第4話 「ただいま日本」
水車が完成してから3日が経った。
水路が完成してからは、水に泥が混じり、とても飲み水には使えなかったが、何回も排水を繰り返し、ようやく透明で綺麗な水になった。
これなら飲み水に使えるだろう。
「さて、次は畑ですね。 種はありますか?」
「はい!あちらの小屋に保管しています!」
ソニアさんに言われ、小屋を見ると、中には種が入った袋とクワが置かれていた。
初めて小屋に来た時は焦っていたのと、夜で暗かったからよく見えなかったからな。
…あれ…?
「あの…ソニアさん、肥料ってどこにあります?」
「ひりょう…?」
あらあらマジかこりゃ。
肥料も知らないパターンか。
「肥料っていうのは、土をいい土に変えてくれる物の事です。これを使うと、いい植物が育つんです」
「そんな物があるんですね! えっと、その肥料はどうやって…」
それが分からないんだな。これが。
いや、糞が混ざってるって事くらいは知ってるんだが、ほかに何が入ってるのかが分からん。
困ったな…肥料が無くても育つっちゃあ育つが、やはり畑をするなら肥料があった方が役に立つし…
んー…日本から色々持って来れたら良いんだけどな…
そう頭の中で考えていると、突然、俺の身体が光だした。
「な、なんだ…!?」
「え!?ヨウタさん…!?」
「ちょっ…!」
その瞬間、俺の視界が真っ白になった。
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目が覚めると、俺は日本の自室に居た。
「……は?」
周りを見るが、そこには村なんてものはなく、あるのは一人暮らしに必要な最低限の家具のみだった。
「は…はは…おいおい…マジか…?」
俺は思わず乾いた笑い声を出す。
まさか、今までのは全部夢だってのか…?
あの村での生活も、達成感も、ソニアさんも…全部夢…?
「ふ…ふざけんな…!!」
俺は目の前にあったテーブルを殴る。
せっかく変われてきたと思ってたんだ。
あの村で…あの世界で、俺は誇らしく生きようって…そう思ってたのに…
「はぁ…あほくさ…コンビニ行くか」
コンビニという単語を発して、ある事を思い出した。
唐揚げ弁当と野菜ジュースだ。
もしあの世界の事が全部夢だったなら、弁当が残っているはず。
部屋を探すが、どこにも弁当はなかった。
つまり…
「俺はあの世界から日本に帰ってきたって事か…? でもなんで急に…?」
何かトリガーがあるはずだ。
こっちから異世界に行った時と、向こうからこっちに来た時、どっちにも条件があるはずなんだ。
少し考えると、それらしい答えに辿り着いた。
だが、これはいくらなんでも簡単すぎる。
まぁ、やってみるか。
"異世界に行きたい"
俺は、頭の中でそう思った。
すると、先程のように身体が光で包まれた。
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目を開けると、先程までいた小屋だった。
思った通り、どうやら、俺の願いがトリガーだったらしい。
そしてどうやら、俺のこの部屋と、あの村の小屋は繋がっているらしい。
って事は、これからはいつでも日本と異世界を往復出来るってわけか。
これは便利だ。
「よ、ヨウタさん…!!」
ソニアさんの声で振り向くと、俺は目を見開いた。
ソニアさんが地面に座り込み、泣いていたのだ。
「急に消えたから…!もう会えないのかとっ…!」
確かに、目の前で人が消えたらびっくりするよな…
ソニアさんには悪い事をしてしまった。
「驚かせてしまってすみませんソニアさん。もう会えないなんて事はないから、大丈夫ですよ」
「ほ、本当ですか…?」
俺は頷いた後、頭を撫でる。
数分間撫で続けていると、ようやくソニアさんが泣き止んだ。
そして、恥ずかしくなったのか、さっきから目を合わせてくれない。
「あの…ヨウタさん…?」
「はい?」
「あの…貴方は、何者なんですか…?」
…やっぱりきたか。
目の前で消えて、また帰ってくるなんて普通じゃないもんな…
仕方ない。全て話すか。
「すみませんソニアさん。実は俺、旅人っていうのは嘘なんです。信じられないかもですが、此処とは別の世界からやってきたんです」
「別の世界…」
「はい。正直、何故俺が急にこの世界に来たのかは分かりませんが…」
「なるほど…」
「あ、あれ…驚かないんですか…?」
「いえ、驚いてますよ?でも、やっぱりか。っていう気持ちの方が大きいです。
正直、ずっと考えていたんです。 旅人にしては、文明の知識が違いすぎるし、服装だって全然違うし…」
なるほど、疑われてはいたわけか。
ソニアさんは頭がいいしなぁ…
「この事は2人だけの秘密にしましょう。村の皆に言うと混乱させちゃうかもですし」
ソニアさんが言う。
確かにそうだな、こんな事は言いふらす事でもないし。
「分かりました。じゃあ、秘密で」
「はい!」
日本と異世界を往復出来るとなると…出来る事が増えるな。
向こうの物をこっちに持ってくる事が出来るし、なんなら設計図なんかもネットに載ってるから、それをコピーすればより正確な物が作れるだろう。
「よし。じゃあソニア俺ちょっともう一回向こうの世界に行ってきます」
「えっ…」
ソニアさんがビックリした表情をし、俺の服の袖をぎゅっと掴む。
袖を掴んだ手は震えていた。
「向こうで肥料を買って持って来るだけですよ。大丈夫。すぐに帰ってきますから 」
「ほ、本当ですか…? 」
「大丈夫。信じて下さい」
「分かりました…」
「はい。じゃあ行ってきます」
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日本に行きたいと願うと、本当にまた日本に来ていた。
よし。まずは肥料を買いに行くか。
手に持っている物も一緒に転移するのは確認済みだ。
さて…えっと今の全財産は…家賃や生活費を抜いて5万円程。
ほぼ異世界で生活するから、食費などはかからないから、この5万円は全て異世界の為に使おう。
俺はなけなしの5万円を財布に入れ、ショッピングセンターへ向かった。
ふむ…肥料と言ってもいっぱいあるんだな…
全くの素人だし、店員に聞いてみるか。
「すみません、肥料が欲しいんですけど、おすすめってあります?」
「肥料ですね!何に使うかにもよりますね!食物なのか、花なのか!」
「食物ですね。 あと、その畑は全く肥料を使っていない畑でした」
「でしたらこちらがおすすめです! 栄養をたっぷり含んでいますし、量も十分かと!
使い方も、土に混ぜるだけなので簡単ですよ」
内容量は20kg。値段は3000円か。
「肥料はどのくらいの頻度で撒けばいいんですか?」
「そうですね…初めて肥料を使うお客様はつい多く与えがちですが、じつはそれは逆効果なんです。最悪の場合作物が枯れてしまう。なんて事も考えられます。
ですので、1度目は少なく与え、約1か月くらいしたら、もう一度肥料を与えます。 これを追肥(ついひ)と呼びます」
「追肥…なるほど…」
「追肥のやり方はシンプルで、作物が栄養を吸収しやすいように近くに混ぜるだけで大丈夫です」
「ふむふむ…なるほど、分かりました!」
予想以上に沢山の知識が得られた。
とりあえず肥料は問題ないとして、あとは種だな。
向こうで日本の作物が育つかは分からないから、とりあえず試しておきたい。
そこで候補に上がったのは、
ジャガイモだ。
ジャガイモは調理の幅が広い。 ふかし芋もよし、焼いてもよし、揚げてポテトにするも良し、料理に添えてもよし。
栄養素も高いしカロリーも高い。
俺は種イモと肥料を買い、自宅に帰ってきた。
車があるとはいえ、流石に20kgを持つのはキツかった。
だが、あとはこれを持って村に行くだけだ。
「あ、なんかついでに持っていくか」
向こうでは日本の物は全部初めてのものばかりだ。
だから何かないかなと探してみる。
すると、ポテトチップスを発見した。
これは良いかもしれない。
種イモを育てればこれになるって思えばモチベーションも上がるだろうしな。
俺は備蓄していたポテチを4袋と、肥料と種イモを持ち、異世界に行きたいと願った。
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「…あ!おかえりなさいヨウタさん!」
結構時間が経ったが、どうやらソニアさんはずっと小屋の中で待っていてくれたらしい。
「ただいまです。 肥料とかいろいろ買ってきたので、明日早速実践してみましょう」
「これが肥料なんですね…見た感じ普通の土と変わらないように見えますが…」
「この中にはいろんな物が含まれてるみたいですね」
「なるほど、だから栄養がたっぷりなんですね! この丸いのはなんですか?」
「これは種イモっていって、向こうの世界の食べ物になる前の物です。
これも畑に植えてみようかなって思って」
「ヨウタさんの世界の食べ物…!気になります!」
ソニアさんが目をキラキラさせる。
興味を持ってもらえたみたいで良かった。
俺は肥料と種イモを小屋の中に起き、外に出る。
「あれ、それは置かないんですか?」
「あぁ、これは食べ物です。 皆で食べようかと思って持ってきました」
するとまたソニアさんの目がキラキラと光る。
まず一袋は俺たち3人で食べて、明日村の皆で3袋を食べよう。
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「これがポテトチップスです」
ソニアさんとガレアさんの前で袋を広げ、中身を見せる。
突然出てきた黄色の物体に、2人ともびっくりしている。
ちなみに、味はコンソメパンチだ。
「こ、これは…初めて見ました…!」
「わしも初めて見ました…これが食べ物…」
俺はヒョイと一個取って、口に運ぶ。
「こうやって食べるんです」
すると、ソニアさんが恐る恐るポテチを一つ手に取り、口に入れる。
その瞬間、目を見開いた。
「お、美味しい…! 味は濃いめなのに、何枚でも食べなくなります…!」
「た、確かにこれは何枚でもいけますな…!」
ソニアさんとガレアさんがそう言い、何枚も食べる。
どうやら気に入ってくれたらしい。
あっという間に一袋食べ終えてしまった。
「残りの3袋は、明日村の皆さんで食べましょう」
「ですね!皆さんにも食べてもらいたいです!」
ソニアさんが賛成し、ポテチの袋を片付ける。
ポテチは手掴みだから手が汚れるので、よく手を洗っておくように伝えたから大丈夫だろう。
「ヨウタ様。ひとつよろしいですか?」
「はい?なんでしょう?」
ガレアさんが話しかけて来る。
「私の記憶では、昨日までヨウタ様は手ぶらでした。今日持ってきていただいた物はどちらから…?」
まぁ来るよなぁこの質問。 ソニアさんも緊張した表情になってるし…
ただ、ここで別の世界の事を話して混乱させるのも違う。
さてどうするか…
「よ、ヨウタさんは魔法が使えるんだって! 物を入れたり出したり出来るらしくて…! 本当はバラしたくなったらしいんだけど、今日私がたまたま見ちゃって…!」
ソニアさんが早口で言う。
ま、魔法って…
いや、ここは異世界だし、魔法とかあるのか…?
にしては、使ってる人1人もいないけども
「なんと!魔法を使える方でしたか!それは凄い!」
あ、魔法あるっぽいわこの世界。
ソニアさんの助け舟でなんとか窮地を脱する事が出来た。
これからはこの質問が来たら魔法です。って言おう。
その次の日、村の皆でポテトパーティーをしたのだが、思った以上に好評だった。
また持って来るかな。
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