第十五話 光と影(5)
その様子を見てルナは相手をありがたく感じた。
――カルメンはわたしに何も借りを作っていないのに、むしろこっちがたくさん借りを作っているほどなのに。
ルナはカルメンから
――叶えられないままに死なれたりしたら、申し訳が立たない。
急行するカルメンの背中の毛を握り締めながらルナは思った。
流れ弾を浴びないようにまたカルメンの周りに硬い
樹々の間を縫って、軽やかに跳躍するメイド服を来た影。すなわちズデンカの姿を見たルナは、
「止まって」
カルメンに言った。
「君!」
木の枝に腰を降ろしたズデンカがルナを見た。
「ルナ!」
驚いたその額に銃弾が風穴を開けた。直ちに塞がりはするが。
「一体どこへ行ってたんだ!」
「話は後だ。とりあえず合流しよう」
ズデンカは足で枝を大きく蹴って地面に降りてきた。
「宿屋に引き返したんだよ。そしたら君が森へ向かったって聞いて」
「そのままそこにいろ! お前は銃弾を一発浴びただけで死ぬんだ!」
そう怒った声で言いながらズデンカはルナに近づいて無言できつく抱きしめた。
その頬はとても冷たく、寒がりのルナは少し震えてしまったが、むしろずっとそうしていて欲しかった。
二人はそのまま無言のまま抱き合っていた。
――二日しか離れていないのに。
そう思ってもルナは嬉しかった。にっこりと微笑んでしまう。
ただ、膜を張り続ける事だけは忘れなかったが。
「お二人さん、どうするの」
黒い瞳を輝かせながらカルメンは訊いた。
「こいつ誰だ?」
ズデンカは訝しげに訊いた。
「新しい友達だよ。カルメン、こっちが話に出てたメイドだ」
ルナは頑なにズデンカの名前を言わなかった。
「ズデンカだ」
ズデンカは渋り顔で述べた。
「おやおや、愁歎場ですか」
連発式の物々しい銃を持った中年の男が草を分けて近付いてきた。さっきからルナたちを付け狙ってきた魔弾の射手の正体らしい。
ルナはびっくりしてそっちを見た。
「申し遅れました。私は『詐欺師の楽園』席次三、ゲオルク・ブレヒトと申します」
ピンと跳ねた髭の片側を撫で付けながらブレヒトは言った。
「スワスティカの残党め、何がしたい?」
ズデンカは吐き捨てて睨み付けた。
「違います。私はハウザーさまに同調し、自らその仲間になった者です。以前は村の猟師にしか過ぎませんでした。シエラフィータ族の蛮行には、戦前からほとほと手を焼かせられていました。根絶が果たされなかったことは返す返すも無念です。ルナ・ペルッツさま。悪名高い貴女を捕らえ、ハウザー様の信念を達成することで目標達成にまた一段土地が付くことでしょう」
そう言うなり銃を構え、ルナに向かって発射した。
だが
「やはり銃では倒せませんか。私が猟師の頃に使っていた、古ぼけた銃よりはよっぽど高性能なのですが」
と言ってブレヒトとは銃を下ろした。
「気を付けろ、あいつは炎を使う!」
ブレヒトは掌を差し出した。そこには小さな炎の玉が集まり始めていた。
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