第14話 技術仕事はドワーフに


 俺は都市アルダの使われていない鍛冶場に、サーニャと共にやって来ていた。


 レプラコーンによって良質な酒の継続的な醸造が可能になっている。


 これで準備は万端だ。満を持して酒好きの技術者――ドワーフを呼ぶことができる。


 彼らについては実は諸説あり、実は人間と同じ身長などもあるのだが……俺が呼び出せるドワーフはひげもじゃ酒好きで少し小さいイメージ通りな姿のようだ。


 現在のドワーフ像は地球のとある有名作品によって、固定化されたとだけ言っておこう。


 ドワーフは魔物なのか? と言われると亜人のカテゴリな気はするが……まあ召喚できるのでいいだろ。人魚や魚人と似たようなものだ。


「ねえこれ重いから降ろしていい?」

「いいぞ」


 念のためにサーニャにワイン酒の子樽を持たせていたが重かったようだ。


 彼女はそれを自分の足もとの床に置いた。


「古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは神に与えられし腕、神話を彩る冶金の創造者……」


 俺の召喚に応じて目の前に魔法陣が出現する。


 そこからひげもじゃ背の低い爺さんが現れた。


 身の丈ほどある大きなハンマーを担ぎ、その身体は老人の見た目とは裏腹に筋肉の塊であった。


「ワシを呼んだのはお主じゃな。ほれ、まずはよこさんか」


 ドワーフは近くの壁にハンマーをかけた後、俺に片手を差し出してくる。


 いったい何を……と思っていると、ドワーフはサーニャの足もとにある酒樽を見ていた。


「サーニャ、酒あげて」

「いいけどコップないよ?」

「かまわん。そんな量ならかけつけ一杯じゃわい」


 サーニャは「うんしょ」と床に置いていた樽を両手で抱きかかえると、ドワーフの元へと運んだ。


 それをドワーフは片手でひょいと奪うと、拳で樽の上部のフタを粉砕して飲み始めた。


「むはぁ! これはよい酒じゃな! 神に捧げられるクラスじゃ!」


 ドワーフはすごく喜んだかと思ったら、更にガボガボと飲み続ける。


 そこまでその酒がうまいのか……俺はまだ十二歳だから飲んでないんだよな。


 レプラコーンは偉大……この世界に未成年飲酒禁止なんてないし、俺も飲んでみようかなぁ!


「ぷはぁ! ああ美味じゃった! よいぞ! ワシを雇う資格はあるようじゃのう!」


 ドワーフは空になった樽を床に置いてすごく大きな声で叫ぶ。


 鍛冶場中に響いてうるさいが……満足してもらったようでよかったよ。


「ワシはドワーフ。神話にも名高い武具や宝を造れるが、お主はワシに何を造らせるを望む? トールの鉄槌ミョルニルか? オーディンの使いしグングニールの槍か?」


 随分と仰々しい名の武器を出してくるなぁ……俺でも知ってるような神話のやつじゃん。


 ドワーフは真剣な顔でこちらを見てくるが、俺の答えに変わりはない。


「とりあえず丈夫な馬車とか作って欲しいかな。他にも色々と生活の役に立つものとか……もし可能なら沈没しない船とか……」

「なんじゃ欲のない。お主は神すら魅了する武器に興味はないのか?」

「あるけど……そもそもそういうのって特別な材料いるんじゃないのか? それに材料あったとして……全く同じものを造れるのか?」


 ドワーフが最高傑作とまで豪語するものだ。


 それはいくつもの失敗作を経て、クリティカルな成功の元に出来上がった作品だろう。


 それこそ偶然の産物かもしれないのだ。


 例えば日本の有名な茶器などは、そういった偶然によって希少価値が生えるらしい。


 塗った漆が焼いた時に、自然に垂れた紋様が素晴らしかったなどだ。


 彼も機械でない以上、全く同じ物を造るのは不可能では?


 俺の答えに対してドワーフは腕を組んで沈黙した後。


「……ぐわっはっはっは! その通りじゃ! お主は自分の身の丈を知っておるな!  気に入った!」


 高笑いして俺の背中をバンバンと強く叩くドワーフ。


 どうやら俺の答えはお気に召したようだ。頑固者な職人のイメージだがうまくやっていけそう。


「おっと、外してしもうたわい!」


 ドワーフは手元が狂ったのか俺の背中ではなくて近くの石の机を叩いてしまう。


 大きな音と共にテーブルに手形をえぐれができてしまった。


「おいおい気をつけろよ。石の机って高いんだから」

「ぐわはは! この机じゃわしらの作業にはどのみち耐えられんわい! それより酒のお代わりをくれ!」

「また後でな。今はあの樽しか持ってきてなくて……サーニャ?」


 俺とドワーフが談笑していると、サーニャが手形のできた石机と俺を見比べていた。


 そして少し首を傾げた後。


「……なんでもない。お酒もってくる?」

「おお! じゃがその前にドワーフがワシひとりでは足りんぞ。もう何人か呼ばんかい! 大丈夫じゃ! あの酒があればみんな満足するわい!」

「……呼ばないとダメか?」


 確かにドワーフが数人いたほうが、色々造ってもらう速度も上がるだろう。


 だが酒代が強烈なことになりそうでなぁ……もう少し街に人が集まってからでも……。


「当たり前じゃ! 馬車なり船なり、ひとりで造るとどんだけかかると思ってるんじゃ!」

「神話の武具とかも複数で造ってたのか?」

「あれは物が小さい上に一品物じゃろうが! 馬車なり船なりなら、いっぱい造るんじゃろ? ひとりでやってられるか!」


 ドワーフの言うことはもっともである。


 特に船なんぞひとりで造るものではないよなぁ……。


 そんなわけでドワーフをもう何体か召喚したのだが……。


「酒じゃぁ! 酒じゃぁ! 肉もよこすんじゃぁ!」


 ドワーフ二号がとっておきの干し肉を貪り食っている……。


「魚ぁ!? わりといけるわい! 骨のバリボリ感が嫌いじゃないわい!」


 ドワーフ三号が今朝獲れたアジのような魚を頭から噛み砕く。


「おい! この酒は美味じゃが明日からは他の種類の酒も用意するんじゃぞ!」


 ドワーフ四号が酒のおねだりまでしてくる……。


 ドワーフひとりひとりで食べ物の好みが微妙に違うの困るなこれ……酒好きなのは統一されてるけどさ!?


「おお、そうじゃ。ワシの名はブロックじゃ、ここのドワーフはワシが取りまとめるからの」


 最初に召喚したドワーフがそんな自己紹介をしてくる。


 ……個別に名前あるんだね。やっぱり魔物というより人だな。


「「「「とりあえずもっと酒をよこすんじゃ!」」」」


 ……都市アルダの名産品に酒売ろうと思ってたけど、ドワーフたちを含む魔物への献上品だけで蒸発しそうだ。


 とりあえずしばらくは酒が必要な魔物は呼べないな……。


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