第6話 レイスに乗っ取られた者は悲惨


 深夜、ライジュールたちの眠る小屋に二人の男が近づいていく。


「よいな? あの小僧を捕らえてバルガス様に売り渡す。お前はもうひとりの少女を逃さぬようにしろ」

「へい村長。女のほうは捕らえた後は好きにしていいんですよね?」

「構わない。だが……まだ十一歳の少女だが?」

「それが何か?」

「いや……なんでもない」


 村長は若干もう一人の男と距離を取りつつ、小屋の扉の前まで慎重に近づく。


 扉の取っ手を掴むとゆっくりと開き、中へと侵入した。


 そこには幼い子供が二人、スヤスヤとベッドで眠っている。


 その様子を見てほくそ笑む村長、鼻息を荒くするもうひとりの男。


 村長たちは持っていた縄を構えるが、天井から笑う者がいたのを最後まで気づかなかった





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「「あああああああぁぁぁぁぁ!」」

「!?」


 いきなり野太い悲鳴が聞こえて俺は飛び起きた。


 いきなり人間ホイホイに誰か引っかかったのか!? そう思いながら周囲を見ると。


「あ……あ……」

「おほー! いほー! あほー!」


 泡ふいている村長と、両手をバタバタと奇妙な動きをしている男がいた。


 二人とも目の焦点が合っておらず廃人にしか見えない。


「ケケケケケケケ」


 そんな二人にまとわりつくようにレイスが宙に浮いて実体化する。


 村長たちはものの見事に俺達に襲い掛かって、レイスに返り討ちにあったらしい。


「バカだなぁ、こんな状況で寝込みを警戒しないで寝るわけがないだろ。まあもう言ってもムダか」


 少し考えたら警備くらいいると分かっただろうに勝負を焦ったな。


 やはりバルガスが裏で村長に圧をかけていたのだろう。そのために気持ちが急いていたのだ。


 だがもう俺の勝ちだ。すでにレイスが取りついたので、こいつらは何もできない。


 そして朝になって広場に村人たちを集めて、この無様な村長たちを見せびらかした。


 彼らは俺たちに襲い掛かった時に、頭を打ってこうなったと説明している。


「とうとう村長も頭がおかしくなったか」

「もう年だったべな。もう片方は元から狂ってたもんだ」

「夢は自分の娘を妻にしたいとか頭おかしいかったべ」


 俺は襲撃者のうち村長しか知らなかったが、もうひとりもなかなかヤバイ奴だったようだ。


 寝込みを襲って来たことは、村長が夜に外にいたという証言もあってあっさり信じてもらえた。


「こいつらはバルガスと繋がり、この村を売り飛ばそうとしていたのだ! さあみんな、今後は私が村の長となる! 武器を持ってバルガスを打破するのだ!」


 もはや俺に反対できる者はおらず、この村を手中に収めることに成功した。


 そもそもこの村は俺の家の領地だったのだから、元のさやにおさまっただけとも言えるが。


 何はともあれレーム村の実権を握った以上、次はエルダ村の奪還を狙いたい。


 あそこもうちの領地なんでな! バルガスも魔物のエサにしてやるよ!


「まずはこの村を発展させて金銭を得る! その後にバルガスをぶちのめすぞ! 案ずることはない、俺達にはペガサス様を筆頭に魔物様がついている!」

「「「「「おおおおお!」」」」」


 俺の叫びに歓喜の声で答える村人たち。


 そうして広場の集会が解散した後、俺は村長の家の個室にいた。


 もう村長はいないのでこの家は俺の物だ。領主屋敷と呼ぶにはふさわしくないが、しばらくの拠点としよう。


 村長は独り身だったので残された家族もおらず気兼ねなく使える。


「さてと。じゃあバルガスに対抗するために金儲けをする必要があるわけだが……最もよい稼ぎ場所はどこだと思う?」

「…………?」


 サーニャは小さく首をかしげた。


 流石にこの質問ではよくわからないか。


「答えは都市エルダで金を稼いで、奴らを素寒貧にしてやることだ! そのために新たな魔物を召喚する!」

「!?」


 サーニャは驚きながらこちらを見てくる。


 ……少しだけ「性格悪くない?」なんて思われてる気がする。


 そんな嫌な予感を振り払うように首をぶんぶんと横に振る。


「今回召喚する魔物もな。すごくお買い得なんだ」


 そう告げながらいつものように、床に手をかざして呪文を詠唱する。


「古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは堕落の色香、性を弄ぶ艶なる淫魔……」


 そうして現れたのは人間の女性だった。


 ただし背中の腰あたりにコウモリの翼が生えていて、頭には二本の角がついている。


 服装はすごく露出度の高いボンテージ姿で思わず目を奪われてしまう。


 彼女は世界的な認知度も高い魔物だ。男性が一度はお世話になってみたい魔物ランキングNo1であろう者!


「ふふふ、お呼びいただきまして光栄ですわ。ワタクシはサキュバス、よろしくお願いします」


 サキュバスは丁寧に頭を下げてくる。


 その時に胸の谷間が上から見えてすごくエロい。


「…………!」


 思わずサキュバスの谷間を凝視していると、サーニャがポコポコと肩を叩いてきた。


 違う、これは生理現象なんだ。人間が呼吸するのと同じくらい仕方がないことなんだ。


「召喚に応じてくれて感謝する。実は早速頼みたいことがあるんだ。隣村の男に身体を売ると共に、厭戦気分を高めて欲しい。骨抜きにしてバルガスに従わないようにして欲しいんだ」

「あらやだ……実に嬉しいお願いしてくれるじゃない♪」


 サキュバスはすごく嬉しそうに微笑んだ。


 その美貌や仕草が凄くエッチだ。まだ十二歳になったばかりで性的欲求が低いであろう俺ですらクラクラする。


 この依頼によって都市エルダの民が、バルガスに従わなくなるのが狙いだ。


 元からあいつはほぼ個人の力で無理やり俺達を追い出した形で、領民たちの指示を受けているわけではない。


 領民たちを篭絡して戦意を奪うのは簡単だ。


 そうすれば……バルガスは自分の身ひとつでの解決を図ろうとするはずだ。


「そして日々の食料だが……俺が身体で払おう!」

「!?!?!?」


 すごく焦った様子のサーニャが俺の両肩を掴んで、勢いよくグワングワンと揺らしてくる。


 だがそんなことで折れる俺ではない!


「落ち着いてくれサーニャ。これは仕方のないことなんだ。サキュバスを使うことで都市エルダの金と戦意を奪って困らせて、バルガスにダメージを与える! そのためには俺の身体くらい……!」


 サーニャを説得するために、なんか必死に苦しんで悩んだ結果アピールをする。


 実際は全く迷ってなどいないし、むしろ気分はルンルンである。


 サキュバスに無料で相手してもらえるとか完璧じゃん!


 だが……。


「えーっと……ごめんなさい。ちょっと貴方相手は厳しいわね……」

「……え?」


 サキュバスは言いづらそうに謝ってくる。


 う、うそだ!? サキュバスと言えば男ならどんな物でも食う雑食!


 悪食でオールオーケー! 老若男問わずの男性の味方ではないのか!?


「そのうち娼館でも建ててもらえるかしら? そこで客と精をとって……」

「ま、まって……なんでっ、俺ではっ、ダメっ……なんですかぁっ!?」


 必死に絞り出した心からの叫び。


 それに対してサキュバスはすごく申し訳なさそうにした後。


「えーっと……その、男性ホルモンが足りないのよね」

「男性ホルモン」

「貴方の見た目はいいからたまにつまむならいいけど……ほらあれよ。お菓子を主食にはできないでしょ?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。


 これはつまり『お前は男としての魅力を感じない』と宣告されたに等しい。


 嘘だ……いや俺はこれから成長する! そうすればもっと男らしくなって男性ホルモンも。


「それとね。ちょっと忠告よ。貴方って魔物召喚に適した身体になってるのよ。それは豊富な魔力だけでなくて、身体の構造自体もなの」

「そ、そうなのか」

「それで魔物って男性を好むのもいれば、女性を好む魔物もいるでしょ? だから……貴方、このままだと両性になるわよ」

「両性」

「今の貴方は自分を男性と言い聞かせているから、かろうじて男だけど……油断したら両性になるわ。それどころか……メスイキでもしたら女性になって、二度と男性には戻れないわよ。魔物は女性を好むやつのほうが多いから、本来は身体は女性になるのよ」


 俺はその言葉を聞いてしばらく立ち上がれなかった。


 確かに俺の容姿は美少女だけどさ!? 身体の構造まで変にしなくてもよくない!?

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