東堂兄弟の5分で解決録2〜公園わんこ事件〜
涼森巳王(東堂薫)
公園のわんこ
これは僕が高校生のときの話だ。
学校から帰ると、僕はほぼ毎日、夕食の買い出しをしてた。母も祖母も亡くなってるから、毎食の食事作りは僕の仕事だ。
兄の猛が休みのときは、荷物持ちとして、いっしょに出かけていた。
で、学校帰りで急いで出るもんだからさ。いつも同じ場所でトイレに行きたくなるんだよね。
「猛ぅ。ちょっと、ここで待ってて」
「あ? いいよ」
「荷物持ってて」
その日も僕は買い物袋を兄に任せ、小さな児童公園にむかって走った。すると……あ、やっぱりだ。やっぱり、またいる。あの犬。
たぶん、犬種はゴールデンレトリバー。よく盲導犬とかになってるやつだ。けっこう大きいよね。
この犬がいつも、公園のなかにある公衆トイレの前につながれててさ。そんで、僕のことを見て吠えるんだ。
どうせ僕は小型犬っぽいよ? てか、ハムスター系? ちっこい!
だからって、困るなぁ。こんな公共の場で吠えるなんて、迷惑千万。おーい、飼いぬし。どこ行ってるんだよ?
僕がためらってると、トイレから出てくる人がいる。制服のタクシードライバーっぽい。
まさか、あれが飼いぬし? いや、違った。素通りして行ってしまう。
じゃあ、僕もトイレ行くよ。早くしないと我慢できなくなる。でも、ほら、わんこが。僕が近づこうとすると、吠えるんだよ。
そこへ、男子トイレのなかから、おじいさんが出てきた。
「こら、コロ。吠えたらあかん。静かにせんと」
コロ! 今どき、コロか。
でも、よかった。おじいさんはその犬のリードを立ち木からほどいてつれていった。たぶん、散歩中に立ちよるんだろうな。
僕は安心してトイレに行った。猛のところまで戻ると、
「かーくん。兄ちゃんも行く。荷物持っててくれ」
「うん」
入れかわりでトイレに入っていった兄が、首をかしげながら出てきた。
「どうしたの?」
「なんか変な匂いがするんだよな」
「トイレだから」
「いや、そういうんじゃなくてさ」
「じゃあ、どういうんだよ?」
「なんか、ちょっと苦いというか」
「苦い匂いってなんだよ?」
「うーん」
なんかよくわかんないことを言う。
まあいい。早く買ったもの持って帰らないとぉ。生物、冷蔵庫に入れなくちゃあ。
次の日だ。
僕はまた買い物に行った。今日は兄ちゃんは仕事だから、僕一人だ。でも、こんなときでもトイレには行きたくなるんだよなぁ。
あっ、今日もいる。あのわんこだ。コロコロちゃんだっけ。またあのおじいさんが散歩につれだしてるんだな。
ああ、こっち見た。ううってうなってる。やだなぁ。
「ううう……ワンワンワン!」
ああ、やっぱり吠えた。今日は猛いないんだよ? 守ってくれる人いないんだけど?
「ああ、ほらほら。静かにするんや」
って、言ったのは僕じゃない。昨日のタクシーの運転手さんだ。コロの前をすばやく走りさっていく。
そのあとすぐ、あのおじいさんが出てきた。コロをつれていってくれたんで、ホッ。
次の日。
はいはい。今日も買い物行くよ? そんでトイレね。
あっ、やっぱりいる。コロリン。はぁ。また吠えるのかな? やんなるよ。
ところがだ!
この日、コロ助は吠えなかった。おとなしいもんだ。僕を見ても前足そろえたまま、じっとしてる。
変だな。いいの? 吠えないの? じゃあ、行くよ?
僕はコロッピの前をすんなり通過して、公衆トイレへ入っていった。出入口で、飼いぬしのおじいさんとすれ違う。
「コロや。待たせたな。さあ、行くで」
やっぱり鳴かない。
うーん、今日は気分が沈んでるのか? それとも僕が危険人物じゃないと認めてくれた?
どうにも納得いかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます