第13話 酒の隠し味はレプラコーン!?
「これより都市アルダでは酒事業を本格化する!」
俺は酒蔵に四人ほどの人間を集めてそう宣言した。
酒……それは恐るべき魔力を持った悪魔の水。
「なんでおさけ作るの?」
「それはな、魔物に献上するためだ」
俺はサーニャに対して優しくつぶやく。
酒は魔物すら魅了するおそるべき力を持ち、酒好きの逸話を持つものはかなり多くいる。
特に日本の妖怪などは恐るべき怪異を酔わせて殺すやつがすごく多い。
清めの酒などの言葉もあり、通常の飲み物とは一線を画しているのだ。
それはつまり、魔物を使役していく上でも必須なものであることを示している。
「酒はいいが……俺らは漁師だぞ」
「酒なんて造ったことないぜ」
集めた者たちはそんなことを言っているが白々しい。
こいつらは酒を造ったことがある。何故ならば……。
「そうか。じゃあ聞くがお前らが散々宴会などで飲んでた酒はどこから仕入れている? 酒はそこまで安くないし、そもそもここまで持ってくる物好きはいないだろうが」
「うっ……そ、それは酒蔵の残りを……」
思い出して欲しい。こいつらはデュラハンとバルガスの決闘時も酒を飲んでいた。
だがこんな廃墟でどうやって酒を得ている? 死んだ港に商人が持ってくるはずもない。
ようはこいつらが自分で造っているんだ。でもそれがバレると困るから隠している。
酒の製造は許可制であり勝手に造ったら密造として罰せられるからだ。
だがそれは酒蔵ギルドの権益を守るためのものであり、今の帝都アルダに酒蔵なんぞない。
なので彼らの密造を責めずに実益をとることにした。
「だが俺も酒を飲めば記憶が薄まるかもしれないな。ふとした拍子に思い出す可能性は大いにあるが」
「えっ、それはどういう……」
「バカッ! 見逃してくださるって仰ってるんだ!」
これで俺の手足のように動く人的資源を確保できた。
逆らったら捕縛するぞと脅せる便利なコマだ。
「じゃあ早速だがお前たちには酒を造ってもらう。酒にうるさい魔物に献上するものなので上等に造らなければならない」
俺の言葉に対してエセ職人たちはビシッと背筋を伸ばす。
「へ、へい! 頑張ります!」
「はぁ? 素人に毛の生えた程度で人生諦め慰め酒造ってたお前らが、そんなよい酒造れるわけないだろ! 職人舐めんな!」
「へ、へいっ!?」
「お前らの酒で魔物様が気を悪くしたら、謝罪のために一族郎党縛り首だぞ! 無理なんだから無理と言え馬……愚か者ども!」
サーニャが構えていた罰金箱を床に降ろした……危なかった。
俺の激怒に男たちはポカンとした顔をしている。
だがこれでは困るのだ。出来ないことを出来ると言い張られて、結局無理でしたとか最悪だ。
「いいか? 何で俺が魔物を大量に召喚していると思う?」
「人間不信で魔物好きだから」
「違う。人間はできないことが多すぎるから魔物使ってるんだよ!」
人間はあまりに自己評価が過大すぎる!
霊の長である類とかどれだけ痛い奴なんだよ!
霊長の意味って万物の中で特に優れている者とかの意味だぞ!?
「つまり酒を美味しくする魔物を召喚する。お前らは丹精込めて必死に、手抜きせずに神に献上すると思って酒造ればいい」
「……え? 美味い酒を造る魔物じゃなくて、造った酒を美味くする魔物なんているんすか?」
いる。というか魔物とか妖怪の類って、本当に変わったやつがいっぱいいる。
百聞は一見に如かずだ、呼び出してさっさと酒製造を開始させよう。
「古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは悪戯妖精、小さく内緒にこしらえる……」
俺の召喚に応じて足元にすごく小さな魔法陣が出現する。
そしてそこから……緑の衣装を着たヒゲを蓄えたオッサンが現れた。
サイズは親指ほどだろうか、油断したら踏み潰してしまうだろう。
「ヒッヒッヒ」
レプラコーンは愉快そうな声をあげるが……耳を澄まさないと聞こえない。
身体のサイズに応じて声量も小さくなるようだ。
よく考えたらそりゃそうだよなぁ……アニメとかの妖精ってみんな声大きいのはご都合しゅ……これ以上考えるのはよそう。
「こいつはレプラコーン。妖精の類だ」
「ち、小さい……」
「こんなのが足元歩いてたら気がつかずに踏み潰しかねないべ……」
「やったら一族郎党潰すぞ。死ぬほど気をつけろ……まあ妖精が踏み潰されて死ぬなんてないと思うが」
そんな虫みたいに死ぬ妖精聞いたことないしな。
でも気を付けるようには指示しておく。
「こいつがいる酒蔵の酒は美味しいんだ。だからお前ら程度の腕でも、魔物をうならせるものが造れる」
「へぇ……こげな小さいのにすごいんだなぁ」
「レプラコーン様と呼べ。ちなみに酔っぱらっていたらクルラホーンなので間違えないように」
「……何で酔っぱらったら名前が変わるんですか?」
「知らん。でも人間だって結婚したら性名変わるだろ。元の名前で呼んだら不敬だろ、それと同じと思え」
「へぇ……」
職人(笑)たちはレプラコーンを見て感心している。
ちなみにクルラホーンになったら、緑の服が赤く染まるらしいが本当かは知らない。
これで酒問題は解決したな。
「ねえライ。このレプラコーン様はどうやってお酒をおいしくするの?」
「酒に浸かりでもするんじゃね? 出汁的な感じで」
ハブ酒とか土瓶蒸しとかあるしそんな感じじゃなかろうか。
だが男どもはドン引きしたような顔をしていた。
「ち、小さいとはいえオッサンの風呂った後の酒ですか!?」
「もしくは全身の毛穴から空気中に酵素でも出すんじゃね?」
「そ、それはそれで嫌だな……」
「面倒くさいな! もう酒が美味しくなる魔法使ってると考えておけ! どうせ妖精は人の目のあるところじゃ何もしないって相場が決まってるんだから! 知らなきゃ仏だ!」
大事なのは仮定ではなくて結果だ。
ようは食中毒など起こさずに酒が美味くなればいいのだから。
そもそも日本古来の酒は口はみ酒とかで、米を口にいれて戻しての唾液パワーで酒造ってたくらいだぞ。
小さな妖精が浸かった酒くらいでグダグダ言うな!
「ねえねえ。レプラコーン様のいる酒蔵のお酒はおいしいんだよね?」
サーニャはまだ気になることがあるようで、たどたどしく俺に尋ねてくる。
俺の唯一の心の清涼剤だ。サキュバスはユニコーンと喧嘩しまくりでキツイ。
「そうだぞ。おいしくなるんだぞ」
「それってレプラコーン様がお酒をおいしくしてるんじゃなくて、おいしいお酒の酒蔵にレプラコーン様が寄ってきてるんじゃないの?」
……俺は返答に詰まるのだった。
最終的になんか酒蔵で酒造らせてみたら、めちゃくちゃ美味しくなったらしいのでよし!
ちなみにレプラコーンへの報酬は酒である。自分で酒を美味くして飲むとはエコな魔物だなぁ。
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