僕「公園の思い出を」女「つかまえて」

中村翔

つかまえて(二次創作)

 空を見上げる。

 雨模様の空粒がぽつぽつと降り始める。

 ぽつ。ぽつ。

 顔の横腹をなでるようにつたう。

 上を見ると子供の喧騒が降りずさむ。

 一つ上の階には子供が集まるようなスペースがあるらしい。

 僕「あめ......止まないな。」

 不安そうに見つめるその笑みにはもはや不安など微塵も感じさせなかった。

 きゃーきゃーとかわーわーとか忙しそうに騒ぎ立てている。

 そんな様子も羨ましくもあり自分に腹立たしくもあった。

「せんぱい。上のスペースができてうれしい悲鳴ってのが聞こえますね。」

 僕「意味が違ってるぞ。うれしい悲鳴のうれしいはお金が儲かってるのを表してるんだ。」

「そうなんですか?でも嬉しそうですよ?」

 きゃー!わー!

 確かに嬉しそうではある。あるが......。

 僕「単語の意味はちゃんと覚えてないと苦労するよ。」

「その時はせんぱいが助けてくれるんですよね?」

 僕「君の将来には不安しかないよ。陽南(ひな)ちゃん。」

 陽南「陽南でいいです。せんぱいと私の仲ですよ?」

 陽南はいたずらっぽく微笑むとグーで意思表示をしてきた。

 こういうところはさすがとしかいえない。

 ``わざと``やっているのだ。

 あどけなさを匂わすことで自分の価値が高いと思わせる。

 そういう人生のテーマらしい。

 実際彼女のことをまわりは評価してると見えてまあそうとも

 言えるしそうでないとも言える。

 というのも能力がずば抜けて高いだとか人より効率がいいということはなく、

 ただただ、’’良い人’’だというだけなのだ。

 それはもちろんマイナスではないのだがプラスでもない。

 あの人いい人だよねーと話題に上がった次の瞬間にはそういえば髪切った?

 と、話題が逸れることはもはや決定してるのかもしれない。

 僕「陽南は損してるよ。だってこんなに頭がいいのに

 人にどう思われるかに休日どころか休憩時間も費やしてるなんて......。」

 陽南「ではせんぱい。女の子の一番欲しいものってわかりますか?

 ズバリ!安定した生活ですよ。」

 僕「それってものじゃないよな......?」

 陽南「女の子にとっては立派なものですよ。働く上で求める’’もの’’

 結婚相手に求める’’もの’’老後の年金に求める’’もの’’。

 女の子は安定第一なんですよ!」

 陽南の手元に置き忘れていたメガネをかけて

 くいっと人差し指でポーズをとった。

 こういうところだよ!と思ったはいいものの

 突っ込むと止まらなくなりそうなのでやめておいた。

 ぽつっ、ぽつっ。

 雨がやみそうな予感。

 僕「ちょうどいいから用事を潰してくるよ。」

 そういうと僕は会社の外へと歩みを進めた。

 陽南「あっせんぱい。私ひもQでお願いしときます。」

 僕「ん、覚えてたらね。」

 いったは良いものの不安になり後ろを向いた。

 しかし陽南はぽけーっと窓枠を眺めるだけだった。

 陽南が気付いたように手を振るとガッツポーズで見送ってくれた。

 外に出ると会社のあるビルから右に曲がり続けないと行けない

 変な所に立っているコンビニへと急いだ。

 ♪ー♪♪ー♪-♪♪ーー

 いつものコンビニの子気味良いリズムが鳴る。

「いらっしゃいませー」

 ずいぶん他人行儀な挨拶が返ってくる。

 僕「ひもQひもQ......と。あった。」

 なぜかはわからないけれど超ひもQの方をかごに入れて買い物を続けた。

 僕「えっと......飲み物はあった方がいいよな......?」

 近くにあった緑茶の紙パックを無造作につかみかごへと入れた。

 チーーーーン!

 前で待っていた少年が躊躇いながら呼び出しのベルを鳴らし続けている。

 チーーーーーーーーン......!!

 何回目かのベルの音がむなしく響き渡る。

 僕「すいませーん。」

 後ろから奥の店員に向かって声をかける。

「はーい。」

 気付いたのか奥から女の店員が顔をのぞかせる。

「あっ、」

 女の店員は申し訳なさそうにレジを打った。

「ありがとうございましたー。」

 前の客より奥にいた自分がスライド式に前にずれた。

「僕君......いるならいるって声かければいいのにさ?」

 僕「女には悪いけど頼まれた内容忘れたらダメだしさ?」

 女「でもそれって私のついでですよね?」

 なんだ......わかっていたのか......。

 僕「ついでだろうと頼み事は断れないの知ってるでしょ?」

 女が手を出してくいっくい。とアピールしてくる。

 僕は財布からギザ➓を三枚取り出して渡した。

 女「ふふーん。ギザ➓三枚ね。じゃ、駄菓子3個オマケしてあげる。」

 ギザ➓はマニアにはたまらない逸品らしい。

 そんな彼女はランダムで商品をあげるから!と、

 ギザ➓をコンビニに来た人から集めて回ってるらしい。

 僕「駄菓子か......ひもQとコーララムネにあわ玉ね。」

 女「超の方はだめだよ。お金取ります。」

 僕「あっ、これ超ひもQじゃん......。」

 女「お釣り787円になります。」

 レシートには777の文字が。

 女「十円はお返しいたします。」

 僕(ギザ➓じゃなくなった......。)

 女店員「ありがとうございましたー。」

 僕(はぁー。はぁー。さすがに梅雨でもびょぬれは寒いよ......。ん?)

 レシートの裏に何かかいてあった。

『まってます おもいでのあの場所で』

 急いで書いたのかまってますからはじまる言葉で彩られていた。

 思い出の?思い浮かばない。

 そもそも女とは10年ほど前に出会った。

 女はその頃からコンビニ店員でレシートの裏にたまに走り書きをして困ってるのを楽しむように見てたっけ。

 その頃の僕も後輩ができたばかりで・・・あれ?

 後輩・・・こうはい?記憶の中で彼女が呼ぶ。

 後輩「先輩!!」

 だが一方で今目の前では・・・

 陽南「せんぱい!」

 甘ったるい紅茶のような声で僕を呼んでいる。

 陽南「せんぱい?超ひもQだやった!?太っ腹~。じゃ、いただきます。」

 もうちょっと思い出してみよう。

 僕が今32歳で後輩が初めてできたのは25の頃......?

 いや......陽南は20歳だから7年前は12~13になるわけで......。

 ・・・あたまいたい。

 僕「陽南。頭痛くなってきたから早退するね。バイバイ......。」

 陽南「あっ!せんぱい!屋上寄ってけってせんぱいの先輩が。」

 僕の先輩は一人しかいない。つまり彼だろう。

 僕「先輩。」

 先輩「うん?僕くんか。遅かったね。まあ、座りなよ。」

 彼が僕に用事があるなら一つしかない。

 先輩「陽南のことはまかせてくれないか。」

 つまり陽南には近づくな。と。

 こんなことをいう人ではなかったはずだけど・・・。

 僕「前にも聞きましたけど陽南は僕が担当してる新人です。

 譲るとかそういう話ではなく会社の決めたことなので。」

 先輩「そうかい。ふー。ごめんごめん。でも騙すのはよくないかなって。」

 騙す?誰が誰を?

 先輩「陽南には気を配ってくれってことだよ。ふー。」

 たばこの白い煙が空気を包む。

 僕「それだけですか?なら今日はちょっと気分がすぐれないので失礼します・・・。」

 挨拶だけを済ませて立ち去ろうとする。

 先輩「騙される方が悪い・・・か。」

 聞かなかったことにした。

 帰り道熱があることに気づき冷えピタを買った。

 次の日――――

 ぴぴぴっぴぴぴっ。

 僕「37.5度か・・・このくらいじゃ休めないな。」

 鞄掛けから鞄をひったくって家を後にした。

 陽南「せんぱーい?せーんーぱーいー。」

 僕(やっぱり休むべきだった・・・)

 陽南「保健室でも行ってきますか?連れていくー!」

 僕「・・・学生気分が抜けきってないぞ。早退するから先輩に言っといてくれ。」

 陽南「りょーかい!」

 陽南にあとのことを任せて事務所を出た。

 帰りに近くの公園によった。

 僕(はー。あれ?ポケットに何か・・・)

 女「僕くん!来たね!勝負だ!」

 僕「仕事はいいの?今日は熱あるから・・・。今は風にあたってるところ。」

 女「僕くんは昔から弱いねー。風邪のウイルスに惚れられたかな?」

 冗談で場を和ませる。

 僕「惚れられるのはまあうれしいかな。風邪は困るけど。」

 女「惚れられてうれしいの?そういえば後輩ちゃんだっけ?惚れてるねありゃ。」

 僕「だれに?」

 女「自分にだよ。自分しか見えてないよね。」

 僕「失礼だな。あれでも性格はいい方だと。」

 女「違う違う。自分に惚れてるってのは好きな人を自分に似せようとするって意味。」

 僕「どういうこと?」

 女「自分は一人しかいないでしょ?でも自分と恋はできないわけ。

 で、気に入った人を自分の世界に巻き込んじゃう。

 いわゆるサキュバスってやつ。」

 サキュバスとは違うような。

 女「この前のお礼にひとつ忠告。年上の話をめっちゃ信用する。これ。」

 僕「女は年上じゃないよな?じゃあ先輩?」

 女「さーて。もういくね。約束守ってくれてありがとね。じゃ。」

 約束?

 疑問が口から出ることはなかった。

 会社・・・明日どうしよう?熱次第だな。

 ぴぴぴっぴぴぴっ。

 僕「39度・・・。」

 休むことが決定した。

『せんぱい?熱がある?えっ?会社休むんですか?羨ましい。じゃ、じゃあ。伝えときますね。ゆっくり休んでください。』

 はあー。本格的にウイルスが攻撃し始めてきた。

 今日は眠れそうもない。

 ぶるる。携帯が震える。

『先輩の家に行きます。心配なので。』

 これは迷惑・・・。逆に迷惑・・・。

 仕方がないので片づけるか・・・。

 ガサガサ。ん?

 入社した時の記念アルバム?

 懐かしいな。ほう先輩若いな。

 !?。これは。

 陽南「お邪魔しますー。」

 僕「陽南。いやそれよりもなんで女がアルバムに写って・・・。」

 陽南「せんぱい寝てないと。今おなか空いてます?あっ掃除なら任せてください。」

 アルバムの日付を確認する。

 7年前の春・・・。

 陽南「せんぱい?あっ・・・。見つけちゃったのか。」

 僕「なにを・・・。」

 陽南「探してたんですよ。こんなの捨てちゃいましょうね。」

 どさっ。

 ごくっ。

 僕の後輩は女ででもこうはいは陽南?

 僕「うっげほっげほっ!」

 陽南「あー。はいちゃったねー。キレイキレイにしようね。僕くん?」

 そのあとのことは覚えてない。ただ起きた時には陽南はいなかった。

 ぴぴぴっぴぴぴっ。

 僕「35.7度。はあ。行きたくない。」

 あたまに重しでも入れられたような感じがする。

 僕(財布は・・・おいていこうあっギザ➓・・・。)

 ギザ➓をポケットに入れて家を出た。

 陽南「あっせんぱい。もう風邪治ったんですか?」

 そこにいたのは今まで通りの陽南だった。

 僕(昨日のは夢?)

 陽南「先輩がまた呼んでましたよー。」

 僕「わかった。今行くから。」

 先輩「おう。来たか。何度も言って悪いとは思ってる。

 だけどお前のためでもあるんだからな。」

 僕(年上の話か・・・聞いてみよう)

 僕「なんで陽南にこだわるんですか?陽南はモノじゃないのに。」

 先輩「そうだな。昨日部屋に陽南が来ただろう?おかしなことはなかったか?」

 おかしなところはあった。

 僕「でもあれは夢で・・・。」

 先輩「当ててやろうか?女の事だろ?7年前のアルバム。」

 !!!。

 僕「なぜわかるんですか?」

 先輩「簡単だ。俺もだからだよ。」

 俺も?

 僕「意味が分かりません。」

 ふー。白い煙を吐く。

 先輩「俺も昨日そのアルバムを見つけて女に捨てられた。っていえば信じるか?」

 女に?

 僕「女とどういう関係ですか?」

 少しキレ気味に言ったと思う。そのくらい頭が混乱していた。

 先輩「女は7年前にこの事務所に入って辞めた。陽南と入れ替わりに。

 そのころからだ陽南が女の真似をし始めたのは。

 女の会社はたまた彼氏まで調べつくして真似していったんだ。

 そしてお前に行き着いた。今の陽南は陽南じゃない。

 昔の女の模造品だ。」

 僕「そんな言い方はひどいですよ。少なくとも陽南はそう思ってないはずです。」

 先輩「陽南は俺の妹だ。」

 !!!。

 い、もうと・・・?

 先輩「昔の陽南から今の陽南は考えられない。身内の意見だ。信憑性があるだろう?」

 ・・・、

 僕「少し時間をください。考えたいです。」

 わー。きゃー。きゃー。

 先輩「あの子供たちみたいにさ。普通に過ごさせてやりたいんだよ。」

 僕はその場から立ち去った。

 ♪ー♪♪ー♪ー♪ー

 携帯が?あれ?ない。

 ♪ー♪ー♪♪ーー

 ぴっ。

 切れた・・・。

 周りを見渡す。

 陽南か。

 僕「陽・・・。」

 陽南「なんでだよ?なんで先輩もせんぱいも私を否定するの?」

 陽南「!!!。だれ!?」

 陽南「なんだせんぱいじゃないですか。あはははは。どうせ私なんかのことどうでもいいんですよね?もういいや。」

 ギラッ。

 銀色のバタフライナイフを取り出す。

 僕「うわあーーーーー!!」

 陽南「せんぱい!!」

 後ろの非常階段を転がるように降りて行った。

 携帯・・・は陽南の手元だ。

 電話ボックス!財布が・・・ない。

 なにか・・・何かないか!?

 ギザ➓がポケットのおくから顔を出した。

 これで先輩に・・・!!

 ・・・・・・。

 陽南「せんぱい?いきなり叫びだすからびっくりしましたよ。

 はい。せんぱいの携帯。」

 陽南の手元には銀色に光る・・・ガラケーが収まっていた。

 僕「陽南。」

 陽南「?」

 僕「好きだ!!」

 陽南「えっ?ええー???」

 陽南は驚き戸惑っていた。

 それでも僕は陽南が好きだ。

 誰の意見があろうとこれだけは変わらない。


 7年後―――

 陽南「僕くんが告白してくれたのってこの公園なんだよ。」

「ええー?ぱぱだいたーん!」

 僕「いや確か電話ボックスのところじゃなかったか?」

 陽南「公園のおくで腕をつかんで・・・つかまえてくれたじゃない?」

 僕「美化されてる・・・。」

「ぱぱ!しあわせ?」

 僕「今は最高に幸せだよ。」

 陽南「じゃあさ。またつかまえてくれる?」

 僕「・・・うん。」


 終

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僕「公園の思い出を」女「つかまえて」 中村翔 @nakamurashou

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