事態が起こったんですよ!」


「こんな朝っぱらから緊急事態って何事だよ?」


「私にも分かりません。仕事に行こうと準備していたら突然ベルの音が鳴り始めまして」


「何にせよ、非常ベルが鳴るってことはただ事じゃないな。とりあえず外に出るぞ!」


「待ってください! ジェシカさんが起きません!」


「すぴ〜、すぴ〜」


 こいつは一度眠ると全然起きない。昨日のクエストでは戦闘にはほとんど参加してないし、酒も飲んでないのによくこんなに眠れるな。眠り姫という異名が似合うよ。


「しゃーない。置いて行こう!」


「こんなに小さな子供を置いて自分だけ逃げるんですか? 前からダンテさんはクズだと思っていましたが、流石にここまでだとは思いませんでした!」


「知ってるか? ジェシカは子供じゃないんだぜ。二十歳の立派な大人だ」


「え!? 嘘ですよね?」


「それが本当なんだよなあ」


「そうだったんですか……でも駄目です! 大人だろうと子供だろうと、ジェシカさんを置いて行くなんて!」


「冗談に決まってるだろ? ちゃんとジェシカも連れて行くって。何だかんだあったが、こいつとは仲良くなったんだよ。だから絶対に見捨てたりしない!」


「本当でしょうね?」


「本当だよ、本当! 俺ってそんなに信用無いか?」


「普段から信用を失うような事ばっかりしてるじゃないですか!」


「うーん、それは正論だから言い返せないな」


「認めちゃうんですか? せめて反論して欲しかったです!」


 反論したらしたでブチ切れる癖に。女の心って難しいな。


「う〜ん……二人ともうるさいですよ」


 俺達が口論しているとジェシカが起きて来たようだ。


「起こす手間が省けた! 早く行くぞ!」


「ん、どうしたんですか? そんなに慌てて」


「説明は後だ!」


 俺はジェシカの腕を引っ張って家の外に出た。人々の悲鳴が聞こえてくる。これはかなりの大惨事になりそうな予感がするぞ。


「ダンテ! 良かった、お前は無事だったか!」


「拓人じゃないか! 今、何が起こっているんだ?」


「街にヤバいモンスターが現れて住民を殺し回ってるんだよ!」


「ヤバいモンスター?」


「漆黒のダークネスとか名乗っている黒い鎧を着た騎士だよ! 腕利きの冒険者達が挑んでいるが、もう何人も殺されてる!」


 漆黒のダークネス……この前の煉獄とインフェルノと同じような名前してるな。もしかして魔王軍の関係者か? 


「拓人、漆黒のダークネスがどこにいるかわかるか?」


「ああ、わかるよ」


「なら、そこに案内してくれ!」


「まあ、良いけど……」


「ちょっと、ダンテさん!」


 走り出そうとする俺の肩をセシリアが強く掴む。


「正気ですか? あなたはこの街の中では弱い部類です。行ったところで瞬殺されますよ! 爆発スキルが効く相手とも限りませんし」


「そんなことはわかってる! でも相手は恐らく魔王軍の幹部、インフェルノを倒された報復に来ているんだろう。それなら俺が相手になるべきだ!」


「ダンテさん……見直しました!」


「ふっ、人間として当然の事だよ」


 なーんてな! 人間の性根はそう簡単に変わらないぜ。俺はただ目立ちたいだけだよ。住民を殺しまくっている悪人をぶっ倒せば俺の株も上がるだろうよ。今度こそ街の人気者になれる! 

 俺、セシリア、ジェシカ、拓人の四人は全力疾走で漆黒のダークネスの居場所へと向かった。


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