第4話 ギルド再び

 夜が明けて新しい朝がやって来た。

 眩しい朝日で俺は目を覚まし、ベッドから立ち上がる。

 俺が寝室として使っている部屋はもともとセシリアの家の物置部屋だったものだ。俺が住めるように色々と改造してくれた。ダブルベッドまで買ってくれたんだぜ。一緒に寝ようと言ったら拒否されたけどな。

 

 俺はキッチンに向かい、水を飲む。


「ぷはー!」


 朝起きた時に一番最初に飲む水、俺はこれが大好きなんだ! 寝てる間って喉がすごく乾燥するんだよ。そのカラカラの喉を潤す時の爽快感がたまらないんだよ。


 さて、水分補給も終わったことだしセシリアに朝の挨拶をしに行くか。挨拶はコミュニケーションの基本だからな。


「おはよう!」


 俺は元気よく挨拶しながらセシリアの部屋の扉を開ける。三ヶ月も住んでいれば、何も見えなくても自由に家の中を移動できるのだ。


「今、着替え中です! この変態!」


「何も見えてないんだから別に良いだろ」


「男の人の前で裸を晒すこと自体が嫌なんですよ! さっさと出て行ってください!」


「へいへい」


 俺はリビングに戻り、ソファで横になる。こんなに朝早く起きたのは久しぶりだな。おかげでセシリアの着替えシーンに立ち会えたし、早起きは三文の得って本当だったんだ。アイマスクをしてなかったら最高だったんだがな。


「ノックもせずに部屋に入ってくるのはやめてくださいよ!」


 着替えを終えたセシリアがリビングへやって来た。


「悪い、悪い」


「それにしても、ちゃんと早起きできるなんて偉いですね」


「ちゃんと働くって約束したからな。朝食食べたらさっさと行こうぜ!」


「張り切ってますね〜!」


 セシリアが用意したサンドイッチを食べると、俺はギルドへ行くための身支度をした。


「動きやすい服装、水筒、非常食、回復ポーション……これでOKかな?」


「それじゃあ行きましょうか。背中に乗ってください!」


 遂に自分から申し出るようになったか……











 小鳥のさえずりを聞きながら背中の上で揺られること数十分、俺達はギルドの前に到着した。


「着きましたよ。降りてください」


「ちょっとその前に……」


 俺は両手を伸ばしセシリアの両胸を鷲掴みにする。その柔らかい感触が手のひらを伝い全身に染み渡る。極上の幸せってこのことをいうんだな。


「何してるんですか!?」


「俺はこれから働くわけだよ。そのためにはやる気をチャージしておかないと」


「馬鹿なことしてないで早く行きますよ!」


 背中から振り落とされ、俺は地面に尻もちをつく。痛いぜ、すごく痛い。でもあのおっぱい揉めたからプラマイゼロってことでいいだろう。

 俺は扉を開いてギルドに入った。


「ダンテさん、こっちですよ〜!」


 セシリアに手を引かれ、俺はカウンターに進む。


「さあ、どのクエストにします?」


 机の上にどっさりと書類の山が置かれた。クエストの内容が書かれた紙らしい。


「アイマスクしてるから文字読めないんだけど」


「大丈夫ですよ。点字で書いてあるので」


「ちゃんとバリアフリーだな! 流石、お役所! しかし残念ながら俺は点字を読めん」


「そうですか。では私がおすすめのやつを探してあげましょう」

 

 セシリアが書類の束をペラペラとめくる音が聞こえる。


「これなんかどうですか? スライムの駆除」


「あー、そういえばもう夏か。ちょうどスライムが大量に湧く季節だな」


 スライムっていうのはゼリー状のプルプルしたモンスターだ。駆け出し冒険者が数発殴っただけで倒せる雑魚モンスターだが、夏場になるとものすごく繁殖して人々に迷惑をかける。

 通常のスライムは白い体をしているが、まれに色違いのスライムが出現する。それらは通常よりも強いから注意が必要だ。


「スライム一匹あたり百ゴールドのところ、初心者の方は特別に十倍の千ゴールド貰えますよ」


「二分で一匹倒したとして時給三万ゴールドか。けっこう割の良い仕事だな」


「新人を優遇することで戦闘員の数を増やせと上からお達しがありましてね」


 余談だが俺の知り合いの出身地である異世界では「円」という通貨が用いられている。ゴールドと円の価値はだいたい同じだ。


「よし、スライム討伐に出発だ!」


「いってらっしゃいませ〜」


「え?」


「どうかしました?」


「いや、早くおんぶしてよ。スライムの生息地に移動したいから」


「無理ですよ。勤務時間中ですからギルドを離れられません」


「は? じゃあ俺どうすればいいの? 一人じゃまともに外を歩くこともできないんだぞ!」


「そんなあなたに素晴らしいアイテムをあげましょう!」


 セシリアはギルドの奥の方へ行き、何かを探している。


「ありました! ダンテさん、これをどうぞ!」


 俺の手の上に棒状の物が置かれた。目には見えないけど分かる。これはヤバいアイテムだ。すごいオーラをビンビンに感じる。もしかして神器の一つかもしれないな。


「これは魔法の杖かな?」


「いえ、ただの白杖です」


「なんだよ、期待させやがって! 俺に白杖だけでスライムを倒しに行けっていうのか?」 


 白杖なんて使ったことないから分かんねーよ。一人じゃ何もできないんだな、俺って。


「やっぱりお前もついて来いよ。有給とってさ」


「既に勤務時間始まってるんで今から有給なんて取れません! 一人じゃ心細いならパーティメンバーを募集したらどうですか?」


「そんなことができるの?」


「はい。パーティメンバー募集の申請をしておけば、参加希望者があなたのところに来てくれますよ」


「じゃあ募集するわ。申請書作っといて」


「了解しました。それではそちらの席に座って参加希望者が来るまでお待ちください」


 俺はパーティ待機所の椅子に案内され、そこでパーティメンバーを募集することになった。



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