土を織る

しょしょ(´・ω・`)

第一話 初之口上

 『雲雀ひばり鳴く 下はかつらの 河原哉』 野沢凡兆


 時は元禄、花待ちの京。


 人々は永らくの冬を越え、ようやくの春。気もそぞろに北野の三光門を潜る。


「今年も見事な梅ですねぇ」

「いやぁ絶景絶景」


 赤ら顔した御大尽と側用人は、そこかしこの梅を愛でては繰り返す。


「あれお前さん、あすこに居てはるのは柳田の親方ではないやろか?」

「そのようですな」「梅も盛りだというのにけったいな顔して」


「ややこしいことでもあらしたんやろか」

「お前はん、ちょっと行ったげなはり」


「ほな、ちょっとご事情伺ってきまひょ」


         ❀❀❀


「ちょいと柳田の親方」


 うつろな目をしてまんじりと梅を眺める親方と呼ばれた男は、姿勢を変えることなく肩口から陰鬱いんうつ相槌あいづちをしてみせた。


「こら實松屋の番頭はん、えらいお久しぶりで……」


「お久しぶりやあれへんよ」「こない見事な梅の前でけったいな顔してはるさかい、ウチの旦那はんえらい気にしてはって」


「あ、こらとんだご無礼を……」


「なんぞややこしい事でもあらしたん?」


 不承不承ふしょうぶしょうといった面持ちで親方は口を開いた。

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