言葉のかたち
島本 葉
一日目(序)
「あ…」
くっ、と喉につかえたように言葉が出なかった。
気恥ずかしさとか、気後れとか。自分でも説明しづらい感情に気を取られて、しまった、と思ったときには、もう遅い。
その言葉はタイミングを失って、宙ぶらりんになってしまった。喉の奥に飲みこまれてしまう。飲み込んだ? 喉の奥に引っかかった、ありがとうの言葉。
口に出す機会を失ってしまった言葉は、どこへ行くんだろう。
海に飛び込んだ人魚姫のように、あぶくとなって、切なく消えるのだろうか・・・。
彼も、感謝の言葉なんて期待してないのかもしれない。けど、伝えられなかった気持ち、伝えられなかった言葉が、わたしの喉に、ちくちくと刺さる。
「じゃね、バイバイ」
いつものように彼は手を振った。わたしもバイバイ、と手を振る。
いつもと同じ?
本当に同じだったんだろうか?
彼の表情はいつも通りだった? 口調は? しぐさは。少し、トーンが違ったような…。
小さくなっていく彼の背中を見つめながら、わたしの喉の奥のちくちくは、ずん、と重みをましていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます