第二十四話 氷の海のガレオン(7)

 勢いよく足を振り回してみても、ガタガタと左右に揺れながら、舌のない口を虚ろに鳴らすだけだった。


 仕方なく、海賊の顎先へ蹴りを入れる。フランツは一撃で相手の頭蓋を破壊できる体術を身につけていた。


 骨が砕け、手が足から引き離された。海賊の髑髏は粉々になって床へ砕け散る。


「お前は大丈夫か」


 オドラデクに振り返る。


 他の骸骨が迫ってきているので、テーブルの端へ移動した。


「な、何とか!」


 オドラデクに覆い被さっていた骸骨は、胸元から頭部まで縦に抉り抜かれていた。


 自分のことで精一杯で見ていられなかったが、また身体を糸に変えて切断したのだろう。


――よく切れる刃だ。


 オドラデクはフランツとは逆の端へ移動し、迫る骸骨たちに向い合っていた。


「オドラデク、剣になれ!」


 フランツは空の柄を差し向けた。


「えー……はぁ……やれやれ」


 オドラデクは自身の身体を解体させ、糸に戻って、柄に凝集して刃となった。


 刀身を取り戻したフランツは勢いよく振り回して、二、三の頭蓋を切り離した。それでも動きを止めないので、胴体が寸断されるまで何度も刀を振り下ろした。


 とことんまで砕ききって、やっと髑髏たちは動きを止めた。


「ふう」


 フランツは額の汗を拭き、刀を鞘に収めた。


「お前のせいで。余計な運動をすることになった」


 思わず毒突いていた。


「でも、色々発見があったんだから良いじゃありませんか」


 オドラデクは刃になったままで話し続ける。


「結局読めなきゃ意味がない」


 フランツは面白くなかった。


「この世界は広いんですから読める人も見つかるでしょう。あと、この船は明らかに妖しい雰囲気に満ちてますよね。早めに退いた方が身のためかも知れませんよ。それに他に探しても何も出ないと思います」


「お前にしては殊勝だな。もっと船の中を探ってみたいとか言うんじゃないのか?」


「このぼくでもこれはヤバいなってのはわかりますよ。ある程度は対処できるけど、やっぱり二人だと心許ない」


 そう言って柄を逃れ、元の姿に戻るオドラデク。


 フランツも敢えて何も言おうとせず、首を立てに動かした。


 帰りたかったのだ。


 それでも、周囲の部屋はとりあえず探索した。どこもかしこも埃まみれで、大したものは見つからなかった。


「やっぱりぼくの言った通りだ」


 オドラデクは自信満々に言った。


「戻るか」


 これ以上蜘蛛の巣だらけの廊下を進むのは流石に気が滅入った。またテーブルに飛び乗って、ロープに縋り付き、登ろうとした。


 ところが。


 ズサリ。


 縄を巻き付けていた木の板の出っ張りがポキリと折れ、フランツは尻餅を突いた。


「あららあ」


 オドラデクは情けなそうな声を上げた。


「クソっ」


 フランツは頭を垂れた。このままガレオンの中に閉じ込められそうな勢いだ。


 いつになく焦りと苛立ちを感じ始めた。


「うーん、困ったものですねえ」


 オドラデクはと言えばテーブルに腰掛けたまま大胆に足を組んでいる。あまり焦っている様子はなかった。


「お前のせいだ」


 フランツは睨んだ。


「え、なんで?」


 オドラデクは組んでいた足を開き、ぴょこんと坐ったまま跳ねた。


「あんな雑な結び方をするから崩れ落ちたんだ」


「でもあれ以外に結び方ってあります?」


「もっと板を何枚も補強できたはずだ」


「やらなかったフランツさんが悪いんですよー」


 オドラデクは悪びれる様子がない。

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