雨の日に出会った少女は俺にしか微笑まない

早蕨琢斗

第1話 大粒の雨

 俺は、あの日なぜあんなことを言ってしまったのだろうか。

 今でも後悔しているというより、頭から消えないのだ。あのときの言葉、表情...全てが、俺の頭の中から消えてくれない。



「くそっ..!」


どうにも出来ない感情を壁へとぶつけた。拳がじんわりと痛み、ただ何も解決しないことへのいらだちが増していくだけだった。俺はそのまま部屋の壁に沿うように座り込んだ。



 いつも何も考えたくないときはたばことスマホを持って、散歩に出かける。今日は少し雨が降っているようだが特に気にしないし、雨の方がいい。俺の悩みも全て雨音でかき消してくれるようで好きだからだ。


 もう2ヶ月も前のことを引きずるなんて、女々しいやつだと思うだろうが俺はもう誰とも付き合う気もましてや復縁する気もない。俺は、あの日以来女性に対して嫌悪感を抱いてしまっているのだから。

 じゃあ、話せないのかといわれれば嘘になる。人にはどうしてもコミュニケーションというものが必要であって、日常会話をするくらいには話している。ただ、本当に無理だと思ってしまう瞬間は女の部分を見てしまった時である。いや、もっと具体的に言えば俺自身がそう捉えてしまった時なのかも知れない。


ピコンッ


 通知音が鳴る。

 相手は別れを告げた元カノの友達からだ。


「 話だけ聞かせてくれ

     また連絡する。」


来ていたのはこれだけだったが、俺は気まずさで他に来ていたメッセージも返信していなかった。


 あのとき俺の中の何かが壊れる音がした。俺は、彼女を好きだと愛おしいと本気で思えなくなってしまった。突然のことで自分自身動揺した。彼女とは二年も一緒にいたのにはじめて感じたから。そして、あまりの気持ち悪さと感じ取ってしまった感情から俺は、二年目の記念日に振ってしまった。だから、余計に脳裏に焼き付いて消えてくれない。


 本当に好きで好きで、大事だと思っていた。けど、それは俺だけだったのかも知れない。人の言葉とは恐ろしいものだ一度言葉にしてしまえばそれは真実となってしまう。あのとき、「自分にされたら嫌なことは他人ひとにはしたくないじゃん」という普通の言葉なのだが俺には違って聞こえた。その言葉の中に俺は含まれていないのだろうと感じてしまったのだ。


 彼女はまだ、何が原因でこうなってしまったのか理解出来ていないのだろう。そして、その友達も。


 誰がどう感じるかなんて人それぞれだ。俺は彼女にできるだけ尽くそうと仕事も気合いを入れて一層力を入れて取り組んだし、サプライズやレストランの予約なんかも出来る範囲内で頑張った。みんなの思ういい彼氏にはなれなかったかも知れないがそれなりに彼女を喜ばせようと思って動いていた。



「何でこうなっちまったんだろ」

雨の中傘を差さずに何も考えず歩く。といっても歩いて15分くらいの場所にある雨宿りが出来る自販機に着く。そこで、ボーッとしながらたばこに火をつけ一息つく。


 俺が彼女のことを好きでなくなってしまった理由は、「優しい」が一番の原因だろう。なぜ?と思っただろうが、その裏のない優しい温かさに気持ち悪さを感じてしまった。彼女は何もしたこともされたこともないのだろう。いじめも相手を蹴落とすことも普通の人は知らないうちにしてしまっていることを彼女は避けるような場所に奇跡的にいたのだろう。それと逆の人間が俺だった。だから、俺は彼女のような人になりたいと憧れてしまったのだろう。


 彼女の好きな一番の理由を嫌いになってしまった自分は、もう彼女に近づくことはないだろう。そんなありきたりな結論に至ってしまったが、雨に濡れて良い感じに頭は冷えたし、落ち着いただろう。


 髪から雨粒がぽとぽととこぼれ落ちる。

「傘持ってくりゃ良かったな..」

雨はやむ気配は感じられない。むしろ、強さを増しているようにも感じられる。ま、濡れてるからたいした問題じゃないけどな。


 帰ったら連絡返すか。やっと決心がついた逃げることはやめて、前に進まなければ自分の中からこの靄は消えないような気がする。




 


 たばこを2本目吸い終え、雨が強まる空を眺めていた俺の前に一人の少女がいつの間にか立っていた。

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雨の日に出会った少女は俺にしか微笑まない 早蕨琢斗 @sawarabi-takuto

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