第二十二話 ピストルの使い方(7)

「おやおや、これは面白いことになった」


 顎先へ手をやりながらルナがズデンカの傍に立っていた。


「人の不幸を面白がるな」


 ズデンカは一応注意した。もちろん、ギイの死など悲しんではいなかったが。


「自殺したんだろうか?」


 ルナが屍体を検分していた。


 ギイはうつぶせに、目を大きく剥きだして、口を開けて草を掻き込んで死んでいた。


「アホか。自殺するタマかよ。殺されたに違げえねえ」


 ズデンカは断言した。


「君にしたらやけに言い張るね」


 こんな時、決め付けるのはルナと相場が決まっている。


「自分で死ぬとしたら動機とか見当たらないだろうがよ!」


 ズデンカは少し恥ずかしくなった。


「でも、殺されたとすると犯人がいる……容疑者は」


 ルナはキョロキョロ左右を見回す。


「わかってるだろ」


「ああ。もちろん」


 にっこりとした笑みが返ってきた。


 そして、ルナは笑顔を浮かべたまま、不安そうに控えるジュスティーヌとリュシアンへ寄っていった。


――元気になって良かった。


 その後ろ姿を見てズデンカはこっそり思った。


「さてさて、ギイさんは亡くなられてしまいました。となれば、犯人はあなたがた二人のうち、どちらかじゃないかって疑いも出てくる」


 ルナは両手を広げた。


「でも、私たちは!」


 二人は怯えきっているばかりだった。 


「木の棒か何かでギイさんを襲い、その後、射殺すれば簡単に殺せるでしょうね」


 ルナはあっけらかんと説明する。


 二人は顔を見合わせた。


「どちらかじゃなくてもいい。共謀したって可能性もあります。もともと殺すつもりでギイさんをサーカス見物の旅に連れていったとか」


 ルナは楽しそうに語った。


「そんなことしてませんよ!」


 リュシアンは怒鳴った。


「でも、ギイさんは殺された。それは事実でしょう」


 ルナが詰め寄る。


「でも、やったのは僕らじゃない。別の誰かです!」


「『僕ら』? ジュスティーヌさんがやってないって、断言出来るんですかー?」


 ルナは意地悪く言った。


「もっ、もちろんです。僕はジュスティーヌを信じます!」


「わっ、私もです。リュシアンは絶対ギイさんを殺していません」


「よろしい」


 ルナはパイプを取り出して煙草を詰め、火を付けた。


「では別の可能性を考えましょう。つまるところはこうです。誰か第三者が、ギイさんのピストルを奪い、そのまま射殺したと」


「誰だ?」


 ズデンカが近付いて来た。


「それがわかったら、もう事件は解決してるよ」


 ルナは煙を吹かした。


「お前の『幻解』でなんとかならんか」


「だってそれは殺した当人がこの場所にいなけりゃ無理なんだよ」


 ルナは残念そうに言った。


「もっとも。この二人が嘘を吐いているというなら、話は別だけど」


 冷たく見据えるルナに、リュシアンとジュスティーヌは身を竦ませていた。


「くそっ!」


 ズデンカは叫んであたりを探し回った。


「ふわぁー! 探しても無駄だと思うよー」


 ルナは欠伸をしながら言った。


 それは半分は正しく、半分は間違っていた。


 ズデンカは三時間近く暮れていく森を探し回った。


 しかし、何も見つからなかった。


 だが、諦めかけたその時、


 銃声が一つ。


「やはり、いたか!」


――真犯人が。


 ズデンカは緑陰を駆けた。


 生ける者の感覚を、その鼓動を聞き取ろうと、全身全霊を籠めて耳を澄ませながら。


 だが、続いた銃声はなかった。


 森じゅうに人のものならぬ吼え声が轟く。ズデンカは身構えた。

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